真選組の屯所に泊まった時の私の日課。
それは、朝食の準備とある人を起こすこと。
他愛のないことなんだけど、私はこれが少し大変・・・。
たまには洋食をあなたに
朝起きると、寝癖を直したり顔を洗ったりしてみる。
だけど真選組の皆さんは起きてこないの。う〜ん・・・いつも忙しいもんね。
「・・・よしっ!」
一人渇を入れ、そんな皆さんのために朝食を作ってあげるんだ。
いつもは銀ちゃんたちに作るんだけど、演舞の日は真選組の皆さんに食べていただく。
今日は何を作ろう・・・って、考えるのが大好き。
でも、実は決まってるのよね。
「・・・よし、作ってみよーっと!」
台所に立った私は、冒険をしに行くような笑顔を浮かべて取り掛かった。
多分隊士たちは始めて食べるんだろうなぁ・・・なんて思いながら。
小説の担当さんに教えてもらった、『洋食』ってやつ。
食パンを焼いて、すとろべりーじゃむっていうのを塗るの。
銀ちゃんと神楽ちゃんに作ってあげたら、絶賛だったんだ。
・・・気に入ってくれるかなぁ・・・って不安になるけど、私は手を休めない。
そして出来上がった『洋食』。
結構簡単なのよね。
「お、ちゃんいつもすまないなぁ」
丁度出来上がると徐々に隊士さんたちが起きて来るんだ。
「近藤さん!いつもお世話になってるんで、コレくらいどうってことないですよ!」
「そうかぁ??」
とか言いつつも、近藤さんは嬉しそうに笑ってくれる。
「・・・ちゃん、コレはなんだ??」
「やっぱ初めてでしたか?」
パンとかジャムとか、近藤さんは吃驚してる。
「『洋食』ですっ!甘いの嫌いですか?」
銀ちゃんは甘党だから大のお気に入りなんだけど・・・
すると近藤さんは、すごく美味しそうな目を向けながら首を横に振った。
「たまにはいいなぁ、こういうの。ちゃんじゃなきゃ作らないだろうしな」
「よかった!」
近藤さんの次は、土方さんが訝しそうに見た。
「おい、・・・。コレはなんだ?」
「だから、『洋食』です。担当さんに教えてもらったんですよ〜♪」
やっぱり訝しんでる。
だけど、この一言で大丈夫よね。
「・・・言っときますけど、銀ちゃんは美味しそうに食べてくれましたよ」
「何ィッ!?」
土方さんって何かと銀ちゃんと競いたがるんだもん。
「・・・マヨネーズかけても良いか?」
「・・・・・・はい?」
・・・そうきたか。
なんて思った私は、ふと閃いた。
そういえば担当さん、マヨネーズのアレンジも教えてもらった!
「ちょっと待っててくださいね!」
「なっ、オイ!?」
土方さんのお皿を下げ、私は急いで作ってみる。
数分後、焦りを見せていた土方さんの前にお皿を置く。
「どうぞ!マヨネーズを乗せて焼いてみました!」
「おぉ〜〜!!!」
すっごいマヨネーズの匂いと、オマケで乗せてみたベーコン。
土方さんはすっごい気に入ったようで、近藤さんと同じく美味しそうに食べてくれた。
「・・・さて」
次の私の日課に行きましょうか。
隊士さんたちの嬉しそうな笑顔を見ながら、私は部屋を出た。
次に来たのは総悟くんの部屋。
此処までパンの香りがする・・・美味しそうだなぁ〜。
総悟くんも気に入ってくれたらいいんだけどね。
「総悟くん!!朝だよー!!!」
スパーンと障子を開けると、まだ布団の中の総悟くんはぴくりとも動かない様子。
冷たい風に乗って、美味しそうなパンの香りも布団に向かってるというのに。
「ほら、起きてー!今日は洋食を作ったんだって!!」
揺さぶってもダメ。
コレはいつものことだから分かってる。
眠ってるフリなんでしょ?いつだってそれで私を脅かすんだもん。
「も〜〜!!」
布団を剥いでも目は閉じたまま・・・あれ?
「・・・総悟くん、今日はアイマスクしてないの?」
此処でいつも私は『またアイマスクしてるよ・・・私までおちょくることないじゃんか!』なんて言う。
けど、今日は珍しくしてないみたい。
「なくしたのかな?」なんてね。
「・・・このやろう。女の私よりも綺麗な顔しやがって」
確かにいつも精悍な顔してるって思ってたけど・・・寝顔が凄い可愛い。
女の私が思うくらいなんだから・・・。
「ねぇ〜起きてよ!」
総悟くんの上に馬乗りになってみても、動かない。
これ以上どうやって起こそうかな・・・なんて考えてたとき。
「え?ぅわあっ!!」
グイッと腕を引っ張られ、視界は180℃回転。
今はなぜか眠そうな総悟くんの顔と天井が見える。
「・・・俺は起きてましたぜィ?」
「やっぱり・・・やられた」
なんて思いつつ、眠そうな総悟くんを見ながら微笑んでみる。
「・・・さん、この匂いは何ですかィ?」
そういえば・・・というように障子の方を向く総悟くん。
「今日はね、担当さんに教えてもらった洋食を作ってみたの。近藤さんも土方さんも大喜びよ」
「へぇー」
そんだけですか。
ちょっと悲しくなるなぁ・・・なんて思ってた私はふと気付く。
「ちょっ、なんで手を取るの?」
右手を掴み上げてた総悟くんは、呟いた。
「さんの右手、凄い甘い匂いがする」
「え?」
・・・あぁ、そういえばすとろべりーじゃむをつまみ食いしたっけ。
「じゃむが付いたのかも」
「じゃむ?」
紅い色を見つめた総悟くんは、人差し指を口に含んだ。
「え。・・・ちょっ!!!」
まさか口に含むなんて!!と抜こうと力を入れたんだけど、総悟くんの力のほうが強い。
「ひゃっ・・・ちょ、なにしてんの!」
舌を使い、人差し指を舐めるキミはとても美味しそうな笑顔を見せた。
「さん、甘いですねィ」
放した途端、この言葉。
微笑んだ私は、目の前の貴方に口付ける。
甘い甘いすとろべりーの味がした。
どうやら総悟くんも、すとろべりーじゃむが気に入ったみたい。