天使の羽衣






 真夏だというのに、部屋の中はとても涼しかった。
 リビングに置いてある机を端に寄せ、広い空間を作るとは布を広げた。
 黒にピンクの花が散らばっている布は、浴衣のような形をしている。
「あと少し」
 は微笑んで、ミシンを取りに行った。
 床にミシンを置き、準備を始めた。
 そして、寝転んだは口ずさむ歌と共に、軽快にミシンを走らせていった。

 作業を開始して、すぐのこと。
 家中に大きなチャイムが響く。

「リコ、開けてあげて」
 ボタンを押すような仕草を付け加えて伝えると、ワンッと吼え、リコはモニターのところへ向かう。
 そして2本足で立つと、自動ボタンを押した。
 ・・・正確に言えば、引っかいたとも言えるのだが。

 開けてきたリコは、の元へ行って隣に寝転ぶ。
「偉いね」
 は、そんなリコの頭を撫でて微笑んだ。



 ガチャッと、玄関の音が聞こえた。
「あちー!!」
「相変わらずの家は涼しいな」
 声で分かる、志摩と香だ。
「いらっしゃい」
「ぅおっ、?」
「何してるんだ?」
 床に寝ている私を見た二人は、吃驚した様子で言った。
「浴衣作りだよ。ちなみに、門とドアの鍵を外したのはリコね」
 リコは誇らしそうに座る。
「へぇー、すげぇんだな、リコは」

 志摩は撫でようとするが、距離が届かないため諦めた。
 これはリコの計算のうちみたい。

も、浴衣なんて作れるんだ?」
 香の目は軽快に動くミシンに向かれている。
「うん。まぁねー!」
 楽しそうな笑顔を崩さないまま、の目もミシンに向いていた。



「出来たっ!!」
 他愛のない話をしていると、急には立ち上がった。
 手には先ほどミシンを走らせていた浴衣を持っている。
「出来たのか?」
「うんっ!!」
 とても嬉しそうだ。

「着てきたら?」
 香が笑顔で言うと、頷く。
「ちょっと着てくる!!」
 そして彼女は走って螺旋階段を上っていった。

「・・・机、もう戻してもいいと思うか?」
「さぁ・・・いいんじゃない?」
 そんな話をしながら机を戻し、その上にミシンを置いた。

 暫くして、歌が聞こえてきた。
 口ずさんでいるようだが、旋律は整っている。
 その歌は、徐々に大きく聞こえてきた。

「着てきたっ!」
 嬉しそうなを見て、二人とも声を失った。
「ぴったりだ〜!ちょっと大人っぽ過ぎて変かなぁ?」
 そういいつつも、満面の笑みのは嬉しいのか、くるっと回ってみる。
 黒の色にピンクの花が散らばっている。
 結んでいる帯は同じピンクだ。


「いいんじゃない?」
 最初に言ったのは香だ。
 ね、志摩さんと志摩に振る。
「ん?あ、あぁ・・・似合うんじゃないか?」
「ほんとっ!?」

 何よりも、好きな人に言われるのが一番嬉しいもの。
 香にも、の笑顔がとても嬉しいものだと分かっただろう。


「夏祭り、それ着るのか?」
 志摩の問いに、は嬉しそうに微笑んで言った。


「もちろんでしょっ!」




 後に、あの恋人コンテストが開催される夏祭りが行われる―――・・・