戦闘種族の割に、私は体力・腕力共に無い。
扇子さえあれば全て補える。扇子さえあれば風が使える。
でも、裏を返せば扇子が無くちゃ戦えないのよね。
こんな在り来たりの状況もあったりするから、なんだか情けなくなる。
しかもこんなときに好きな人の名前が浮かんだりするのよね・・・恥ずかしい。
あーもう土方さぁん、助けに来てよ!!
扇子が無ければ女の子
今日は原稿を持っていかなきゃいけなかったから、急いでた。
だから、いつもの背中の重みがあったら何かと都合が悪かった。
「やばいっ!!もうこんな時間!!」
バタバタと準備をしてたとき、銀ちゃんがソファから言った。
「チャンさー、もうちょっと静かにしてくれない?」
「無理!!あと30分で締め切りなの!」
「30分だと?まだまだじゃねぇか」
「アンタが言うとますます機嫌悪くなる!!!」
一喝して、再び準備に取り掛かる。
実は今の今まで執筆してたから出掛ける準備してなかったんだよね。
「あーもう!!」
準備が終わり、いつもなら出掛ける前に扇子を背負うんだけど・・・
チラッと見たのを銀ちゃんが見てたのか、
「お前急いでるときも背負って行く気か?」
「確かに・・・重くて走りづらいかも。扇子置いて行っても大丈夫よね!」
このときまんまと銀ちゃんの言葉を信用して、背負わずに家を出て行った。
後に考えたら、此処で銀ちゃんの口車(?)に乗せられなかったら・・・なんて思った。
残り0分。
このまま走っていったら余裕で間に合うかも!!なんて気持ちで走っていたそのときだった。
ドンッ!
「わぅっ!!」
誰かにぶつかった。
鼻を擦りながら上を見上げる・・・げっ、天人だ。
「おい少女、何処を見て走ってるんだ」
明らかにトラ顔の人達は、私を睨んで言った。
「トラさんごめんなさい、じゃ」
再び走ろうとしたけど、グイッと腕を掴まれたら、止まらざるを得なくなる。
「トラさん?そりゃ我々に言ってんのか」
「我々の何処がトラだ!何処かの葛飾柴又生まれのオヤジに言えッッ!!!」
何この人たち。あーもう時間ないのに!!
実を言えば、私は天人が大嫌い。
“なんで”と聞かれたら返答に困るけど、兎に角嫌い。
だからトラ顔だろうがなんだろうが至近距離がイヤなのに!!
「とりあえずなんですか。早く文句言ってくださいよ」
不満気な顔いっぱいで言ってやった。
するとそれが挑発に思えたのか、トラ顔の天人が怒って言った。
「なんだその言い草はァァ!!我々は茶斗蘭星から来たんだぞ!!!」
「だからなんですか?」
茶斗蘭星だって??知るわけないっつーの。
お、やる気だ。
トラ顔の天人たちがキレたのがわかった私は、少し距離をとった。
「あーめんどくさい」
こっちは時間が迫ってるのに・・・カマイタチで一発ね。
そう思って背負ってる扇子を・・・あれ??
「あれっ!?あれれ!!?」
手は空を仰ぐ・・・扇子が無い!?
「・・・あ゛っ!!!!」
『扇子置いて行っても大丈夫よね!』
つい10分前の言葉を思い出した私は、硬直した。
「オイ、怖がって硬直したぞ」
「今更怖がってもなぁ。やるぞ!」
トラ顔の天人はジリジリと近づいてくる。
あ〜しくじった・・・この状況、どう切り抜けよう?
走ったところで捕まるのがオチ。つか、逃げたくないし。
だけど扇子がないと何も出来ないんだって!!
少しずつ近づいてきやがる。
こんな在り来たりの場面、まだ存在してたんだ。
そして、私の乙女な部分も存在していた。
「覚悟するんだな、少女よ!」
「我々に刃向かうとこうなるんだよ!!」
至近距離に近づいた奴らは手を上げた。反射的に目を瞑る。
こんなとき、来るはずも無い・・・好きな人の名前を叫んじゃう。
土方さん助けてよ!!!
