梟が珍しく鳴いている。
 街灯が道を照らしていた。

 大きな部屋の中で、は眠っていた。






混乱夢






「志摩くん?」
 ふと、近くに志摩がいると想い、は呼んでみた。
 しかし、彼からの返事はない。
「あれー??志摩くんがいた気がしたんだけどなぁ・・・」
 志摩の気配がふと消え、真っ暗な闇の中、は突っ立っていた。
「そういえば、ここはどこだろう?」

 問いを出した途端、ふっと明かりがついたように、の周りが明るくなった。



「あれ?あれ??」
 そこは、おとぎの国と言っていいほどの場所。
 虹色の雲に、可愛い木々がいっぱいある。
 黄色の草が一面に生えていて、明らかに日本じゃない。

「ここ・・・何処よ?」
 と、辺りを見回す。
 しかし、分からない・・・分かるはずがない。


「よぉっ、じゃねーか!」
 ふと、志摩の声が聞こえた。
「志摩く・・・・ん??」

 振り返ったが見たのは、犬の姿の志摩。
 ・・・別名で言えば、人面犬だろう。

「・・・ど、どうしたの??」
「ん?あぁ、実は気がついたらこんな格好になっててよ」
 ニカッと、楽しそうに笑う。
 こんなところまで能天気な志摩は、事態を把握していないのか。

「・・・・と、とにかく頑張ってね」
「おう、何を頑張ればいいのかわからねぇけど、とりあえず頑張るわ」

 志摩は、そう言うと器用に4本足で歩いていった。

「・・・・なんだったの・・・?」
 がそういうと、再びあたりは暗闇になる。

「・・・もう、どうなってるわけ??」
 疲れてしゃがみこんでいると、また辺りが明るくなった。
 そこは、とてもよく知っているところだ。


「・・・私の家?」
 ご存知、の家のリビング。
 帰ってきたのか・・・と、ソファに座っていると、向こうから志摩が見えた。

「あれー志摩くん、来てたんだ」
「ワンッ!」

 ・・・あれ??
 の額から、またしても冷や汗が出る。

「・・・・・・し、志摩くん??」
「ワンワンッ!」

 この鳴き声を聞いたは、ふと気がついた。

「りっ・・・リコは何処に・・・?」

 その名前を出した途端、志摩は嬉しそうにワンッと吼える。

「・・・・・・え・・・あなたが、リコ?」

 体は志摩だが、中身はリコだった。
 嬉しそうな志摩・・・いや・・・リコは、ワンッと一吼えしてに飛びつく。

「うわあ志摩くんっ!!」
 それでも見かけは志摩なため、は驚いて顔を真っ赤にした。

 避けた拍子にソファから堕ちた。


「あぃたっ!!」
 すると、またしても真っ暗になった。

「・・・・もう・・・なんなわけ・・・・・・?」

 転んだまま、頬杖をついては考え始めた。



 そして、そのまま意識がなくなった。





 の目が覚めると、そこはいつもの自分のベッドの中だった。
 雀がチュンチュン鳴き、朝日が部屋に差し込む。


「あ・・・夢・・・?」
 ズキンと痛む頭を抑えながら、は辺りを見回した。

 変わったところはない・・・。

「・・・ゆ、夢でよかった・・・」
 はホッとため息を付き、安心して再び眠りに着いた。


 その日の昼・・・


「今日ね、実は志摩くんが夢に出てきたの!」
 その言葉に志摩はきょとんとして
「マジか?俺もが出てきたぞ」
「・・・え?」

 ・・・まさか、と想いがよぎる。

「最初、犬の格好してたよなー。その後はリコに体をのっとられたところは覚えてるんだけど・・・・・・ん??」



 の体が寒気で震えたことは、この際知らないことにしておこう。