只今の時刻、午前10時20分。
 えー、うちの担任の遅刻記録がまた更新されました。





ごめん。先生遅刻した。





 普段ならもうとっくに授業が始まってるんだけど、うちのクラスは賑やかなまま。
 お妙ちゃんと近藤くんは追いかけっことかしてるし、神楽ちゃんは早弁してるし。
 桂くんは誰かに手紙を書いてた。・・・さっき覗いたら“エリザベス”さん宛だった。
 まぁ要はすっごく煩いけど、これには理由がある。

「なぁ、あのセンコーまだ来ねぇのか?」
 土方くんだ。なぜか銀八先生が嫌いなんだって。
「更新したねぇ、遅刻記録」
「そうなのかィ?は良く知ってますねィ」
「あはは・・・」
 土方くんにちょっかいを出している沖田くんの言葉に、苦笑いで答える。

 だって、私先生のこと好きだもん。


「静かにしろーヤロウどもォ」
 ガラガラーとドアが開き、のっそりと現れたのは待望の先生。
 白衣を羽織ってて、死んでる目に眼鏡をかけてる。
「先生ー遅刻!」
 なんて言ったのは私。
 すると先生は私の方を向いて
。俺はなァ、時には妥協も大切だってことを教えるためにわざわざ遅刻してんだよ
「そんなわけねーだろ・・・」
 土方くんの言うとおり、そんなわけない。
 だけど先生と話が出来たから、よしとしようかな。

 只今の時刻、午前10時26分。
 先生の遅刻記録が更新された。

 それから中途半端な授業も終え、早放課後。
「今日も楽しかったねー」
「はぁっ!?何処がだよ!!」
 なんて土方くんに突っ込まれたけど、私は本当に楽しかったんだけどなぁ?

ちゃん、このあと遊びに行かない?」
 ん?
 振り返ると、お妙ちゃんと神楽ちゃんが。
「いいねぇ!メンバーは??」
「私と神楽ちゃん!」
「行く!!」

 キーンコーンカーンコーン・・・
 呼び出し音が大音量で鳴った。
、至急担任の元まで来なさい』

「・・・、何やったアル?」
「何もしてないし・・・」
 あぁ、お妙ちゃんと神楽ちゃんと遊びに行く予定だったのに、行けないじゃん。
 なんて言いながらも、先生にまた会えるからかな、嬉しいんだよね。

「じゃあ行ってきまーす!」
 私は鞄も持たずに教室を飛び出した。
 タタタッ、と軽快な音を立てて階段を降り、すぐの職員室に向かった。
「銀八せんせー!」
 ガラッと勢いよく開けると、反射的に先生方の注目を集めることに。
 だけどその中に目当ての先生は居なかった。

「銀八先生知りませんでした?」
「さぁー?」
 先生さぁ、ちゃんと誰かに言ってから何処かに消えてよ。
 呼ばれた私はどうしていいのかわかんないよ・・・

 午後5時12分
 遅刻して先生が職員室前に戻ってきた。
「おー
「先生遅い。8分遅れた!」
「すまんすまん」
 なんて詫びるけど、全然感情こもってないし。
 まぁいいんだけどね。

「で、先生なんで呼んだ訳?」
 銀八先生は“煙の出るペロペロキャンディー”を持ったまま、
「理科棟の掃除を頼まれてくれねェか?」
・・・えぇ!?私一人で!?

 理科棟といえば、校舎に隣接する3階建ての棟。
 生物室や理科室などが詰め込まれている。

「物地だけでいいぞー」
「・・・物地だけでも広いじゃん・・・」
“物地”というのは、物理地学研究室。
 先生に連れられて、私はその教室に向かった・・・。

「ねー先生」
「んー?」
「私一人に手伝わせて、それはないでしょ?」
 先生は資料を片付けてる私を見ながら煙草を吸ってる。
「お前なァ、俺が見守ってやれば
百人馬力なんだぞ?」
「わけ解りません」

 なんて言いながらも、私は頑張って資料を整理してあげる。
 嬉しいの、なんか。
 褒められたい!だから頑張ってるわけよね。



・・・・・・それにしても。
、上もお願いね。」
「はぁっ!?」
 この教室、なんで壁中の棚いっぱいに資料がわんさかしてんの!?
 銀八先生は片付け嫌いだってことがわかったような気がする・・・

「ったくもー・・・」
 左右に動く梯子を寄せ、上りながら整理を続けた。

 それにしても、此処までやったなら綺麗にしたいじゃない。
 机は綺麗にしたから、棚から落ちかかってる本も表紙を揃えて置いていった。
ー」
 下から聴こえた先生の声。
 あぁ、二人きりなのに色気もない(涙)
「なんですか?」
「スカートの中見えてんぞ」
「・・・へっ!?」
 丁度真下に、不敵に笑ってる先生の姿が。
「うそぉっ!?」
 このエロ教師!!!と罵倒して両手でスカートを押さえた。
「おまっ、両手を離すな!!」
「え?ぅあっ・・・」

 ぐらぁっと宙に向かって傾いた私の身体は、重力に逆らうことなく落ちていった。

「っひゃああ!!
・・・あれ?

 ドサッと軽い音がしたと思ったら、視界は真っ白いものでいっぱいになった。

「ったく、なにやってんだァ?」
「ご、ごめんなさい・・・」

 どうやら落ちてきた私を銀八先生は受け止めてくれたみたいで。
「・・・で、先生降ろして」
「えーヤダ」
「ヤダってあんた大人でしょう?」
「よし、大分綺麗になったな。じゃあ帰るか」

 なんて言ってそのまま部屋を出た先生。
 タバコの匂いが凄くする。

「え、ホントに降ろしてよ銀八先生!」
「あのなー、朝も言ったろ?」
「え?」

 ニコーッとすごい意地悪そうな表情で、
「俺はなァ、
時には妥協も大切だってことを教えてんだよ

 ・・・それって意味可笑しいって!!


「ホラ、鞄何処だ?
「え?あぁ、教室に忘れてた」
 ・・・って、今なんて言った?

「先生今名前で呼んだ!?」
「あー?3秒前のことなんて先生しらねぇ」
「はぁっ!?」

 カンカンッと軽快に私を持ったまま先生は階段を降りていく。


「おや?ー??なんか大人しいなァオイ」
「・・・もぅいい・・・」
「そーかそーか」


 憎まれ口を叩いてても、顔は正直なんだ。
 だから、先生の胸に埋めていた顔は見られたくなかったの。
 きっと・・・私の顔が真っ赤だと思うから。



 やばい。

 私、この人のこともっと好きになっちゃった。