「・・・断ろうかな」
の表情は真っ青になっている。
普通、は御用を断るなんてしないのだが、今回は別だ。
「なんでこっちに依頼をするかな〜!!」
項垂れて、は迷っていた。
仕事だから断りたくない・・・けど、断りたい断りたい・・・
「っ断っちゃお!!」
「何をだ?」
・・・暫くの間があって。
「し、志摩くん!?」
急いで後ろを見る。
後ろからパソコンを覗き込んでるのは、ご存知志摩 義経。
興味津々な様子で依頼内容を読んでいる。
「断るのか?」
「・・・・・・・・・・・」
視線を外すを、志摩は怪訝そうな目つきで見る。
その御用は、お化け屋敷を経営したい人からだ。
完成はしたものの、従業員はどれくらい怖いのか分からない。
そこで、に頼みたいことは、実際に入ってみて感想を教えて欲しいという依頼だ。
「・・・だってこの日は香ちゃん居ないし、志摩くんだって・・・頼りないし」
「何だとコラ?」
ちょっとムカついたものの、ここで怒るとは素早く断りの返事を入れかねない。
「・・・兎に角、依頼だ。断ると依頼人に迷惑がかかるぞ。いいのか?」
「うっ・・・・」
小さく唸る。
志摩の言うことはもっともだ。
しかし、のことだからどんなお化け屋敷でも・・・たとえ子供が作ったやつでも怖がるだろう。
「・・・俺も行ってやろうか?」
断るはずはない。
確信を持った問いに、志摩自身に不敵な笑みが浮かぶ。
案の定、泣きそうな顔でが言った言葉は一つ。
「・・・お願い、志摩くん・・・」
そして、時は巡って3日後。
二人はとても怖そうなお化け屋敷の前に立っていた。
「有難うございます!」
依頼人は嬉しそうだ。
その笑顔を見ると、仕事のし甲斐があるのだが・・・普通は。
しかし、今回の依頼内容としては、引きつり顔のがいた。
「あはは・・・いえいえ・・・」
もうすぐの身に降りかかる災難を、予想しているような怯えようだ。
ここまで怖がるか・・・?
志摩は、唖然としてを見ていた。
「っひゃああああっ!!!!」
「うるせぇって!!」
そういえば、前にもこんなことがあったような気がする。
某コンテストでは、溜まらず志摩はを引っ張って、走って抜けたのだが・・・
今回は依頼だ。
そんなことは出来ない。
「・・・し、志摩くん・・・そこに白いのが浮いてるっっ!!」
「あ?見間違えだって!大丈夫だ!」
「うぅっ・・・」
は怖いのか、でも恥ずかしくて頼りづらいのか・・・
志摩の袖をきつく握りながら、涙目で震えている。
「・・・今のを見たら、依頼人も満足だろうな」
そう、微笑んで志摩はの腕を掴んだ。
「ほぇっ!?」
自分の方に引き寄せて、背中を叩いてくる。
ゆっくり、呼吸に合わせて優しく叩いてくれたお陰で、は徐々に落ち着いてきた。
普通なら、お化け屋敷の中で落ち着くなんてにとってありえないことなのだが・・・
志摩のお陰で落ち着きを取り戻してきた。
「・・・大丈夫か?」
「・・・・・もう出たいよぉ・・・・」
志摩は、先を見た。
少し向こうに、「EXIT」と書いてあるボードが見えた。
「、もうすぐだ」
励ますように呟いたが、は首を横に振る。
「・・・じゃあ、連れて行ってやるから目を瞑れ」
志摩の案に少しためらうも、は目を瞑った。
「・・・ん」
「よしっ、行くぞ」
志摩に引っ張られ、は歩いていった。
無意識のうちに、志摩を信じているのだ。
「ほら、着いた」
パッと、明るいところに出たのが分かる。
「、大丈夫かー?」
逆光から見える志摩は、眩しくてあまり見えない。
でも、笑っていることは分かった。
「・・・・もっちろん!お化けなんて怖くないもんね!」
「うわっ、開き直りやがった!!誰のお陰だと思ってんだよ!?」
「もちろん私でしょ」
「おれだっ!!!!」
いつものケンカが、毎日少しずつ楽しくなるのは、彼の優しさのせいだろう。
は、改めて実感することが出来た。
そのあと、そのケンカを聞いた従業員は面白くなかったのかと勘違いして
お化け屋敷は営業前に潰れたという伝説が出来たのは、また別のお話・・・。