大丈夫、怖くないよ。
 ・・・一つ、怖いとすれば。
 先生に逢えなくなるのだけは嫌だなぁ・・・。





布で包まった恋心






、ヤベェ」
 此処は学校内。因みにと言うのは私のことね。
「銀八先生?」
 銀八先生、と言うのは目の前の恋人。・・・担任の先生なんだ。
 此処は3年Z組の教室内。
 教卓で二人で話してても、他のクラスメイトの声でわからない。


「実はな、教頭が感づいてんだよなー」
「・・・え?」
 それってそんなに呑気に言うことじゃないと思うんだけど。

「よし!此処を出るぞ!!」
「へっ!?えぇっ!?」
 突然グイッと引っ張られ、私は先生と教室を出た。
 それでも何もざわつかないから、気付かなかったのかなぁみんな。


「ちょっ、ちょっ、先生!」
「なんだ?」
「何処に行く気よ!!」
「んー・・・」
 ぐいぐい腕を引っ張りながらも、先生は答えてくれた。
「空き教室?」
「・・・そこで何する気?」
「まぁ気にするな」
「んなっ!!!」

 なんなの!?
 先生がさっき言ってたことってかなり大切なことだと思うんだけど!?
 でも引っ張り返しても負けちゃうから、大人しくそのまま空き教室に入れられた。
 教室内には誰もいない。まぁ当然よね、開いてるんだもん。
 一番端っこの奥に連れて行かれた私は途端、先生に唇を塞がれた。

「んっ!?」
 だっ、ダメダメこんなとこじゃ!!!教頭先生にバレちゃうって!!!

 必死に胸を押し、先生はやっと離れる。

「なっ、にすんの!?」
「何ってキス」
「それはわかってるよ!」
 ・・・なんなの一体!?
「先生さぁ、教頭先生にバレそうなんでしょ?私との関係が!!」
「・・・は?」

 え?先生、なにその反応?

「『は?』って?!先生どういうこと!?」
 きょとんとした銀八先生はとんでもないことを言った。




「俺は、
『自習時間が多すぎる』ことを感づかれそうになってたんだけど?」
「・・・は?」

 あ。
 さすが先生、同じ反応をするわ、これ。



「なによそれっ!!」
 怒鳴った声も空しく、銀八先生はニヤ〜ッと恐ろしい笑みをして
チャンは何を想像したの?」
「うっ゛・・・銀八先生、わざと!?」
「さぁ〜、先生は知りませんよ〜」
「嘘だっ!!」

 ・・・言いあっても、仕方ない。
 私は一息ついて、思っていたことを口にした。

「そうよ、銀八先生が考えるとおりのことを考えてました」
「えっ?それってどんなこと?」
(コイツ・・・)先生と私の関係がバレたかってこと!」
 いちいち言わせやがって、このやろう!!




 でも笑っていた銀八先生はふと真剣な表情に変わった。
、もしバレたら怖いか?」



 ・・・・・・愚問でしょ。
 私は力なく微笑んだ。

「怖くなんかあるわけ無いじゃない・・・」
 でも、一つ浮かんでしまった。
「あ、唯一つ、怖いことがあった!」
「なんだ?」

 手を伸ばし、銀八先生の手を握る。

「先生に逢えなくなったら、怖い」
 きっと先生もそうでしょ?
 こういうのは大人・子供関係ないと思うんだよね、私。

 案の定先生は吃驚した目をしたけど、すぐにそれは死んだ魚のような目つきに戻った。

「確かに、俺も怖いわな」
「でしょ?」

 ギュッ、と抱きついてみると、
「おぉ?嬉しいねェ」なんて言いながら先生は抱き締め返してくれた。
 コツ、コツ、コツと響く音に気付いたのは先生。

「ふぁっ!?」
 いきなりカーテンを広げて、自分ごと私を包んだ。
「なに?先生!」
「人、来る」
 じゃあ離れたら良いのに。
 そう思うかもしれないけど、私はそう言わなかった。



 一層抱き締め、一言。


「先生とは運命だわ」



 銀八先生は一笑いし、
「もし世界が終わっても、離れそうにないわ」

 そう言って私のおでこにキスを一つ、落とした。


 もう人は通り過ぎたのに、私たちはしばらくの間カーテンの中にいた。
 初恋の頃に感じたあのドキドキ感を感じられたんだ。




 先生との恋は、今年一番の幸せになるはず。


 まだ始まったばっかりなのに、私はそう思って微笑んだ。