キミの手






「じゃあ、そろそろ帰るとするか」
 今日も相変わらず涼みに来た志摩は、よっと腰を上げた。
「・・・そう・・・」
 先ほどの笑顔とは違って、暗くなったの笑顔。
 少し引っかかった志摩は、怪訝な顔をして尋ねた。
?どうした?」
「・・・ううん。なんでもない」
 ハッと気付いて、すぐに笑顔になった。
 しかし、明らかに作り笑顔だ。

「・・・そうか?じゃあな」
 志摩は玄関までいき、そのまま笑顔で出て行った。
「ばいばい・・・」
 の笑顔は、ドアが閉まる音と共に消えた。




 実は、昨日の夢に志摩が出てきた。
 しかし、とても哀しい夢だったことを覚えている。
 どんな夢だったかは分からない。
 でも、とても悲しくて起きたときに泣いていたのを覚えている。

「・・・志摩くん・・・」
 もっといて欲しかった。
 夢とは違うことを示して欲しかった。


 夢でも、志摩はから離れて行った。
 詳しくは分からないけど、離れて行った。


「・・・寂しい・・・なぁ・・・」
 こんなときに限って、リコは外出中だ。

 大きな家で一人、玄関に突っ立っていた。
 大粒の涙を零し、下を向いて涙を止めようと頑張っていた。


「寂しいならそう言えよ」

 ふと、誰もいない玄関から聞こえた声。

「・・・だって・・・」


 相手は誰だかわかっている。
 は志摩が帰ったとは思っていなかった。




 家に上がって、空いていたの右手を握った。
 暖かい体温が直に伝わる。

「一人で泣くな」
「・・・でも・・・さ・・・」


「おれがいるだろ?」
 その言葉に反応して、上を見上げると
 目に、誇らしげな笑顔の志摩が映った。


「キザだね、志摩くん」
「う、うるせぇっ!」


 二人は、笑いあった。

 手は、繋いだままだ。



 夢では、この手が乱暴に離れたことを思い出した。

 でも、二人の手は繋がったまま、時を過ごしていた。