風が今日は強いから、目を離さないで。
 雨がもうじき降るから、手を離さないで。
 私が咄嗟に言った言い訳を、銀ちゃんは嘘だって見抜いてる。
 だけど・・・それでも一緒に居てくれるなら。

 死ぬまで、私は傍にいる。





上手く伝えたいのに





「あれー銀ちゃんは?」
 小説家の仕事を終えた私が見たのは、神楽ちゃんがのんびり緑茶を飲んでる姿。
 私の言葉に不機嫌な顔をして、
「あんなヤツどーでもいいアル」
「どーでもいいって・・・ケンカでもしたの?」
はいつも銀ちゃんばっかネ!私、嫉妬してるヨ」
「“嫉妬”って言葉、よく覚えたね♪」
「メガネが教えてくれたアル!」

 ちょっと褒めたら、神楽ちゃんの表情が笑顔に変わった。
 話を逸らすことに成功しました、銀ちゃん!

 実はね、私と銀ちゃんは付き合ってるの。
 だけど・・・神楽ちゃんと新八くんには言ってないんだ。
 やっぱ解ってたら過ごし辛いかなって思って・・・銀ちゃんの提案で。


「仕事かぁ・・・」
 万事屋、最近は大変そうだもんね。
 でも・・・朝逢っただけだから、寂しいなぁ。

「あっ!!!酢昆布買うの忘れたっ!!!」
 神楽ちゃんはいきなり立ち上がり、出かける準備を始める。
!私酢昆布買ってくるアル!!」
「うん、気をつけて行ってらっしゃい」
 ダダダッと騒がしく出て行った後は、静寂が部屋中を襲う。
 ・・・銀ちゃん、余計寂しくなっちゃいました。

 私たちは、大分前から気付いてた。
 お互いが、お互いを好きになってるんだって。
 だからこそ、一緒に居たいなって思うのは私だけかなぁ?

「いつか、フラーッと居なくなったら銀ちゃんはどう思うかな?」
 きっと焦ってくれるかな?
 でも絶対私の居場所を突き止めて、いつものように抱き締めてくれるはず。
「実際には出来ないなぁ・・・」
 所構わず抱き締めるんだもん、銀ちゃん。


 静かだった中、バタンと玄関のドアの音が響いた。
 そして、室内に入ってきた人。・・・銀ちゃんだ。

「銀ちゃん、おかえ・・・りっ!?」

 途端にギューッと抱き締められる。
 ホラ、所構わずしてくる。・・・でも今は嬉しいんだ。

「あー疲れた・・・」
 ぜぇぜぇ言ってる。柄にもないのに走ってきたみたい。
「あ・・・新八置いて来ちまった」
「えっ?新八くん可哀想だよそれ!」
「すっごくちゃんに逢いたかったの、銀さんは!」

 銀ちゃんは子供のようにそう言った。
「・・・ホントに?私もね、今すっごく銀ちゃんに逢いたかった。」

 凄いや、私たち。
 想うことは一緒なんだ。

「銀ちゃんが帰ってきたら何か言おうと思ったんだけどなぁ・・・」
「何を?」
「・・・う〜ん、わかんない」
「なんだそりゃ」

 ホント、何か伝えたかったことがあったの。
 特別に伝えたかったから、言葉を考えてたんだ。
 だけど・・・小説家なのに、良い言葉が出なかったんだよ。
 上手く伝えたいのに、足りない表現力が邪魔をしてたんだ。


「銀ちゃん、」
「どーしたァ?」
 抱き締められてた手が緩む。

「あのね、ここにいて」
 私の我が儘を聞いて。

 今まで言うことの無かった言葉。
 今まで言えなかった言葉。

 勇気を出して、言ってみた。
 でも、答えを聞く前に、私たちはスッと離れる。

「もー銀さん!なんで置いていくんですか!!!」

 新八くんが帰ってきたみたい。
「わりィわりィ」
 なんておちゃらけて言ってる銀ちゃんも好きなんだから、敵わない。
 新八くんは怒ってたけど私に気付いたみたいで、
さん、執筆は終わったんですか?」
「あ、うん!」
 よかったですねって微笑んでくれる新八くんに微笑み返した。

 そして台所に向かう新八くんを見ていた私を銀ちゃんは引き寄せ、軽いキスをした。
 少し冷たい空気のなか、唇だけが暖かい。

「銀ちゃん今っ・・・」
 驚く私に銀ちゃんは一言。

「いくらでも居てやるって」

 ポンポンッと頭を優しく叩くのは、きっと照れ隠しかなぁ。
 それでも、私はとっても嬉しかった。





 風が今日は強いから、目を離さないで。
 雨がもうじき降るから、手を離さないで。
 そんな言い訳でいいなら、私はずっと貴方の傍にいるから。

 だから、貴方も隣にいてね。


 ・・・そんなこと言えないけど。伝わってるって信じててもいい?