薄荷飴って嫌い。
 だって辛いんだもん。
 初めて食べたときから、私は薄荷飴が嫌い。






ペパーミント ドロップス






 此処は近所のスーパー。
 カートを押しながら食材を買ってる私。
「あと、お茶にお素麺のつゆが無かったっけ」
 うちって何故か食材がすぐ底をつくのよね。
 別に金銭的に苦しくはないけど、いろんな人がお茶を飲んで、ご飯を食べて帰るからかな。
 賑やかだからいいんだけどね。
「あ、今日志摩くん来るんだっけ」
 ハッと気付く。確かお昼過ぎだよね。
 実はDVDレコーダーを新しく買ったんだけど、取り付けがわかんないからしてもらうんだ。
 お礼にご飯をご馳走してあげようかな。
 何を作ろうか考えていたら、突然ガラガラッと言う缶の音が聴こえた。
「えっ?」
 隣の通りで女の子が缶を落としたみたい。
 そのまま走っていったから、直してあげなきゃ・・・ん?
「サクマ式ドロップス?」
 赤い缶に入ってる飴で、いろんな味があるんだ。
 振るとカラカラ音がする。
「・・・・・・買って帰ろうかな」
 実はあんまり飴は舐めないんだけど、これは少し美味しそうに思えた。

 これも何かの縁よね。
 そのまま籠に入れて、レジに向かった。



 2つの袋を重そうに提げながら、ローラーブレードを走らせる。
 カラン、カラン、と缶の音が聴こえる。なんだか食べるの楽しみだな。
 家の前に近づくと、何か人影が見える。
 向こうから来るのは・・・あ、志摩くんだ。
「お〜い志摩く〜ん!!」
 叫びながら滑ると、向こうも気付いたみたいで明るい表情が見えた。
「おー!スーパー行ってたのか?」
「うん!」
 一つを志摩くんに持ってもらい、私は門を開けた。
 志摩くんと話してたら、カラン、カランという音は聴こえなかった。

 家に入ってすぐダイニングに向かい、テーブルの上に買い物袋を置いた。
「持ってくれて有難うね」
 微笑んだら、志摩くんも微笑み返してくれた。
「お互い様だろ?」
 とりあえず志摩くんにお茶を出し、私は食材を冷蔵庫に入れていった。
 最後に残った缶を持ち、カラカラ言わせながらリビングに向かった。

「あれ、もうやってくれてるの?」
 リビングに行くと、もうDVDレコーダーとにらめっこしてる志摩くんが見えた。
「まあな。先にやってゆっくりするんだよ」
「なんだそりゃ!」
 でも真剣な顔で言ったから、少し面白い。
 笑いながら近いソファに座って観察する。
 ふと、手の中のドロップがカランと鳴った。
「ん?」
 その音が気になったのか、志摩くんが振り返った。
 カラン、カランと鳴る缶を目線まで上げてみた。
「飴買ってきたの。食べる?」
 ・・・あれ?反応がない。
 志摩くんは目をキラキラさせて言った。・・・いや、叫んだ。

「おー!!!それ懐かしいなー!!!」
「へっ?」
 缶を持ってカラカラ振ってる。
「懐かしいって・・・前に食べたことあるの?」
「おう!飴といえばこの缶だからな!!」
 へぇー・・・そんな法則があったなんて知らなかった。
 とにかく、あんなに喜んでくれたんだもん。
 買っておいてよかった、と思った私がいたりして。

 硬い蓋をあけ、志摩くんの掌に飴を乗せる。
 カランカラン、と鳴って、ポトッと落ちたのは緑色の飴玉だった。
「これは何味?」
「メロンだな」
 あぁ、メロン!
 なるほどとばかりに頷いてしまった。
 何味が入ってるんだろう。
 私も自分の掌に向けて振ってみた。
 カラン、カラン、カラン・・・清々しい音が響いたと思ったら、ポトッと落ちたのは黄色の飴玉。
「黄色は何味?」
 志摩くんは説明書から目を離し、掌を見た。
「お、レモンじゃん!」
「レモン?」
「おれ一番好きなんだよなー」
 そうなんだー?
 志摩くんが好きなものが出たなんて・・・ちょっと嬉しいかも。
 ・・・何が嬉しいのかはわかんないけどさ。
 パクッと食べると、途端にレモンの味が広がり始めた。
 すっぱい中にある甘さが、とても美味しい!
「これ美味しい!」
「だろ!?」

 その後も、志摩くんと私でカランカラン言わせながらいろんな飴を食べた。
 いちご味、オレンジ味、チョコレート味・・・暇な私はどんどん食べていった。

「よし、出来たぞ!!」
「本当!?」
 やっと取り付け完了したのか、志摩くんは満足そうな笑みを浮かべた。
「やったー有難う、志摩くん!!!」
 これからいっぱいDVDに撮れる!嬉しいなぁ〜♪
 掌に出した飴玉の色も見ずに、口に入れる。

「・・・・ほあっ!?」

 途端、口の中に凄まじい刺激が走った。
「“ほあ”??お前何て声出してんだ?」
 笑ってる志摩くんを気にしている場合じゃない!
 私は頑張ってこの気持ちを表した。

「から〜〜〜〜・・・・・・」

 泣きそうな顔で言い、すぐさまキッチンへ急行!
 まだかなりある飴玉を取り出すと、それは白色だったことが解った。
 もったいないけどゴミ箱に捨て、すぐお茶を飲む。
 舌がヒリヒリする・・・お茶を飲んだくらいじゃ治らない。

 涙目で、ペットボトルを持ったままリビングに戻ると、志摩くんが流石に心配そうな表情をしていた。

「だ、大丈夫か?」
「大丈夫・・・ヒリヒリするけど・・・」
 志摩くんは缶を覗きながら、「何色を食ったんだ?」って訊いた。
「白・・・」
「あーそりゃ薄荷だな」
「薄荷・・・?」
 薄荷って、確かミントのことよね。
 解った途端、苦い表情になった。
「薄荷は嫌い・・・。」
「お前こういうの駄目なのか?」
 弱点を発見した、とばかりにニヤーッと笑い始めた。
 ミント・・・薄荷は昔から食べられないものなんだけど。
 まさかドロップのなかに薄荷が入ってるなんて思わなかった。

「志摩くん、薄荷好きなの?」
 志摩くんはカラカラと缶を揺らしながらうなづいた。
「あぁ、あの辛さがいいんじゃねーか」
「わかんない!」
「子供だなー」
 自分だけ大人ぶっちゃって、なんかムカッとする。
「じゃあ薄荷は全部食べてよ」
「おういいぜ!」
 カランカラン、と掌に出た飴を、私に渡す。
「ほら、これ食って口直ししろ」
「・・・へ?」
 差し出されたのは、赤色のドロップ。

「・・・気が利きますなぁ!」
 私は喜んで受け取ることにした。



 私、薄荷飴は大嫌い。
 本当に辛くて、後を引くヒリヒリさが嫌なのよね。
 でも、志摩くんが好きなんだったら・・・このドロップをまた買ってきてあげようかなって思う。
 知らなかったことも知れたしね。
 嫌いなんだけど、今日は薄荷飴に感謝かな。