ゴロゴロとソファでだらけてる。
暇なのに、することがないの。
「総悟くんに会いたいな〜・・・」
「好き」の魔法
ふと、そばにあった紙に目をやった。
「んー?なにコレ」
疑問符をつけながらも、私は読み上げて気付いた。
「『奇跡、広い世界で、少しずつ、運命が変われば』・・・あぁ、コレ」
懐かしそうに眺めて、もう1回口に出して言った。
これ、前に総悟くんと電話したときだった。
手が暇だったから詩っぽく文章を並べてみたんだっけ。
「奇跡・広い世界で少しずつ運命が変われば・・・あなたに『好き』といえるのに」
なんちゃってね。
完成させて、笑顔になった。
午後一番の風が吹きぬける。
風の香りに乗って何か教えてくれた・・・え。
ガバッと起き上がり、ドアの方を見る。
それは突然のことで、ただ見ることしか出来なかった。
ピンポーンとチャイムが鳴り、私の心を躍らせた。
「総悟くん?!」
勢いよく開けると、そこに吃驚してて・・・でも、会いたかったあの人がいた。
「さん、よくわかりましたねィ」
「だって、風が教えてくれたんだよ」
「なんだそりゃァ」
総悟くんだ・・・私が大好きな総悟くんが来てくれた。
「でも、どうしたの?」
ぬか喜びかもしれない・・・一応聞いてみた。
総悟くんは微笑んで、私の右手をとった。
「さんに触れたくて、来てしまったんでさァ」
「えっ?」
思わず顔が真っ赤になってしまった・・・
上手いよねぇ総悟くん、そうやって私の心を『好き』でいっぱいにするんだもん。
総悟くんに手を握られ、連れて行かれたのは何処かの草原。
つか、かぶき町の近くにこんな草原があったんだ・・・風がとっても気持ちいい。
「巡回中に見つけたんでィ。さん、こういうところ好きでしょう?」
「うわぁ〜すごい!!」
右から左まで緑で覆われた土地は、久々に見た気がする。
なんだかとっても懐かしい・・・。
私たちは、そこでいろんなことを話した。
どんな話をしたかって?
それは私たちの秘密だよ。
あ〜この出来事に鍵付けたい!!!
そして、草原の緑は徐々に赤くなり、やがて空を込めて真っ黒になった。
「そろそろ帰りましょうや」
「うん・・・そうだね」
ホントはね、もっともっと話がしたかったんだ。
総悟くんと話すことは、私の心の中の『好き』を増やす魔法なんだから。
「さん、楽しかったですかィ?」
「うん、もちろん!総悟くんと居るといつも楽しいよ」
「そいつぁ良かった!」
総悟くんも嬉しそうに笑ってくれた・・・
こんな日々が続くわけない。
いつか総悟くんにも『好きな人』が出来て、私とこうやって二人きりにならなくなる。
『好き』って言いたいよ、でもこの『関係』を崩したくない。
私は、心の中で『総悟くんが好き』って言った。
あーあ、もう家に着いちゃった。
土方さんには毒づいてる総悟くんも、優しいから私を送ってくれたんだね。
「今日はありがとうね」
「さんのためでさァ。また行きやしょう」
「うん!!」
やがて、総悟くんの背中が遠ざかる。
『好き』の魔法は解けるどころかもっとかかってるよ。
いま、伝えなきゃ!
「総悟くん!!!」
叫んだら、彼は振り返ってくれた。
「あのね、世界中の言葉を集めても足りないんだけどね!!」
“総悟くんが好き!!”
この言葉より、総悟くんの言葉を先に聞いた。
「さんが好きですぜ」
そう遠くもなかった距離、私の耳まで届いた。
「・・・・・・え?」
急に言われて吃驚したけど、総悟くんは微笑んだままだった。
「・・・私も総悟くんが好き」
「そうだと思った」
呟いたけど、総悟くんの耳まで聞こえてたみたい。
数日後、再びあの紙を見つけた。
『奇跡・広い世界で少しずつ運命が変われば・・・あなたに『好き』といえるのに』
「奇跡は起きるもんだよねぇ・・・」
私は微笑み、ササッと書き加えた。
「あっ、もうこんな時間!屯所に行かなきゃ!!」
『運命は変わったよ。永遠より長い時間の扉を共に開けたいね』