泣きたいときがある
でも、涙は見られたくないんだよね
私は強い子 乾け涙よ
扇子で扇いでも止め処なく ―――― ・・・・・・
ブランコが見つめる先には
「もういぃ!!銀ちゃんなんて大っっっ嫌い!!!」
私は声を張り上げて言う。
だけど気にも留めない様子で、銀ちゃんは答えてくれた。
「おー、俺だってそんな嫌いだー」
売り言葉に買い言葉・・・要は、本気じゃない言葉。
嘘を嘘で返すように、棒読みで答えてくれた。
「っベーッだ!!!!」
子供じゃないんだから・・・なんて言葉は何処へやら。
私 は家を飛び出し、裸足のまま外に出た。
理由は何て簡単。
銀ちゃんは私の恋人・・・なのに、恋人の私より、新婚ホヤホヤのお目覚めテレビのアナウンサーに夢中。
『今日は晴れてるし、遊びに行こうよ〜!!』
って、着物引っ張ってるのに銀ちゃんたら。
『無理な話だな。これから結野アナが待ってるんだからよ』
なんていいやがった。
いつも我慢しては、新八くんや神楽ちゃんに当たってた私も、今日は限界を超えた。
こんなときに限って当たり所の二人は出掛けてて居ない。
別に、結野アナにやきもち妬いてるんじゃないもん。
私よりアナウンサー優先にする銀ちゃんがムカつくだけ・・・って、コレをやきもちって言うんだっけ。
「・・・銀ちゃんなんか嫌い・・・」
嘘。本当は大好き。
こんな矛盾だらけの私が嫌いなんだ。
そう思うと、涙が出てきちゃう。
誰もいない公園の片隅で揺れるブランコに、座ってみた。
遂に涙は溢れ出てしまったみたい。
「・・・あーあ・・・馬鹿だなァ・・・私・・・」
思いっきり泣きたいのに、雑音なんてありゃしない。
晴れてたら泣けないよ。
雨よ、降って・・・なんて祈ってもムダなんだろうなぁ。
「銀ちゃんのバカぁ・・・私は結野アナより下なの・・・?」
だって、私は銀ちゃんの彼女じゃない。
なんて、唇とんがらせてみても結果は一緒。
「・・・・・・バカなのは私か・・・」
背負っていた紐を解き、扇子を下ろす。
ある程度までブランコをこいだら、抱えるように鎖を持って、空いた両手で扇子を持った。
「・・・慰めてよ」
思いっきり扇ぎ、風が送られていく。
反動でブランコはもっと高く上がる。
高く、高く、上がって。
――― 誰にも顔が見えないくらい扇ぐのよ ―――
途中、扇ぎながらも上を見た。
太陽は私を笑ってるのかな。
「ごめんなさい」
呟き、風を送る。
この風は、銀ちゃんに届けてくれるのかな。
「・・・よっと」
前に思いっきり高く上がったとき、私は全てを手放した。
扇子は綺麗に落ち、ブランコは構わずに後ろへ下がる。
唯一つ空にあるのは、私の身体。
流線型を描き、砂場へと向かった。
そして、砂のパサパサ感を味わうことなく、私は終点にたどり着いてしまった。
「っぶねェなァ〜〜〜!!!」
目の前には、あの銀髪天然パーマ。
ああ、砂をかぶってたのは銀ちゃんの方なのね。
「・・・・び・・っくりしたぁ!!」
「それは俺の台詞だッ!!」
怒鳴られたけど、それが嬉しいなんて思う自分がいる。
「っハァ〜〜〜〜・・・」
私を抱く力を強め、深くため息を付く。
どうやら、私が落ちるときに下敷きになってくれたんだろう。
私には想いもよらぬことだった。
嬉しくて、泣きたかったのに、それすらもさせてくれなかった。
空に先を越されたからだ。
ぱらぱらと、気付けば雨が降り始めていた。
「ホラな。お天気お姉さんが言ってた通り、雨が降っただろ?」
「・・・え?」
今更降っても遅いよ。
もう私は泣く場所を見つけたんだから
「ったく、砂が入りまくりじゃないですか」
「誰の真似よ」
なんて笑い合いながら、私たちは砂場から出る。
ブーツを脱いだ銀ちゃんは、私が裸足なのを知っていたのか、それを前に置いた。
「どーぞ、お姫サマ」
「・・・・・・ありがとう」
それを履いて、歩いてみる。
ぶっかぶかだなぁ・・・
「さー帰るか」
「おー!帰ろう!!」
何事もなかったように、私たちは歩き出す。
風は――― ・・・