私の職業は小説家。
 今までいろんな本を書き上げて出版したり、今は雑誌の連載も抱えてる。
 自分で言うのもなんだけど、『天才』って謳われてるんだよね。
 名前は「 」って言うんだけど、知らない?
 実は、私の身近な人も知らなかったんだよね。





私の本職な〜んだ?





「ひっじかったさーん!!」

 私は今日も一冊本を持って、屯所内を駆け巡る。
「こんにちわ〜!!」
 勢いよく障子を開けると、そこには呆然とこっちを見てる人物が。
「いたっ!!」
「・・・・・・」

 あ、手に持ってるチャーハンを見れば、これから昼食っぽいみたい。



「ねぇ土方さん、チャーハンくらいまともに食べようよ」
「なんだと?これが
俺流まともな食べ方だ」

 私がチャーハンと判断したのは、端っこの
僅かをみたから。
 真ん中から、
黄色いの(マヨネーズ)が満遍なくかかってる。

「ま、そんなことはどうでもいいんです」
「じゃあ訊くな」
 うわ〜パクパク食べてるよチャーハン・・・いや、
マヨネーズ
 ・・・じゃなくて、私は手に持ってた本を見せた。




「土方さん、今月も一冊出たんですよ〜」
「あァ?」

 土方さんが見た先に、私は表紙を見せる。

『トリックスター』、一晩考えてつけたタイトルなんだよね。

「いいですか?よーく見てください!著者のところ!!」
「あーうるせぇ!!わかったっつってんだろ!?」

 土方さんに睨まれても、私は微笑んだまま。

 だって、ちゃんと
『私の本職』を知っておいて貰わないとね。







 これは、総悟くんに聞いたお話。
 実は私、総悟くんに執筆した本を渡してるんだよね。
 で、それを読んでたとき。

『総悟、見廻り行くぞ』
 偶然土方さんが総悟くんの部屋に入ってきたんだって。
 でも総悟くんはそのとき私の本を読んでくれてて、
『土方さん一人で行ってくだせィ』
 と、ぶっきらぼうに言ったんだって。

『テメェ仕事ナメてんじゃ・・・総悟、お前本なんて読むのか?』
 意外そうな土方さんの声に、総悟くんは呟く。
さんの為ですぜ』
?なんで本を読むことがのためになるんだよ』
 ぶすっとした土方さんの表情を総悟くんはまじまじと見たんだって。

 その表情は少し吃驚したようでもあったらしい。


『・・・さんの仕事が何か知ってますかィ?』
の仕事だと?んなの踊り子に決まってんじゃねェか』

 確かに私、演舞が好きだから踊り子してるけど・・・これが本職じゃないってば。
 総悟くんも訊いたときには本気で吃驚したんだって。

『こりゃあたまげた』
『なんだとォォ!?テメェ何が言いてェんだよ!!!』

 総悟くんは、手に持ってた本を土方さんの目の前に出した。
 それにはちょっと土方さんも吃驚したんだって。

『土方さん、なんて書いてあるか解りやすか?』
『あァ?・・・ラック。

 ・・・その時持ってた本のタイトルは「Rack」。そっちを読んじゃったなんてね。

『その下は見えませんかィ?』
 ニヤリと笑うと、土方さんはムキになったように怒鳴ったらしいよ。
 だけど・・・吃驚した。

・・・だと!?』

 そりゃあそうでしょ。

 私が著者じゃなくちゃ、その作品は誰が書くの?


 それ以来、私の本職が小説家だって解ったんだって。









「じゃあそれ総悟くんに渡しておいてくださいね」
 新刊を渡し、土方さんの前で原稿を開く。

「・・・オイ」
「へ?」
 顔を上げると、訝しそうな土方さんの顔があった。
「いいか、今から二つ質問をするぞ」
「はい」

 彼は人差し指を立てた。

「一つだ。なぜお前は総悟に渡すモノを俺に渡すんだ?」
「土方さん、密かに読むだろうと思って」
なんだとォォッ!?お前俺を軽視しすぎだろ!!!!」
「ハイハイ」

 普通怒鳴られると怯えるかムッとするかだけどね。

 別に土方さんって怖くないんだよなぁ・・・だから笑顔のまま。

「で、もう一つはなんですか?」
 土方さんは中指も立てた。
「もう一つは、なんでお前は人の部屋で自分の仕事をしようとしてるんだ?」

 確かに、私は総悟くんのために本を持ってきて・・・その日、土方さんの部屋で仕事をする。

 はぁ〜・・・鈍いんだよねぇこの人。


「さぁ?自分で考えてくださいね」
 それだけ言うと、怒鳴りそうな土方さんを置いといてから再び仕事に取り掛かった。


 全く、鈍いよね。




 少しでもお話がしたいから、総悟くんにじゃなくてわざわざ土方さんに本を届けてんじゃん。

 それに少しでも一緒にいたいから、土方さんの部屋で仕事までしてるんじゃん。


「土方さん、もっと状況に鋭くないと副長が務まりませんよ」
「何ィ?」

 睨んだっておんなじです。

 私が睨みたいくらいなんです。



 その日の仕事中、私は執筆じゃなくて
『土方さんに自分の気持ちをわかってもらうこと』に専念してたりして。