「うぅ・・・もう無理、寝たい・・・」
私の言葉を聞いていたリコが首を傾げた。
リコ、貴方も知ってるでしょ?私が昨夜寝てないことを。
実を言えば、昨日一睡もしてない。
“永倉屋”の改装に励んでいて、それに熱中したがために眠ることが許されなかった。
いや、許されていても眠れなかったと思う。
中途半端で終わらせたくないのが私の意志、仕方がなかった。
「ごめんリコ、テレビ・・・消しといて・・・」
無理だとわかっていながら、私はそう言って螺旋階段を登った。
「うわわっ、危な・・・」
あぁ、寝とけばよかった。
あの時寝ておけばリコは困ることはなかったし、何より、階段から落ちかけることはなかったんだから。
部屋に入り、ベッドに倒れこむ。
お日様のいい匂いがするベッドは、ますます私を夢の中へ誘っていった。
下の階で、消えてないテレビがニュースを告げていた。
この調子なら夕方まで起きない。早速寝息を立て始めた。
「あれ、志摩くん?」
学校から帰宅した私を迎えてくれたのは、ぎこちない様子の志摩くんだった。
この際どうやって家に入ってきたのかは無視しておこう。
「どうしたのー?」
お茶を入れようとキッチンへ向かった私は、思い通りにならなかった。
「なぁ、」
鞄を持っていたほうの手を掴まれ、それは力強く引かれた。
「え?」
なに?お茶いらないのかな?
と振り返ると、志摩くんはなんか思いつめた顔をしていた。
滅多に見れない表情に驚いたが、時期に私も釣られてしまった。
「・・・本当にどうしたの?」
とりあえずソファに座らせ、私も隣に座る。
なにかあったのかな。凄い考え込んでる。
いつもと違うし、志摩くん。
何で解るかって?これでも私は好きなんだから。
いつも見てたんだもん、すぐ解る。
「・・・あの、さ・・・」
詰まりながら出された言葉は、再び沈黙を誘った。
そんなに言いにくいことなのかな。
よろず屋が閉鎖したとか、香ちゃんが事故とか。
う〜ん、よろず屋が閉鎖なんてことはないよね、絶対。
香ちゃんが事故ったとしたら、こんな躊躇うことはないと思う。
「大変だ!!香ちゃんが事故った!!!」なんて言いながら大きく肩を揺さぶられると思う。
じゃあ、何?
「・・・あ゛――――もう!!!!!」
突如出された大声に、私は吃驚した。
きっとリコが居たら吼えちゃうと思う。・・・あれ?そういえばリコは何処行ったんだろ?
志摩くんはと言うと、頭をガシガシ掻いて葛藤してるみたい。
「ねぇ〜何があったわけ?」
なんか優柔不断っていうか、今日の志摩くんはいつもの志摩くんらしくない。
この調子が続くようなら、棍で殴ってやろうかと思ったそのとき、
掴まれたままだった手に力が入った。
「・・・あのよ、」
「だから、何?」
「・・・お前、好きなヤツとかいるのか?」
・・・・・はぁ?!
なんで躊躇った口からそんな言葉が出てくるの!?
はっ!まさか香ちゃんかが私が志摩くんのことを好きだってバラした!?
あいつら遂にやりやがったかぁっ!!!
いや、でも志摩くんだったら
「お前おれのこと好きなのか!?」
といった感じに、デリカシーもなしに訊いてくるに違いない。
・・・私、なんでこんなに志摩くんの行動が解るんだろう。
よく見てるからかな。
「・・・なんで?」
こういうと、「香ちゃんが言ってた」だの「が言ってた」だの言うと思ったから。
だけど志摩くんは真剣な表情を崩さないで、躊躇いがちに違う言葉を言った。
「・・・おれ・・・お前が好きだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
思ってもみなかったカウンター。
ど、どうしよう!!ここは「私も好き」とか言っちゃうべき!?
・・・いや、待て。待つのよ。
前にもあった、こんなこと。冗談よ、そう冗談。今回も軽いジョークな・・・
「・・・・・だからなぁっ、が好きになってんだよっ!!」
・・・嘘でしょう?まさか志摩くん、本気なの?
吹っ切れたように言う姿は志摩くんで、でも信じられない言葉を言ってた。
「・・・本当?」
「・・・そうだよ」
信じられない。だけど、欲しかった言葉でもあった。
油断をしてた私は、思わず涙をこぼしてしまう。
嬉し涙って言うのかな。喜んでたんだ、本当は。
「・・・あのね・・・私も、好き」
「・・・・マジ?」
「うん、大マジ!」
泣きながらでも、伝えた。
覚えてたのは、志摩くんの嬉しそうな笑顔。
・・・ゆっくり、瞼を開ける。
そこには、見慣れた天井が映っていた。
「・・・・・ん・・・」
身体を起こすと、胸元に涙が零れ落ちた。あれ、泣いてたんだ、私。
「・・・ゆめ?」
なんだ夢かぁ・・・でも、夢でよかったと思う私も何処かでいたみたい。
「お、起きたか?」
ふとドアに目をやると、入ってきたのはリコと・・・志摩くん!?
やばい!!!私絶対顔赤い!!!!!
「あっ、れ!?どうしたの!?」
まさかよろず屋閉鎖!?香ちゃん事故!?・・・告白っ!?
ドキドキして訊いてみた。するときょとんとした志摩くんは
「チャイム押しても出ねぇから、勝手に入ったぞ」
何か問題でもあったのかと思ったのか、少し驚いてもいたみたい。
「・・・、お前なんで泣いてるんだ?」
「・・・・・・・え?」
“志摩くんに告白されて嬉しくて泣いた”なんて言えない。
「・・・こ、怖い夢、見ただけ」
「怖い夢ぇ?そんなんで泣いてたのか?」
わははと笑う志摩くんに少しムカつきはした。でも本当のことは言えない。
いい夢だったと思う。
だけど、この後の状況によって私は“嫌な夢だ”と判断されてしまった。
「・・・さしずめ私は、夢の中に溺れた魚だわ」
「はぁ?何言ってんのお前」
「ちょっと詩人になってみたのよ」
私はベッドを出て、立ち上がった。