「よし、完璧!」
は鏡の前でポーズを取って、そう言った。
黒に綺麗なピンクの花が散らばっている。
精悍な容姿のは黒の浴衣を着ることによって、大人っぽさの影も残る。
子供っぽくない、でも大人っぽくない、丁度バランスの良い感じだ。
ふふふ、コレで彼女役は頂きね。
いつの間にか、仕事中のような熱意がこもっていた。
「よーし」
事前に3節に折り畳んだ棍が入るように巾着を作っていた。
何があっても、棍は手放せない。
「、今日もよろしくね」
キスをして、棍を浴衣と同じ柄の巾着に入れる。
財布・携帯も入れて、紐を縛る。
「よーし、準備は万端よ!」
は、リコに挨拶をして玄関を出た。
下駄でも結構歩けるものだ。
これを履いていても棍を回せる、と確信は持っている。
やがて、は待ち合わせの場所にたどり着いた。
あとは、志摩を待つだけだ。
しかし、なんかうっと惜しい二人組みがの周りをうろちょろしている。
「ねぇねぇ、キミ」
「一人で夏祭りに来たのォ?」
遂には声をかけてきた。
「待ち合わせです」
「そんなやつより、俺らと遊ぼうよ〜!」
「遅刻するようなヤツなんか、放っておきなよ」
ちなみに、時間の3分前。遅刻はしていない。
「ねぇ、無視なんかやめねぇ?」
ガシッと腕を掴んできた。
徐々に小さく震えてしまう。
なんで、浴衣を着てまでこんな目に遭わないといけないんだろう。
浴衣を着たから余計に声をかけられているのにも気付かず、の不機嫌は絶頂に。
反対の手で、の腕を掴んでいた手を掴む。
そして片足を払い、勢いよく回り込んで投げた。
ドンッと音が響く。
丁度、人がまばらになっていたときだ。
「ふぅ、浴衣でも出来た」
動きにくい服装でも棍が使えるということは分かった。
後は、これからだ。
「な、にするんだこの女!!」
「ちょっと可愛いからって調子に乗るんじゃねぇ!!」
そういって、立ち上がった男にまたしても悲劇が。
「調子に乗ってんのはお前だろうが!!」
誰かの見覚えがある飛び蹴りが見えた。
吹っ飛んだ男の後、が見たのは疲れたような、呆れたような、志摩の顔。
「、見てたぞ。いきなりアレは可哀想じゃねぇか?」
「あら、人のこと言えないじゃない」
来てくれることを信じていたのか、は手が震えてはいるが笑顔だ。
「コノヤロォ〜!!!」
もう一人の飛んでくる拳を避け、勢いよく蹴りを入れる。
男が呻き、倒れてしまった。
一発でK.Oだ。
「おぉ〜さっすが!」
はパチパチと拍手、讃えてあげた。
「コンテストの前に、綿菓子食べよ〜よ!」
「おぅ!俺はたこ焼きが食いてぇ〜!!」
精神年齢が子供な二人は、先ほどの出来事も気にすることなく目を輝かせた。
賑やかな屋台が並んでるところに、アナウンスが聞こえた。
『恋人コンテストを行います。出場者はステージ上にお越しください』
屋台のところにいた二人は顔を見合わせ、
「よし、志摩くん!行くよ!」
「あぁ、金一封はこっちのもんだ!」
気合十分で向かっていった。
ステージに向かうとき、ふと志摩が聞いてきた。
「ところで、何では燃えてるんだ?やっぱり金一封が望みか!?」
はううんと首を横に振り、「莉璃と飛鳥も出るから、負けられない」と言った。
「なるほどな」
志摩は茶化さなかった。寧ろ、やる気が起きた。
気合の入っているとだと、優勝も目前に思えて仕方が無かった。
ステージには既に莉璃グループと飛鳥グループがいた。
二人ともに微笑んでいるが、それは宣告だ。
『勝利宣告』を、も返してやった。
