真っ青な空に告ぐ ――

 私を隠してください。






アエレ






「ねぇねぇ、かくれんぼしよー」
 ちょこんとソファに座り、ははしゃいだ表情のまま言った。
「・・・・はぁ?」
「・・・・なんで?」
 志摩、香はそれぞれそう言った。

「・・・だって、暇なんだもん」
「だからってなんでかくれんぼだよ」
「志摩くんらしいじゃない。小さいし、子供だし。年齢も小学生にしたら?」
 ムッとしては一気に口をひらく。
 その内容に香は少し噴出す。
 志摩はそんな香を睨み、も睨む。

「おれは18だっ!」
「見えないもん、最初に会ったときから」
「んだとぉっ!?」

 ソファに座っていた志摩は、ムカつき絶好調。
 勢いよく立って、叫んだ。

「受けてたとうじゃねぇか、かくれんぼっっ!!!」

「またに乗せられて・・・」
 呆れた香も参加することが決定したのだった。




「では、ルールを説明します」
 の手には紙がある。
 さっき書いたばかりのルールが書いてあった。

「隠れるところは、私の家の屋内のみです。
 庭にしろ、外に出ることは禁止です」
「おい、の家だったらお前有利じゃねぇか」
 志摩の言うとおり、この広い家はのものだ。
 が一番有利なはずだ。

 しかし、にも言い分はある。
「でも、実は私この家の中はあんまり知らないのよ。
 部屋数は知ってるけど…この家に来たのは5年前だし」
「5年?どうして5年なんだ?」
 香の質問には普通に返す。
「イタリアにいたのよ。私だけが帰ってきたってわけ」

 二人は何か言おうと口を開いたが、
「さ、ルールの続きよっ!」
 は間髪入れずに話を続けた。

「鬼になった人は、100秒数えます。
 その間二人は探すのです。
 二人とも見つかれば、鬼は次の鬼を指名できるのです。
 鬼には見つけやすいように利点があって、リコをお供につけることが出来ます。以上!」

「・・・リコ以外、普通のかくれんぼじゃねぇか」
 志摩の言うとおり、リコ以外のルールはみんなが知っての通り。
 しかしはこれからが楽しみらしく笑顔になっていた。

「よしっ、じゃあジャンケンしよ〜」

 少し負けず嫌いな志摩は目が光った。
 香は二人の意気込みにタジタジな様子で、思わずため息をした。



 ジャンケンの結果、志摩が鬼になった。

「くっそ〜〜〜!!」
 悔しそうに地団駄を踏む。
「へへ〜ん志摩くんジャンケン弱いのね〜」
「なにぃっ!を先に見つけてやるっ!!」
「さぁ〜見つかるかなぁ?」
 とても余裕ぶっているは、嬉しそうにきょろきょろした。

「よ〜し香ちゃん、隠れるわよぉっ!志摩くんは100数えてね!」
 楽しそうにはリビングを出て行った。


「・・・・志摩さん、探すの手伝うよ」
「何でだ?」
 志摩はきょとんとして香を見る。
「・・・・この歳でかくれんぼは出来ないからさ」
ははしゃいで行ったぞ?香ちゃんと同い年なのに」
「そりゃあは志摩さんみたいに歳相応じゃないから」
「・・・・それは褒めてるのか・・・?」

 しかし、志摩もこの機会を捨てる気はない。

「よし、100数えて二人で探すぞっ!!」
 楽しそうに笑った。





「・・・やっと数えだした」
 螺旋階段を上り終えたところからは耳を澄ましていた。
 今まで何の話をしていたのかは分からないが、志摩が大声で数えだしたのは聞こえる。
「よ〜し、絶対見つからないもんね!」
 は踵を返し、小走りで部屋に向かった。

 が向かった部屋は、奥のピアノルーム。
 入ってすぐの戸棚を開けて、そこから何故かある梯子を取り出した。
 来た痕跡を残さないように、その部屋を出た。

 次に向かったのは、の寝室。
 ベッドの上に転がっていた愛用の棍を持って、また痕跡を残さないように出た。

 梯子と棍を持って向かったのは、の部屋と兄である冴の部屋の真ん中にある、ドレスルーム。
 そっと入ると、たくさんの服がかかっている。
 左右にポールがあって、そのポールに膨大な数の服がかかっていた。
 左が冴の、右がの服が・・・部屋に入らないだけ収まっている。

