「来た来た来たー!!」
 香蘭学園高校の門の前で、楽しそうにそう叫ぶ少女がいた。
 彼女の名前は
 波乱が起きそうな予感だ。






天空問屋 [スカイブローカー]






 教室の中で、永倉 は項垂れていた。
ーどした?」
 莉璃と飛鳥はそんなを覗き見る。
「・・・えらい・・・」
「「偉い?」」
「いや・・・そっちじゃなくて・・・」
 のツッコミに、二人は閃く。
「あー、風邪?」
 辛そうに、しかし思いっきり首を縦に振った。
 飛鳥は時計を見ながら、
「じゃあホームルーム終わったら保健室行ったら?」
「うん・・・そうする・・・」
 丁度、チャイムが鳴ったからだ。
 莉璃と飛鳥は気に留めながら、自分の席へ戻る。

「はい座れー」
 担任が入って来た。
 ・・・・・・今のにとっては厄介だった。
「転校生を紹介するー」
 ホームルームを一刻も早く終わらせて、保健室に駆け込みたい思いが過ぎる。
 でも・・・此処で遮ったら転校生の子に悪い。
 我慢することを決め込んだ。

「大阪から来た、 です」
 髪の毛は黒色で、所々に赤いメッシュが入っている。
 可愛いというより、綺麗系に当てはまり、クラス中が『といいコンビになればいいのに』と志願するほどだ。
 大阪から・・・という割には、あまり訛っていない。
 というか、本人の表情からひしひしと伝わるのは・・・気のせいだろうか。
 いや、気のせいじゃない。

  ・・・彼女は楽天家だ、絶対。


「席は・・・そうだな・・・」
 担任はクラス中を眺める。
 の隣だと、可愛い・綺麗と二人並んで一石二鳥(?)だなぁー。
 なんて、クラスの男子は思っていた・・・いや、祈っていた。
「永倉の隣なんてどうだ?」
 心の中の男子は、担任の声を聴いた途端泣き叫んでいた。(大袈裟な)
「よろしくー」
「うん・・・よろしく」
 にとって、願っても見ない悲劇に等しかったかもしれない。
 それでも、笑顔は作っておいた。

 ホームルームも終わり、休憩時間。
 の思惑通り、の席には人があふれていた。

さん、ちゃんって呼んでいい!?」
「うん、いいよー」
さんって大阪から来た割には大阪弁喋らないんだね!」
「あぁ、元は関東やからね。たまに混ざるよー」
 わいわい楽しそうに話す横で、は項垂れたままだった。
「ちょっ、・・・大丈夫?」
「連れて行ってあげよーか・・・?」
 流石の莉璃と飛鳥も心配そうにし始めたが・・・
「ぅ・・・頭痛い・・・勘弁して・・・」
 うつ伏せのは昨日から具合が悪かったのか、そう呟くだけだ。
「そんな具合悪いのになんで学校に来たのよ!」
「・・・治さないと・・・支障出るし・・・うつしに来た・・・」
「何いってんの・・・」

 ゆっくり、ダルそうには立ち上がった。
「一緒に行こうか?」
 飛鳥は言ったが、はゆっくり首を横に振る。
「(多分)大丈夫・・・」
 フラフラと、いつものの元気が無いまま彼女は教室を出て行った。
「・・・・・・」
 後姿を、は見ていた。



「う゛〜・・・」
 気持ちが悪い。
 目が回る。
 風邪を甘く見ていたが悪いのだが・・・此処までするとは神も悪いやつだ。
 確かに最近、暑いから少し大きいTシャツだけを着て寝ていた。
 更に、いつだっての家はエアコンが付いている。
 風邪を引くのも良く分かる。

「大丈夫?」
 ふと、声をかけられたは壁に持たれて振り返った。
「・・・さん・・・」
でいーよ。それより、一人だと辛いでしょ?」
 の後を心配してついて着てくれたのだ。

「・・・でも1現・・・」
「気にせんでえーよ」
 は楽しそうに笑う。
「それに、人々に囲まれたままってのが嫌やねんて」
 なんか、大雑把だなぁ・・・
 はそう思ったが、それ以上に眩暈が結構来る。
「・・じゃ・・お願い・・・」
 正直、一人で保健室までつける自信は無かった。