「番号は1番だって。さ、上がろう」
志摩と登り、楽しそうにはキョロキョロしている。
「おい、どーした?」
「ん?なんか楽しいなぁ〜って思って!」
は今、リコと遊んでいるときや、仕事中のような表情を見せている。
とても、面白そうだ。
『それでは、恋人コンテストを始めます!』
と志摩の熱い戦いが始まった。
『第1ラウンド!二人とも協力しあうのが愛です!と言うことで、カキ氷大食い対決!!協力して食べてくださーい!』
はそっと志摩に耳打ちした。
「志摩くん、いける?」
彼はニッと笑った。
「任せろ」
『よーい、スタート!!』
大きなカキ氷を、一斉に食べ始める。
も食べ始めたが、それよりも早いのが志摩だ。
がが〜っと食べ終わり、とても美味しそうだ。
「・・・早食いじゃないのに・・・お腹大丈夫?」
「あぁ、あれくらい余裕だな!」
志摩は楽しそうに言った。
『おーっと、義経・コンビ早い!!早く食べれた人から次のラウンドへ進んでください!』
マイクの音にしたがって、二人は前に進んでいった。
『さぁ、義経・コンビ一歩リードです。次に待ち受けるのは、恐怖!
怖がる女性を男性は上手くリードできるか!お化け屋敷対決!!』
の足が徐々にゆっくりになっていった。
その理由は志摩にも分かった。
二人の前に聳え立つのは、大きな屋敷。いかにもな雰囲気のお化け屋敷だ。
「・・・・・・・・・・・・・」
は恐怖のあまり、声も出ない。
「だ、大丈夫か・・・?」
すると、後ろから莉璃と飛鳥の声が聞こえた。
まだカキ氷を食べているが、がお化け嫌いなのを知っているので凄く余裕そうだ。
負けるわけには行かない。
は闘争心を再び燃やした。
「だ、大丈夫・・・行くよっ!」
「お、おぉ・・・」
心配する志摩をよそに、は入って言った。
悲鳴が聞こえるのはもうすぐだ。
「っきゃああああああっ!!」
「だぁーもう!!うるせぇ!!」
が叫ぶ度、志摩は両耳を抑えている。
「で、でも・・・怖いよぉ・・・」
さっきまでの威勢は全て消えうせ、志摩の後ろで震え上がっている。
「・・・いくぞっ!!」
「へ?」
突如聞こえた志摩の声。
そして、急に腕をつかまれ、ダッシュされた。
一気に出た出口では、訳も分からずは突っ立っていることになった。
「あ、あれ?」
「もうここは終わりだ。次に行くぞ!」
「う、うん・・・?」
引っ張られながら、は志摩を見た。
助けてくれたのだろうかと思ったが、すぐに金一封のためかと思い直してしまった。
『さ、大分苦戦したようですがようやくクリアしました。次のラウンドへ進んでください。』
二人はアナウンスの通り、走り出す。
「・・・・・・な、何コレ・・・」
「ゲッ!気味わりぃ・・・」
次の光景を見て、は思わず寒気が走った。
志摩も恐ろしく真っ青だ。
呆然と突っ立っていると、他の恋人達も到着した。莉璃や朱鳥のグループも居る。
アナウンスの陽気な声が聞こえた。
『次は、男性はナンパ野郎から、無事彼女を守ることが出来るか!ナンパ脱出対決!!』
・・・誰も先に出るものは無かった。
ケージの中には、たくさんの男がいたのだ。
かっこいい男、かっこ悪い男、太っている男、痩せている男・・・様々な男が犇めき合いながら待っていた。
ふと、勇敢な一組のカップルが恐る恐る入っていった。
すると、いっせいに男達が集まり、窒息寸前と言ったところか。
「・・・なぁ、」
真っ青な志摩が呟く。
「コレって・・・よろず屋の依頼みたいだな。金一封は依頼の報酬」