 は右端に行った。
 服を書き分けて、角まで行くとそこで梯子を置いた。
 棍を組み立て、そっと上に上げる。
 カタン、と小さく音がなって、天井が浮いた。
 そっとそのタイルをずらし、梯子を上って上に上がった。

 さすが、身のこなしは結構いい。

「よっ」
 登ったは梯子を見えないように隠す。
 奥にあるのはドレスばかり、裾が長いためあまり見えない。

「ふふふ・・・」
 次に、そっとタイルを戻して辺りを見る。
「あまり知らないけど、此処は偶然見つけたんだよねー」

 そこは、屋根裏部屋のような広さになっていて、暗いがとても広い。
 そろそろ志摩が探してくるだろう。
「ちょっと開けておこうかな。バレないでしょ」

 近くにあるのは、屋根に取り付けてある窓。
 暗い中、光を燈している。

 前々からには疑問があった。
 此処の窓は外からなら分かるのに、家の中にはなかったからだ。

「見つけちゃったのよねー」
 ガタッと少し大きな音を出す。
 しかし、志摩の足音はない。
 そっとあけると、埃が出て行くのが分かる。

 そこは、真っ青な空だった。
 雲ひとつない、を隠す場所など何処にもなく。


 四角い中から見える蒼は、とても綺麗なものだった。


「・・・なんか、かくれんぼなのに隠れる場所がないみたい」
 苦笑しながらは呟いた。

 向こうから、誰かの足音が聞こえた。

「ったく、何処にいるんだぁー!?」
「1階にはいなかったよね。」

 志摩と、香だ。

「香ちゃん、もう見つかっちゃったのね・・・」
 しかし、は余裕そうだ。

 確かに、誰が屋根の中にいると思う?
 まず、二人はの部屋を見に行ったらしい。

「・・・空さん、隠してくれるかなぁ?」
 冗談めかして言ったとき、乱暴にドアが開く音がした。

「うわっ、何だこの部屋!」
「凄い・・・衣裳部屋みたいだな」
 志摩と香がドレスルームに来たのだ。

 途端、は口を紡ぐ。
 見つかりたくは、ない。

 しかし、空はなんとも残酷だ。
 真実は全て露にならないと気がすまないのか、はたまた悪戯か・・・
 にとっては宜しくない。


「ん?」

 香は左側、志摩は右側を調べているとき。
 志摩は天井から漏れる光に気付いた。
 ついでに、隠してあった梯子も発見した。

「・・・・・・」
 嫌な笑顔を作る。
 見つけた。
 香にそっと伝えると、頷いて服を左側に移動させ始めた。
 ドレスが全部左側に移り、漏れる光と梯子が露になる。


「・・・よし、行くぞ」
「あぁ」
 小声で話し、志摩は梯子に登った。
 そして、天井のタイルを左にずらした。
「へ?」
 突如、の体が左に傾く。
「ぅわっ・・・」
 タイルが左に移ることによって、右にいたはなくなったタイルにより、体が重力に従って落ちる。

 下には、志摩がいた。




 ドォンッと、大きな音が響いた。
 1階にいたリコが思わず上を見るほどだ。

「ったぁ・・・」
 埃まみれのは、しりもちをついて涙目で嘆いた。
 目の前には、唖然とした香が。

 ・・・あれ?
 志摩がいない。

「し、志摩さん・・・大丈夫?」
「へ?」
 香の目を追って、下を向く。
 なんか、柔らかい・・・

「・・・み、見つけたぞ・・・・・」
「っ志摩くん!?」

 なんと、の下敷きになっているのが志摩だった。
 おかげでに怪我はないのだが・・・志摩はぐったりしている。

「だ、大丈夫・・・!?」
「志摩さん平気!?」
 に抱き起こされた志摩は、彼女の腕をガシッと掴む。
「見つけたぞ、・・・」
「いや、鬼ごっこじゃなくて・・・」


 こんなところまで志摩はかくれんぼを気にしているとは。
 呆れながらも、「かくれんぼ大会」は志摩の圧勝という形に終わった。

 しかし、その後志摩は左足を挫いたのだった。