「どーなるんだァ?刃向かうと」
ふと聴こえた、聞き覚えのある声。
次に聴こえたのは乱暴に暴れる音だった・・・でも、私に危害はない。
恐る恐る開けると・・・そこにトラ顔の天人はいなかった。
「」
目前に居たのは、瞳孔が開ききった土方さん。
「あれ・・・どうして、ここに・・・?」
「あー?巡回中だよ」
ほんとだ。土方さんは真選組の制服を見に纏ってる。
「大丈夫だったか?」
ほんとに本物かなぁ?
「・・・オイ。なんなんだ」
ペタペタ触れてみると、(怒ったけど)やっぱ本物だ。
「いいタイミングで出てきたんで、幻かと思いました」
「んだとコラ。もう助けてやらねーぞ!」
そんな憎まれ口を叩くくせに、助けてくれる土方さんが好きなんだけどね。
足元にさっきの天人が居たなんて、そいつが立ったなんて死角にいた私にはわからなかった。
逸早く気付いたのは土方さんだった。
「伏せろ!!」
「えっ!?」
言われるがまま私は即座に伏せた。
「死ねェェェェェァァア!!!!」
トラ顔の天人は持っていた刀を抜いて土方さんに振り下げた!
金属音がぶつかる音が響いた。
素早く抜いた土方さんの刀とぶつかり、天人の刀は弾かれた。
さすが土方さん・・・副長なだけあって、かっこよかった。
瞳孔が開いた目で睨んでる。
「廃刀令っつーのを知らねぇみたいだな」
後に総悟くんが合流して、トラ顔の天人の尋問が行われた。
「さすが土方さん、さんの危機を察知したんですねィ」
「テメェに言われたくねェよ!!!そっから覗いてたのは誰だったんだよ!!」
「オレじゃないですぜ」
「ほぉ、お前みたいな変な金髪は他に見ねぇんだが??」
総悟くんと土方さんのコントに笑いながらも、私もきちんと言っておいた。
「土方さん、2度も助けてくれて有難うございました」
「あァ、気にするな」
そういってハタと止まる。
「・・・、お前確か戦闘種族だよな?」
「えぇ・・・扇子があれば倒せたんですが・・・」
私が扇子を背負ってないことに今気付いたのか、少し吃驚して土方さんは瞳孔が開いてた。
「・・・そうか。出歩く時は持ち歩いとけよ」
「はい。身に染みて思いました!」
「俺の傍にいる時はいいけどな」
「え?」
ボソッと呟いた一言を、不覚にも聞き逃してしまった。
「土方さん、なんて言いました?」
「何でもねぇ!!」
変なの。土方さん耳まで赤いや。
「キザですねィ、土方さん」
私の隣で冷たい目線を送っていた総悟くんは、きいてたみたい。
「なっ、総梧!!!なんでお前聴いてんだ!!!」
「偶然耳に入ったんですぜ」
「んなわけあるかァァ!!!!テメェ今度こそ斬ってやる!!!」
「・・・なんて言ったんだろ??」
土方さんと総悟くんの追いかけっこを見てた私は一人、疑問があったりして。
また総悟くんに訊いてみようかな。
・・・そういえば、何か忘れてたよーな・・・?
いつの間にか近くにいた総悟くんが荷物を指を差していった。
「ところでさん、原稿は届けなくていいんですかィ?」
「っひゃああぁぁ――――――――――っっっっ!!!!!!!!!!」
「どうした!?」
総悟くんを追いかけてた土方さんは止まって私の方に駆け寄るんだけど、
「土方さん・・・今、今何時ですか・・・?」
「今?今は4時18分だ。あ、オイ?!」
放心状態だった私は土方さんのことなんて頭に入ってなかった。
じ、時間が18分も過ぎてる・・・幾ら好きな人でも、それより仕事を優先しちゃうって!!!
「担当さんごめんなさ―――い!!!!!!」
「!?なんなんだ!?」
ダッシュで出版社に向かった私を、土方さんが不思議そうに見ていたのは言うまでもない。
「・・・総梧、アイツ、なんなんだ?」
「さんはこれから他の男とデートでさァ」
「何ィィィ!!!!!!」
この日一番瞳孔が開いたのを私は見てなかったりして、ね。