手を握ったら、実感できるの。
あぁ、この人なら私を幸せにしてくれるって。
この大きな手で愛を包み込んでくれるって。
結局、私は貴方に夢中なのね。
視界は違えど
「ぅわぁ〜〜万華鏡だぁ・・・」
チーズケーキを買いに来ただけなんだけど、ケーキ屋さんの前にあったお店で止まる。
とても綺麗な万華鏡。
クルクルと回すといろんな世界が見えるようで、私が好きなものの一つなんだ。
いいなぁ、欲しいなぁ〜!でも、値段がねぇ。
「うぅ〜ん・・・チーズケーキも買わなきゃいけないし・・・」
でもこの万華鏡が『買って!』って言ってるような気がして、手放せない・・・
「オイ、なにやってんだ?」
ふとかけられた声。
チッ、誰だよこんなときに・・・と、戦闘覚悟で振り向くと。
そこにいたのは、意外な人。
「あれー土方さん!?どうしたんです?!」
「それはこっちの台詞だ」
呆れながら見る土方さんは、あの黒い隊服じゃなくて私服だ。
かっこいいなんて思う辺り、私はあの土方さんに恋をしてることがわかる。
「なに唸ってたんだよ」
「へっ!?唸ってました!?」
「無意識かよ!!」
綺麗にツッコミを入れてくれた土方さんは、ふと私の手の中にある万華鏡を見た。
「・・・買うのか?」
「あっ、え、いや!違いますよ!」
かっ、買わない買わない!つか買えない買えない!!
いとも簡単に離してしまった万華鏡は、少し名残惜しいけど・・・仕方ないよね。
「チーズケーキ買いに来たんです。よかったらご一緒しますか?」
土方さんは、「ん?あぁ、」と言って、
「先に行っといてくれ。あの店だよな?」
「え?はい」
変な土方さんだなぁ。
ま、いっか!先に行っておこう!!
「・・・っていうか、土方さんに逢っただけで嬉しがっちゃってるよ」
恋だなぁなんて思いつつ、ケーキ屋さんに向かった。
「えぇっ!チーズケーキ無いんですか!?」
売り切れ・・・マジで!!??もっと補充しててよ!!!!!!
万華鏡といい、ケーキといい・・・今日はついてないなぁ、もう(涙)
がっくりしてお店を出ると、丁度土方さんと出逢った。
「?ケーキはどうした。」
「・・・売り切れ・・・でした・・・」
めっちゃ哀しい・・・沈んでたとき。
「これやるから元気出せ」
「へ?」
ポンッと頭の上に乗ったもの、それは・・・
「・・・これっ!!」
「欲しかったんだろ?」
優しく頭をポンポン叩かれた私は、貰ったものを凝視してしまった。
「万華鏡・・・高くなかったですか?!」
さっき見てた、紅かったり蒼かったりする綺麗な万華鏡。
土方さんはしれっとした顔で「そうかァ?」って言うし。
「・・・ありがとうございます!!」
ケーキなんてもう頭の中から抜けていた。
万華鏡を覗き、クルッと回す。
キラキラ回る世界が、一層私の想いを大きくさせていった・・・。
「オイ」
「へ?」
土方さんは真剣な表情で
「見ながら歩くと怪我するぞ」
「・・・確かに」
だったら、と私は手を差し出してみた。
「土方さん、導いてください」
「ハァ?」
ちょっと照れたように驚いた土方さんは、少し黙って・・・
「仕方ねぇなぁ、転ぶなよ」
ギュッと繋いでくれた。
万華鏡を覗いていると、いろんな世界が見える。
だけど、土方さんが手を繋いでてくれるから・・・私は魅入られずに済む。
光に当たって綺麗に済んで見えたり、たまに暗くなって濁って見えたりするけど、
私は繋いでる手の方が大事なの。
「ねぇ土方さん」
「あァ?」
「私、土方さんがいつも何考えてるのかわかんないんです」
「・・・お前、喧嘩売ってんのか?」
「違いますよ」
だから、“心が覗けたら良いのに”って思ってたんです。
でもいーや。手のぬくもりを通してわかった気がしたから。
・・・さすがにそこまで言えなかったけどね。
私が見てる紅い世界、土方さんが見たら何色になるんだろう。
万華鏡って神秘的だけど、私は土方さんと同じものが見たいなぁ。
「ありがとうございます」
この言葉には二つの意味があるの。
一つは「万華鏡を買ってくれたこと」、二つは・・・「出逢えたこと」。
すると彼は笑いながら、「お前は恐縮しなくていいんだよ。寧ろしてたほうが怖ぇぞ」って言ってくれた。
“恐縮はしない方がいい”かぁ・・・
今なら、言えるかな。
「私ね、土方さんが好きです」
万華鏡は、これからの私たちも輝かせてくれていた。