「ほんと・・・そう思いながら行ったほうが楽かもね、案外」
途端、の鳥肌が消えた。
こんなときこそ、使えるってものよ。
巾着に手を伸ばし、そこから出したのはいつもの棍。
三つに折り畳んだ『』が黒く光っていた。
慣れた手つきで組み立てると、長い棍が出来た。
「よっし、御用とでも思わなきゃやってられない!!」
「そうだな!」
志摩も楽しそうに指を鳴らしていた。
「御用改めだぁっ!!!」
大きな声が響き、みんながに注目する。
勿論、吃驚している莉璃と飛鳥もだ。
「コレを言わなきゃやる気がしないじゃない」
棍を構えて、ニッと微笑んだ。
バッとケージの中に入ると、一斉に男達が集まってきた。
「よっ!」
棍を降り、男達を倒していく。
浴衣を着ているにもかかわらず、邪魔になっていない。
クルッと回って横に振り、持ち直して斬るように振りかざした。
「おい、俺も混ぜろよっ!!」
志摩も中に入り、中にいる男達をたちまち蹴っていく。
の方はまるでダンスを踊っているように、華麗に棍を操っていた。
それは何処となく、刀を持っているようにも見える。流石、永倉新八の末裔と言ったところだろう。
ガシッと腕を掴まれても、彼女は動じない。
後に手が震えることを覚悟して、掴みなおして棍を思いっきりぶつけた。
そして、半分ほどの男を倒したところか。
アナウンサー、そしてカップル全員が呆然と見守っていた。
と志摩は背中合わせで止まる。
「敵わないのが分かったなら、そろそろ退けてくれない?」
棍を前方に差すと、徐々に道が割れた。
その間を二人は通り、最後に一言。
「あ、他の奴らは通さなくていいからな」
男達は、たちまち壁のように再び並んだ。
『・・・・さ、さて、素晴らしいコンビネーションを見せてくれました義経・コンビ!
も、もう守るどころかお互い楽しんでいましたね・・・
さっ、さて、義経・コンビ残すところ最後のラウンドです!!』
と志摩は悠々と歩いていったが、ふと、立ち止まった。
ピンクのハートの台が組まれている。そこに行けばいいのだろうか。
『最後のラウンドは、やはりカップルなので、愛を囁いてもらいましょう!ラブロマンス対決!!』
「な、なんだとっ!?」
「こんなの聞いてないよ・・・」
ハートの台に一応立ったは、そこで昨日莉璃や飛鳥と話していた内容を思い出した。
―――――――― だって、好きでしょ?志摩くんのこと。
―――――――― あんた、志摩くんが好きなのよ!
二人の言葉が脳裏に浮かぶ。
うっわ・・・意識しちゃう・・・
は顔を赤らめて、ちょっと下を向いていた。
志摩も顔が赤いだろう。
「な、なんていうもんだ・・・・?」
「わかんないけど・・・普通に・・・好きとか・・・?」
の返事を聞いた志摩は、息を吸って大声で言った。
「、俺はお前が―――――」
『タイムアーップ!!!!!』
「「んなっ!!??」」
アナウンサーから聞こえた声に、二人は驚いてしまった。
『時間制限があるんですよ、お二人とも!あのナンパ対決で随分時間を取ってしまったようですねー』
「・・・じゃあ・・・今までの苦労は・・・」
「ほんと・・・金一封もくれないの・・・?」
二人は、そのまま戦意喪失をしたようで、
「帰るか」「帰ろっか」
やってられないとばかりに、踵を返した。
でも、一つだけ分かったことがある。
の心境の変化だ。
私は志摩くんが好きなんだ、と思うと、頬が赤くなってしまった。
にしては、大進歩と言ったところだろう。
後日、莉璃と飛鳥から怒鳴り声を頂いたのは、言うまでも無い。