着いた場所は、とても大きな家だった。
 本当に志摩さんが言ったとおり、あの家よりも大きかった。

 そして、私は現実を目撃する。






黒いネコと小さな愛






「志摩くんいらっしゃいー」
 ガチャッとドアが開き、そこから出てきたのは可愛らしい女の子。
 茶髪の髪の毛を長く伸ばし、それを器用に後ろで纏めていた。

 ・・・あ、すごい笑顔。
 チラッと志摩さんのほうを見てみる・・・こっちも笑顔。

、連れてきたぞー!」
 志摩さんの言葉を聞いて納得した。
 ・・・この人があの“”さんなんだ。

 さんは私のほうを見ると、満面の笑顔をした。
「あ、この子が志摩くんが言ってたココちゃんねっ!?」
 かわい〜っと目を輝かせてる。
 ・・・ネコ、好きなのだろうか。

 志摩さんが差し出し、さんに渡す。

 ・・・志摩さん以外に触られるのは嫌いなんだけど。
 でも、ついつい撫でられると気持ちよさそうに目を細めてしまった。


「すっごい大人しい!くぅ〜っ、可愛い!!!」


 そんなに喜ばれると、私まで嬉しくなってしまうじゃない。
 なんかしてやられたわ。


 さんは、志摩さんをリビングに通したら私もソファに下ろしてくれた。
「あれ?リコは居ないのか?」
 ・・・リコ?誰だろう。
 私の思いなんて気付かず、さんは答える。
「リコは今庭を散歩中だよ。きっとびっくりするだろうけど、あの子なら大丈夫!」
 ビッとピースを出してる。


 なんかこの人、面白いかもしれない。
 あーあ、私の人間嫌いは何処へ行ったんだろう。



「にゃぁ〜・・・」
 はぁ〜・・・とため息をついたら、さんはハッと気付いて言った。
「ごめんココちゃん!すぐミルク出すからねー!」
 そう言って何処か走っていったさん・・・えーと、彼女は天然なのだろうか。

 呆然とさんが走った方向を見つめていると、上から志摩さんが笑いながら言った。
「あいつ、面白いだろ」

 ギクッ!
 志摩さんって私の心の中をのぞいてるのかと思ってドキッとしてしまった。

ってコロコロ表情変えるもんなー」
「にゃあにゃーお」
 それは志摩さんもでしょ。
 実際に言ってみたんだけど、やっぱり通じてないみたいで笑ってる。


「なになに、何の話してたの!?」
 さんは向こうからお盆を持って帰ってきた。
「お前は単純だってココに話してたんだよ」
「なっ!!志摩くんには言われたくないわねぇ」

 笑いながら、私の前にミルクを注いだ皿を置く。

「・・・さん、おれには?お茶とかさ」
「志摩くんにあげるのやめた。これは私が飲むもん」

 ムスッとしてお盆に乗ったコップを持ち、さんは自分の前に置いた。

「にゃあ」
 可哀想、と言った言葉が通じたのか、志摩さんは味方を得たような表情をした。

「ほら、ココも可哀想って言ってるじゃねーか!」
「あのねココちゃん。志摩くんはいつもこんな人なんだから可哀想なわけないのよ」
「それは酷いぞ・・・」

 ほら、傷ついてる。
 さんって意外と冷たい人なんだ。
 そう思ったとき、噴出したようにさんは笑い始めた。

「・・・仕方ないなぁ、もう」

 そう微笑んで、目の前のお茶を志摩さんのほうへ差し出した。



 ・・・変な人たちね。
 仲もよさそうに笑いあってる。

 人間って、わからない。

 でも、ひとつだけ解ったことがある。
 ミルクを一口飲んで、もう一度二人を見た。



 私が入る隙が無いほど、二人は惹きあってるってことくらい、ネコだって解る事実だった。