翌日、私は志摩さんに抱き上げられて商店街を歩いていた。
“”って人のところへ行くんだって。
私は志摩さんといたいんだけど、私は“ペット”に分類されるからダメなんだって。
歩いていると、ふと子供たちに目が行った。
いつも私のことを「ミャー」と呼び、耳や尻尾を引っ張っていた子供たちは無邪気に遊んでる。
でも、まさか私が人間の腕の中に居るなんて思ってないみたい。
ざまぁみろ。
鼻で笑ってやったけど、子供たちは気付いていなかった。
人間に抱き上げられた黒猫は不吉の象徴にならないのだろうか。
現に、志摩さんや私に向かって誰も「不吉だ」と言わなかった。
いつも隣にいた小さな本屋からたくさんの人が出て行くけど、誰も不吉の言葉を口にすることは無かった。
冴えない八百屋も相変わらず流行ってないみたいで、主人の近くには私に水を引っ掛けたあのバケツが置いてあった。
自身も含めて、誰も私の気持ちに気付いていなかった。
“恋”・・・人間に恋したネコなんて、全然救われないじゃない。
そう思っても、志摩さんを見上げたら「救われなくてもいいかな」なんて思う。
あぁ・・・人間になりたい。
『私ってそんなに変わってる?』
そういうと、別の野良猫はネコらしく頷いて、答えた。
『だって私は自分の身分がわかってるもの』
『身分?』
『私は野良猫で、あんたも野良猫。そんなネコが手の届かない花を取りに行くようなものよ』
『・・・花・・・そうなのかなぁ』
『だってあのネコ、商店街を抜けてすぐの大きな豪邸に住んでるのよ?』
そうだ、そういえば私はこの先の大きな家に住むネコに恋をしたんだっけ。
血統書があるネコと、何処にでも居る薄汚い野良猫。
確かに高嶺の花だ。
それを狙うネコなんて同じ血統書があるネコくらいよね。
・・・・・・身の程知らずだ、私。
変わってないじゃない・・・今も。
商店街を抜けると、すぐ見えたのは大きな大きな家。
あのとき、恋というものをしたネコが住んでいる。
「ココ、あの家でかいよなー」
わははと気楽に笑う志摩さんが羨ましい。
「でもな、の家はもーっとでかいんだぞ!」
・・・へぇ。
ネコなんて居ないでしょうね。
こんな気持ちのまま他のネコに会いたくない。
小さな心でいっぱいお願いをした。
「の家にはリコが居るんだけど、仲良くできるよなぁ・・・」
なんて心配を口にした志摩さんを知らない。
神様、どうかお願いします。
この気持ちが気付かれませんように。
ネコの言葉が解る人に出会いませんように。
神様は、なんて残酷なのだろう。