 の指示通り移動し、は保健室にたどり着いた。
 保険医に言われたとおり、ベッドに横たわって体温を測る。
 しかし、そのときもは傍にいる。
「・・・・・・ちゃん」
「あぁ、呼び捨てでいーよ!」
 明るく答えるが、帰る気配が無い。
「もう教室に帰っていいよ・・・」
 配慮したつもりなのだが、当の本人はきょとんとして、
「え?いないほうが良い?」
「でも、授業・・・」
「いーのいーの。本当にサボりたかったんやよねー」
「サボりかぃ・・・」
 でも、の人柄のよさに、は内心安心している。
 初対面なのに、此処までの好感を得られるとは・・・らしいといえば、そうなのだが。

 熱は38度6分。
 高すぎるため、は早退が決まった。
 とはいえ・・・彼女の迎えは誰が来るのだろうか。
 リコ?
 ・・・・・要は、誰もいない。
「本当に私が呼ばなくてもいいの?」
 保険医は心配そうに呟く。
 には、丁度良い助っ人がいる。
 こういう時に必ず浮かぶ人物・・・志摩だ。
「はい・・・ただ、携帯が・・・」
 すぐにが言う。
「私が取ってきてあげるよ。鞄も必要でしょ?」
 こういう優しさも、今のには大歓迎。
「ありがと・・・」
「いいって!」
 明るく言って、出て行った・・・が。

「ね。永倉さんの名前は?」
「・・・・・・」
ね。分かったー!」
 再び戻ってきてまで聞くことだろうか・・・
 彼女は思ったことを素直に行動する、正直者だ・・・
 はそう確信した。



 やがて、が戻ってきた。
「はい、。」
「ありがとー・・・」
 二人とも、早速呼び捨てだ。
 鞄の中から携帯を出し、器用に片手で操作する。
 機械音の後、いつもの声が聞こえる。
「もしもし、志摩くん?」
『おー、どうした?』
「ちょっとしたお願い・・・」
『・・・なんだ?』
 少し元気の無い声に、さすがに心配になったのか・・・声が優しい。

「・・・学校・・・迎えに着て・・・」
『はぁ?なんでだよ』
「風邪で早退・・・でも、一人で帰らせてくれないのよ・・・」
 志摩は少し考えているのか、黙り込んだ。
 家庭環境上、確かに迎えに来る人はいない。
『・・・しかたねぇなぁ〜』
「ありがと・・・」
 志摩は口が悪いが、実は優しい。
 は微笑んでお礼を言った。

 保険医に言われ、は教室に帰ることに。
 しかし、彼女には気にかかったことがある。


 一つ・・・永倉
 実は、『永倉』と初めて聞いたとき、あるものが浮かんだ。
 それは反射的だったはずなのだが・・・何処かで聞いたことがある。
 そして、志摩。
 にとってどういう存在なんだろう。
 また、この名前は何処かで聞いたことがある。 
 ・・・何処で聞いただろう。

「・・・ま、教室に帰ってから考えようかな」
 今はという友達が出来たことが重要だ。
 嬉しそうに、スキップをしただった。



 一方、志摩の手を借りて家にたどり着いたは、一応莉璃と飛鳥に連絡をしておくことに。
「・・・もしもし・・・」
『あっ、っ!大丈夫?』
 莉璃の携帯に、テレビ電話でかける。
 向こうからは彼女と飛鳥が見える。
「うん・・・志摩くんに迎えに来てもらった・・・」
『志摩くん?あーこんなときまで?』
「ぅ・・・るさい・・・」
 いつもなら怒鳴りながら「違うってば煩いなー!」というところだが・・・そんな元気も無い。

 でも、連絡ついでに聞くことがあった。
「ね・・・いる?」
・・・?あんた、いつの間にさんと仲良くなってるの?』
「うん・・・救いの手を差し伸べてくれた・・・」
『嘘っ!』
 二人は目を見合わせる。
 そして、一斉に言った。
『『私たちも仲良くなろーっと!!』』
「へぇ・・・?」
 テレビ電話の向こうで、莉璃が大声でを呼ぶ声が聞こえる。
『なにー?』
 は二人のところに来て・・・
『あっ、じゃん!!』
・・・」
 元気な声が、部屋に響く。
 少し、頭が痛い。
『携帯の番号とか教えてやぁ!私も教えるからさっ!』
「うん・・・因みに、隣の巻いてるのが莉璃で、ストレートが飛鳥ね・・・」

 こんなときでも友達の紹介は欠かせないのだろうか。
 向こうで挨拶を交わしてる。
 はぁ・・・電話しない方が良かった・・・

 はボソッと呟いたのだが、その声は届かなかった。
 兎に角、新たな人物がやってきた。


『永倉屋』、『よろず屋東海道本舗』にも影響するなんて、今のには知る由も無かった。