さんにはいつも、自分自身の道を歩んで欲しいんでさァ」
 最近、総悟くんはよくこの言葉を言う。
 きっと、“自分の死に囚われず生きて欲しい”という意味だったんだろうね。





Scare Little Boy





「こんにちわー!!」
 今日も元気良く真選組屯所の門をくぐった私が見たのは、バタバタと部屋に向かう隊士たちの姿。
「ん?どうしたんだろう??」
 会議でもあるのかな?なんて思いながら、私は遠慮なく中に入った。

っ!!!!」
 大声で呼ばれたから振り返ると、そこにいたのは血相を変えた土方さん。
「あ、土方さん。どうしたんです??」
「今お前に連絡を入れようと思ってたんだよ。いいか、落ち着いて聞けよ・・・」

 ・・・え?
 土方さん、今なんていいました?

「総悟くんが・・・倒れた?」



 私は総悟くんと付き合ってるの。
 もう、ずーっと仲がいいんだ。
 だけど最近、総悟くんが日に日に弱っていくように思えた。
 咳が多かった。
 そして、最近よく言ってた言葉があった。

 嘘じゃないの?偶然日頃と症状が一致しただけじゃないの?
 夢であって欲しいと思ったけど、心当たりがあった私にはそう思えない。

・・・実はなァ、俺ら総悟から口止めされてたんだが・・・」
 言い難そうな土方さんの言葉は、一層私を傷つけた。
「・・・結核にかかってたんだ、あいつ」
「・・・・・・けっ、かく・・・?」
 土方さんの話によると、3ヶ月くらい前に総悟くんが血を吐いたんだって。
 結核というのは血を吐いたらすぐ死んじゃうんだって。




「・・・嘘でしょ?」

さんの踊りはいつも綺麗ですねィ』

「・・・嘘だぁ、だって昨日まで一緒に・・・笑って・・・」

さんは、俺の生きる意味でさァ』

「・・・あっ、今日エイプリルフールとかでしょ?・・・で、そこから総悟くんがでて・・・」

『偶然じゃねぇや。俺がさんに逢いたくて偶然を装ってただけですぜィ?』

「・・・・・・・・・死ぬ、なんて・・・」


今までのことが走馬灯のように現れてくる・・・
 やだ・・・消えろ。
消えろ!消えてよお願いだからっ!!!

「・・・。とりあえず総悟の部屋行くぞ」
「・・・・・・はい・・・」





さんにはいつも、自分自身の道を歩んで欲しいんでさァ」
 やけにいつも言ってたこの言葉。
 その度に私は笑いながら
「やだなぁ総悟くん、もう歩いてるよ?」って言うんだ。
 だけど総悟くんは微笑んで言い返すの。
「いや、さんはいつも助けを求める人のために歩くはずですぜ」
 例えば・・・と、目に入った小さな男の子を指差す。

「もしあの子供が困ってたとしやす。さんは必ず手を差し伸べるでしょう?」
「もちろん。困ってた人を助けてあげたいからね」
「ほら。俺なら見向きもしやせんぜ?」
「ひどっ!!総悟くん、今の話あの子まで聴こえてたみたいよ?」
 怖がってた男の子に笑顔で手を振ってあげると、総悟くんはふてたように言ったのを覚えてる。
「そりゃねぇや、さん。俺だけのさんでいてくれねぇんですかィ?」


 あの頃の私たちは、幸せの後には必ず苦しみが来ることを知らなかったんだろうね。





 総悟くんの部屋には、いっぱい隊士が集まっていた。
 近藤さん、山崎くん・・・みんなが総悟くんのお布団に集まってる。
 中心では総悟くんが咳き込みながら座ってた。・・・近くの洗面器には、たくさんの血が。

「・・・総悟くん」
 私の声が聴こえたのか、総悟くんは顔を上げた。
 そして隊士たちが道を開けてくれた。
さん・・・来ちまったんですかィ・・・」
 弱弱しく話す総悟くん・・・私だってそんな総悟くん見たくなかった。
 ゴホゴホッと大きな咳をして・・・最後は血をいっぱい吐いた。
 真っ赤で、鮮明で、白いお布団はすぐ赤く染まった。
「沖田隊長!!」
 隊士たちが騒ぐ・・・この光景は、嘘じゃないの?

 バタッ、と倒れこみ、とてもしんどそうな総悟くんは初めて見た。
 もう・・・永くない。素人の私でもわかった。
 どうしよう。涙が止まらないよ。


、さん」
 精一杯の声に私は頷く。
「・・・笑ってくだせィ・・・」
「総悟くんっ・・・」
 逝かないで、私を置いて逝くなんてやめて。
 何度も言うのは心の中だけで、声にならない。
 大好きだった。愛してた。
 それだけでも伝えたいのに、言葉が出てこない。
 ただ・・・総悟くんのために笑顔になったくらい。だけど、絶えず涙は流れてる。

 ゴホッゴホッと血を吐きながらも、総悟くんは言ってくれた。
 どんなに小さな声でも、囁いたような声でも、私には聴こえてた。
「・・・愛してた、貴女を・・・」

 その言葉が、最期だった。

「・・・総悟くん?・・・総悟、く・・・」
 血で染まってても構わずに手を握った。
 まだ暖かいけど、力がはいってない。





「・・・いやぁぁぁぁあああああっっっ!!!!!!!」





 泣き疲れていただけ。
 問いかける場所もなく、迷いながら・・・躓いても、立ち止まれない。

 もう冷たくなった手を離すことは出来なかった。
 ありふれた夢なんかじゃなくって、現実。


さんにはいつも、自分自身の道を歩んで欲しいんでさァ」


 総悟くんが正しかったよ。問題だってない。
 パッと手を離し、力のない手は地に堕ちた。
 赤い血はもう黒くなっていた。


 もう、振り向かない。
 囚われないで生きていく。
 だから、上から見てて。私が自身の道を見失わないように。