嵐が去ったあと






「っきゃあああっっ!!!」

 大きな家中に悲鳴が響いた。
 途端、ドアからリコを抱えたが真っ青な面持ちで出てきた。
 しかし面持ちとは違い、まるで誰かに気付かれないようにドアを閉めた。

「ど、どうしよどうしよ・・・」
 リコを放すのも忘れて、は挙動不審に歩き回った。
は何処に置いたっけ・・・」
 ようやくリコを放し、頭を抱えてしゃがみこんだ。
「あ〜もう、早くしなくちゃ・・・!!」

 思いっきり立ち上がったとき、丁度門のドアが開いた。
 そこから、何食わぬ顔の志摩が入ってきた。
 を見た瞬間、志摩は思いっきり驚いて顔を真っ赤にした。

っ!?ど、どうしたんだよっ!?」
「志摩くん!!」
 も驚いたが、すぐさま両手を合わせた。
「お願いがあるの!お願いお願い!!!」
「ちょっ・・・ま、まて!!」

 まだ志摩は赤い。
 それもそうだ。

「お前、な、なんてカッコしてんだよ!!」
「はぁっ!?お風呂あがりなのよ!!」
 志摩が見たは少し濡れた髪に、体にはバスタオルが巻いてあった。
「言っとくけど、もし志摩くんが何事もなく家の中に入ってても、見るのはこの姿の私よ!!」
「なっ・・・」
 また真っ赤になるが、はそれころじゃない。
 再び手を合わせて願いこむ。
「お願いっ!!家の中に居る変質者をやっつけてっ!!」
「はぁっ!?」

 志摩は怪訝な顔をしてを見る。
 彼女は自身の格好を見て、
も近くになかったし、突然だし、この格好だし・・・リコを抱えて出たのが精一杯だったの!」
「おい・・・どういうことだよ?」
「どうしたもこうしたも・・・」
 呆れながら、しかし早口で、は今までのことを喋った。

 それは、ほんの数分前だ。
 がお風呂から出たとき、何やら変な感じがした。
 そのとき、洗面所に男が入ってきたらしい。
 咄嗟にはタオルを投げつけ、行きにリコを拾って気付かれないように外に出てきた。

「・・・ってことよ・・・」
「変質者ねぇ・・・」
 志摩は越しに家を見る。
「暴れたくても暴れられないのよ。・・・それか、志摩くんが服と棍を取ってきて」
「それは無理だっ!!」
 大声で否定され、は吃驚した表情をした。

「じゃーいっちょやってくるか!」
 家の中を見て、楽しそうに微笑む。
 先ほどの志摩とは違って、はしゃぐ子供のようだ。
「私も行く・・・家の中を壊さないか見とかなきゃ」
「何だそれ・・・」
 止めようにも、は聞かないだろう。
 それは前から承知済みだ。
「部屋で着替えてきます!」
「じゃあその間に俺は変質者退治な!」

 二人は笑った。
 そして、ドアを開けて一斉に目的の場所に向かった。

 志摩が1階で向かったのは洗面所だ。
 しかし、洗面所を見たが誰もいない。
 バスルームも念のため、開けてみたが・・・

「ぅわ・・・」
 シャンプーの香りが広がり、真っ赤になって閉める始末だ。

 次にリビングに来たが、そこにもいない。
「ったく、何処に行ったんだぁっ!?」

 1階全て見たが、何処にもいない。
「うわわっ!!」
 突如聞こえたのはの声。
 驚いた声なのか、志摩の方にもきっちり聞こえた。

!?」
 玄関の方に行くと、男がの寝室から出てきた。
 咄嗟に階段の視界から隠れ、男が下りてくるのを待つ。
 案の定男は階段を下りて、家から出ようとした。
「このっ!!」
 志摩は素早く蹴りを入れ、男は思いっきり受けて倒れこんだ。

「志摩くんやってくれたっ!?」
 はブラウスにロングスカートの格好で降りてきた。
 急いでいるのか、下の方のボタンをつけながらだ。
「まぁな!」
 のほうを見て志摩は不敵に微笑む。
 その笑顔を見て、は嬉しそうに言った。
「有難う〜!!志摩くん大好きっ!!」
「・・・は?」
 子犬のように走ってきて抱きつくが、当の志摩は顔を真っ赤にする。
 もう、何度目だろう。
「・・・あ、いや、深い意味はないのよ」
 自分の言動に気付いたのか、は顔を赤くしながらバッと離れてそう付け加えた。
「そ、そうか・・・で、警察には連絡したか!?」
「へっ!?あ、うん」
 話を逸らす志摩には頷いた。

 紅くなるだが、気付くのも瞬発力も早かった。
 後ろで隠しながら落ちている棍を拾って組み立てた。
「このやろぉっ!!!」
 突如起き上がって、志摩たちのほうに襲い掛かる。

 志摩の蹴りより、の棍のほうが早かった。

「変人は黙っててくれるっ!?」
 勢いよく男の顔に棍がめり込む。
 あっという間に男は飛んで行った。

 ようやく、男は動かなくなった。

「「・・・・・・っはぁ〜・・・」」
 二人ともため息を付く。
って棍を持つと強くなるよな」
 苦笑い気味で棍を見ながら、志摩は言った。
 も棍を見るが、志摩の方を見る。

「でも、志摩くんだって、頼もしいのね」

 そしては笑顔になる。


「・・・今気付いたのか?」




 志摩は脱力したが、やがてと笑いあった。

 哀れなのは、そこに転がっている男と・・・忘れられて、炎天下の中外にいたリコだろう。