志摩さんは帰り、私は相変わらずちょこんとソファに座ってる。
 私の想いは必ず実らないことは解ってしまった。

 ・・・どうして私は・・・この場所に居るのだろう。






黒いネコと小さな愛






 ぼーっと、志摩さんのことを考えてみる。
 そういえば、ネコと言う人生を嫌だと思ったのは志摩さんにあってからかな。
 黒いネコにだって恋心はある。
 別の野良猫に言ってやりたい。

 でも、人間に恋をしてしまったのはいけなかったと思う。

 しかも志摩さんは私の思いどころか言葉さえも通じない。
 さらに、彼はさんが好きだってことも気付いてしまった。
 だって・・・見たこと無い笑顔を彼女の前で見せてたのだから。

 そしてその想いは気付いてないものの、さんも同じ気持ちだと思う。


 ・・・複雑だけど、私はネコ。
 ココって名前以前にネコなんだから、仕方が無いことだってことくらい解る。
 でも・・・複雑。



 ・・・そういえば、さんは何処に行ったのだろう。
 きょろきょろっと広い部屋を見渡してみる。

 いない。
 何処に行ったんだろう。

 ネコらしく軽快にソファから下りる。
 チャカチャカと爪を鳴らして歩いて、玄関へ向かってみた。
 すると、そこにさんはいた。・・・・・・犬と!?


 足を拭いていたさんは私に気付いたみたいで、大型の犬に言った。
「リコ、志摩くんからネコを預かってるの。仲良くできるよね?」

 名前はココちゃんだよ、と笑顔で言ってる。

 まさか、犬を飼ってたとは。
 志摩さんが言ってたリコって、この犬のことだったのね。
 リコっていう犬は「ワンッ」と吼えた。
 それは「ちゃんのためなら!」って聴こえた。


 動物の言葉は万国共通。
 私は犬の言葉も解るし、犬も私の言葉が解る。


 ・・・神様は本当に残酷ね。
 私は本当に神を呪いたくなった。



 さんは2階に上がっていって、私はその犬と二人きり。
 リコって名前だっけ?
 犬は私のほうをじっと見て、一言。
『僕、ネコとは気が合わないんだけど、ちゃんのために仲良くしてあげる』
 その言葉にムッとした。
『別に仲良くしてくれなくてもいいわよ』

 私は仲良くする気ないし。
 でもリコはムッとする気配も無く、続けた。

『ココ・・・だっけ。キミって志摩さんに飼われてるの?』
『違うわよ。野良猫だったんだけど拾われただけ』
『ふーん・・・』

 なんかこの犬、解らない。
 疎ましそうな表情をしたかと思うと、また一言呟いた。

『・・・僕、志摩さんは嫌い』

 ・・・は?
 何を急に言うんだか。
 きょとんとしてしまったが、後々考えると・・・ムカつくわね。

 志摩さんが嫌いですって?
 私は志摩さんが好きだから、だからムカついた。

『何で嫌いなのよ』
『だってちゃん、志摩さんといるといっぱい笑うんだ』


 明らかにムスッとして言ったのは、不満の声。


『・・・ねぇ、それって嫉妬じゃないの?』


 嫉妬って言うのは、自分が気に入ったものを取られたときに言うんだって。
 前に変なカップルが使っていたのを覚えてたから、言ってみた。
 リコはますますムッとして、答える。
 それは図星だったことを教えてくれたようなもの。

『うるさいなぁ!とにかく僕は志摩さんが嫌いなんだ!』
『そう。私は好きだけど?』

 言葉とは裏腹に、私は沈んだ表情を露にした。

 ・・・リコからは反応がない。
 少し経って言われた言葉には、何か別の問いが含まれていた。
『・・・もしかして、恋してるとか・・・?』


 これだから、嫌なのよ。
 他の動物と話をしていると、必ず本音が出てしまう。
 私はこれを恐れていた。



 黒いネコって、本当に不吉なのかもしれない。

 現に私が今とても悲しい気持ちになってるから。