真選組屯所に咲いている桜が満開になった。
 と言っても、一本だけだからお花見は出来ないけどね。
 桜が大好きな私は、いつも見に行く。
 ・・・土方さんに逢いたいという思いもあるけどさ。





舞踊れ桜の精





「こんにちわー!!」
 私の声に隊士たちが振り返った。
さん、こんにちわ!」とみんなが返してくれた。
「おぉちゃんじゃないか!!!」

 縁側で転んでいた近藤さんが起き上がって、私の方まで来てくれる。
「こんにちわ、近藤さん。ところで・・・」
 あの人がいないなぁ。

 辺りを見回してた私の心情がわかったのか、近藤さんはにやけながら
「トシか?トシなら裏庭に居るぞ!」
「本当ですか?」
 なら行って見よう。
 近藤さんにお礼を言って、私は土方さんがいるほうに向かった。



「あ、いた」
 土方さんは一人で大きな桜の木を見上げていた。
 ・・・かっこいいなぁ・・・
はっ!見惚れてる場合じゃない!!

「土方さん」
 呼ぶとその目は私の方に向かれた。
「オゥ」
 、と呼ぶその声が好きなんだろうなぁ。
「何してるんですか?こんな所で」
 土方さんは私から一度目を桜に向け、再びそれは返された。
「何ってアレだ、桜見てんだよ」

 私も桜を見てみる。
 満開で、はらはらと落ちる花びらがとても綺麗。

「ご一緒していいですか?」
「あぁ。お前これを見に来たんだろ?」
「あ、バレてます?」
「まァな」

 隣に座ってみる。
 やっぱりここから見る桜はいいなぁ。舞い落ちる花びらとても綺麗。

「・・・そうだ」
 黙って見てようかと思ったんだけど、私はまた立ち上がって背負ってる扇子を降ろした。
「何だ?」
 瞳孔が開いている目がきょとんとしてる。
 扇子をザッと開き、私は持ち直した。

「桜と一緒に舞を踊るのもいいと思いませんか?」

 それだけ言って、私は扇子を回しながら踊り始めた。
 桜が私と一緒に踊ってくれてるみたいで、とても気持ちがいい。
 土方さん、私は貴方のためだけに踊ります。

 黙って見てくれてる中、私は少しの時間だけ踊った。




 踊り終えると、一人分の拍手が聴こえてくる。
「相変わらず上手いなお前」
「有難うございます」

 もう暖かいから、厚着してると暑い。
 扇子で扇ぎながら隣に座った。
 桜は尚もひらひら落ちる。
 まだ、満開。


「はい?」
 ふと呼ばれ、私も返事を返す。

「明日も踊ってくれねぇか?」
「・・・喜んで」




 桜が舞散る日、私は一緒に舞い踊った。
 それ以来、私は木の下で踊った。
 桜が散るまで、踊った。


 貴方のためだけに、心を込めて。