土方さんのことがとってもとっても好きなの。
だから、やだなぁ・・・
ちょっと逢えないだけでこんなにも寂しくなっちゃう。
出張帰り
「はぁ〜もぅ・・・」
執筆を続けていた手を止める。
だって、これ以上打てないんだもん。
人の恋愛話なんて、私が満たされてないとムカついてくる。
「あんなこと言わなきゃよかったよぉ〜・・・土方さぁん・・・」
数日前を酷く呪いたくなる。
なんで私は平気ぶったりしたんだろう。
「・・・え、京都?」
土方さんの部屋で聞いたのは、出張の話。
少しだるそうに「あぁ・・・近藤さんの代わりに行って来る」って言った。
「そっかぁ・・・京都かぁ」
遠い。一瞬でそんなことは解った。
「土産買ってきてやるから・・・、お前土産何がいいんだ?」
「・・・・・・」
「?チャン?」
ホントは呼び方を変えたところまで全部聞こえてた。
「・・・えっ?あぁ、お土産はねー簪がいい!」
行かないで。私のところにずっといて。
そんなこと言えなかった。
きっと困った顔をする・・そんな顔見たくなかった。
精一杯背伸びをして、平然を装った私をみた土方さんは、少し間をおいた。
「・・・解った。買ってきてやる」
「有難うございます!」
あぁ、また笑顔作っちゃった。
あそこで“行かないで”って言ったら行かないでくれたかな。
それはないか。私より近藤さんだもんね。
「・・・ハァ〜・・・」
執筆は次の言葉で結ばれる。
私だって大好きな人がいるんだもん。小説の主人公二人に嫉妬なんてしない。
「・・・土方さんに逢いたいなぁ」
カレンダーを見る。
明日、帰ってくる。
すぐ帰ってくると思うんだけど、とても辛い。
「遊郭とか行ってたらどうしよう」
土方さんに限ってそんなことはないと、信じてしまう。
そんな私がなんか可哀想になる。
不安になったりするんだよ、土方さん。
どうかわかってよ。
それだけ私は貴方が好きなんだから。
「さん、お客さんですよ。」
スッと襖が開き、笑顔の新八くんが入ってきた。
「うん・・・って、なんで新八くんそんなに笑顔なの?」
てめぇ、私がこんなに悲しそうなのに笑顔になってんじゃねーよ。
なんて思ったけど後に私は訂正する。
「さんも喜ぶと思いますよ」
「え?」
あとから思えば、新八くんは私のために喜んでくれてたんだね。
玄関の扉を開けると、そこにはちょっと照れた真選組副長さんが。
「・・・あれ?あれ!?」
今日帰ってくるんだったっけ??
私土方さんが好きとか言っといて日付分かってないじゃない。
「よ、よォ」
「土方さん、いつ帰ってきてたんですか!?」
扉を閉め、私も外に出た。
中には新八くんや神楽ちゃん、銀ちゃんもいたんだもん。中に入れない。
「ん?さっきだ。」
「さっき?明日じゃなかったっけ??」
「・・・わりぃか?早く帰ってきて!」
「へ?」
あ、また赤くなった。
「に逢いたくて早めて帰ってきてやったんだよ!!」
「・・・へ?」
いつもクールな副長さんが、照れて拗ねた子供のようになってた。
「・・・うっそぉ」
すっごい嬉しい。
「オイコラ。オメェ喜んだりしろよ」
「充分喜んでます!!!」
人目なんか気にしなかった。
下からお登勢さんが見てようが、コッソリ銀ちゃんも見てようが、関係なかった。
思いっきり抱きつくとふらついた土方さんが後ろの格子にぶつかったみたい。
「おまっ、いてぇよマジで!」
「あ、ごめんなさい。」
上を見て、微笑んだ。
「でも、嬉しい?」
土方さんは吃驚したような表情をしてたけど、手を私の背中に回した。
「決まってんだろ?」
無邪気に微笑んだ貴方が愛しい。
照れた表情が愛しい。
土方さん、貴方が愛しい。
私は“愛しい”って言葉を容易に使わない。
だけど、ただ一人・・・土方さんだけにはとてもよく使ってるんだよ。
「オイオイ多串くん、そんなに強く抱き締めたらチャン壊れちゃうよ〜?」
ふと聴こえた方を私たちは見たら、ドアをちょっと開けて銀ちゃんが覗いてた。
「なっ・・・」
めちゃくちゃ恥ずかしかった私は思わず顔を逸らしてしまった。
だけど土方さんは嘲笑って、
「を護れるのも抱き締めれるのも俺だからな。嫉妬か?オイ。」
・・・銀ちゃんには悪いけど。
ちょっと・・・いや、かなりかっこよかったです土方さん。
確かに傷付いてしまう日とかあるかもしれない。
だけど土方さんは不器用なんだってわかってて、そこも愛しいから大丈夫だよ。
ちょっとの時間だったら我慢する。だから、
帰ってきたらこうやって抱き締めてね。
・・・・・・なんて恥ずかしくていえないけどさ。
「そーだ土方さん、簪買ってきてくれました?」
「・・・・・・わりィ」
「・・・マジ?」
「土産話ならどォだ?」
「結構です」
こんなやり取りを聴いていた銀ちゃんは一人爆笑してて、赤面した土方さんに斬られそうになってた。
私は大して簪のことは気にしてないんだけどな。
だって、土方さんが帰ってきてくれた。
それだけで充分だって思うからね。