総悟くんさぁ、持って行くんなら言ってよね。
 別に貸さないって言ってないし。





正しい扇子の使い方





「あれっ!?」
 起きた私の第一声はコレ。
 実は屯所に遊びに来てたんだけど、気付いたら眠くなってたわけ。
 少し寝てたけど、目が覚めて起き上がったのよ。
 でも・・・
「背中が軽い!」
 手を当てても、普通に背中が触れる。
 確か・・・背負っててたよね?

「せっ、扇子は何処!?」

 私は、絶滅寸前の胡蝶族の一人。
 大きな扇子が特徴で、いつも持ち歩いてるの。
 その扇子を使って風を操るんだけど・・・無くちゃ困るもの。
「どっ、何処にやったっけ!」
 焦って部屋中を見回したけど、何処にもない。

 ・・・って言うか、ここは何処?

「っ真選組よね!」
 ダダダッと走って障子を開ける。
 あまりに素早かったのか、通りかかろうとしていた山崎くんがこっちを見て仰天している。
「・・・さん?!」
「山崎くん・・・ってことは、此処は真選組屯所?」
「ど、どうしたんですか??記憶喪失ですか!?」
 山崎くんは本当に吃驚したのか、硬直したまま動かない。
 だけどそんなことに構ってられる程私は暇じゃないの!!

「ここ何処!?」
「えっ?!さん
やっぱり記憶喪失ですか!?
「何言ってんの?」
 山崎くん、なんで私が記憶喪失よ。

 よく見たら、此処は総悟くんの部屋だった。

「山崎くん!!総悟くんは何処!?」
「えっ?
えぇ゛っ!?お、沖田隊長は・・・」
 それだけ言って、山崎くんは下を向いた。
「・・・山崎くん?」
「わかりません!!」
「へっ?」

 ・・・でも、明らかにわかってるでしょ。
 下を向いて目が泳いでるって。総悟くんに口止めされたとか、そんなところかな?

「山崎くん、知ってるでしょ?」
「いっ、いえ!!」
「・・・土方さんに言うよ?
ア・レ♪
“アレ”っていっても、私は何も山崎くんの秘密を握ってない。
 鎌を掛けただけなんだけど、途端に山崎くんはブルブル震えた。
 効果アリ!何か土方さんに隠してたんだ。
「・・・に、庭に・・・」
「ありがとっ!!!!」

 震える山崎くんを置き去りにして、私は急いで庭に向かった。
 きっと総悟くんが持っていったんだと思う。
 なんで扇子を持っていったんだろう?


 答えはすぐに解った。

 庭に行くと、何か煙が上がっていた。
 そしてそこに総悟くんがしゃがんでて・・・扇子を持ってる。

「総悟くん!!」
 走っていくと、総悟くんも立ち上がった。
さん、起きましたかィ?」
「何で扇子持ってんの?」
「ぁ、少しお借りしやした」

 枯れ葉の集まりから煙が出てた・・・扇子で扇いでたのかな?

「何やってるの?」
「これですかィ?」
 もういいかな、と近くに置いていた棒を持って中を探り始めた。
 少し経って、抜き出した棒の先に付いてたのはさつまいも。
「実は、さんが眠っているときに近藤さんがさつまいもを貰って帰ってねぇ。
 さんが起きたら食べれるように焼いてたんでさァ」

 ・・・そのために、扇子を持って行ったんだ。

「火を早く焚くために扇ぐものが欲しかったんで、扇子をお借りしやした」
 扇子を持っていった理由を述べてくれたけど、私にはもう解っていた。

 しゃがんだ総悟くんの隣にしゃがみこむ。

「・・・で、出来た?」
「もちろん。どうぞ」
 総悟くんから渡された焼き芋は、とても温かかった。
「それにしても、早く出来ましたねィ」
 とぼやく総悟くんに、満面の笑顔で言ってあげた。


「そりゃあ胡蝶族の扇子だもん!」

 後にそこに真選組の隊士が集まって、焼き芋パーティを開いた。
 総悟くんと扇子のおかげで、とても楽しい時間が過ごせたっ!!!


 その頃、山崎くんはまだ総悟くんの部屋の前で震えてたんだって。