いつも通っていた教室に、私は居る。
だって行く所ないんだもん。
自分の席に座って、はぁ〜とため息を吐いた。
「家でまったりしてたのに、なんで急に乗っ取られちゃったのかなぁ・・・」
下では部活をしてるのか、色々な声が織り交ざっている。
私の格好がキャミソールとジーンズなだけに、思いっきり場違いなことくらいわかってる。
だから教室にひっそり居るってものよ。
「志摩くん達ってば、家に来たと思ったら『は出てろー』なんてさ」
財布を持つ暇すら与えてくれなかったから、お金持ってない私は何処に行けって言うんだか。
全く、本当に今日は私の誕生日?
「せめて『おめでとう』くらい言って欲しかったよ・・・」
志摩くんは愚か、や香ちゃんまで「おめでとう」無しなんて。
あーなんか泣きたくなる・・・。
はぁ〜、私なにかしたかなぁ・・・。
てゆーかなんでこんなに落ち込んでるんだろう。
そういえば去年なんて、志摩くんからいっぱいプレゼント貰ったなぁ。
今年とは大違いじゃん。・・・ホントに泣けてくる・・・。
ぐったりとうつ伏せていると、教室の出入り口から声が聴こえた。
「あれ?永倉ちゃん??」
顔を上げてみると、そこに居たのはクラスメイトの古屋 葵ちゃん。
制服じゃなくて柔道着なのは、彼女が柔道部に所属してるから。
「んー・・・?」
「あちゃー、私柔道部の打ち合わせに此処の教室提案しちゃった・・・」
どうやら私が居たことを予想してなくて困ってるみたい。
まぁ・・・確かにどうやって予想するのかもわかんないけどさ。
「じゃあ私出るよ」
「えっ!?いいよいいよ!!」
遠慮されたけど、私も部活の邪魔はしたくない。
「大丈夫、そろそろ家に帰っても大丈夫かもしれないし!」
元気に振舞い、私は古屋ちゃんに笑顔を向けながら教室を出た。
陽気な様子で出て行ったけど、それは学校の外で終わった。
「・・・・・・帰れるわけ無いじゃん」
はぁ〜、と再びネガティブな私が登場する。
あれ以上教室にいたら迷惑だとは言っても、行く所がなくなってしまった。
トボトボと当てもなく歩いてると、何故かやってきたのは虹が丘公園。
時計台の前のベンチに座ってボーッとしてると・・・なんかリストラされたサラリーマンみたい。
「鳩の餌を持ってたら、完璧サラリーマンね」
買いに行ってやろうかと思ったけど、お金持ってないんだった。
ただ、ボーッとするしかなかった。
学校はクーラー効いてたから意外と快適だったんだけど、此処は外。
「あーつーいー・・・」
手で扇いでも、ちっとも涼しくならなかった。
今日は誕生日なのに災難ばっかり。
ホントついてない。と言っても、厄日ほどじゃないけど。
「いつになったら帰っていいのよ・・・」
仰ぎ見たのは上へ聳え立つ時計台。
ちょっと、私が家を出て1時間経つじゃない。
「もー・・・志摩くんたちのバカー!永倉屋だけ独立してやるー!」
「独立ってお前、言いすぎだろ」
「だっておめでとうも無いなんて、最悪じゃな・・・い?」
あれ?
「ぅわぁっ!?」
横を見ると、そこに居たのは私を追い出した張本人の志摩くんが。
はぁ〜とため息を吐いてる。
「い、いつの間に!?」
「さっきだ、さっき。買出し中に見えたんだよ」
呆れたと言わんばかりの表情だ。
そんな顔されたって、普通驚くでしょう?
「で、何の用よ」
追い出したおかげで私は暑い中サラリーマン化してるんだから。
そう言うと可笑しかったみたいで志摩くんが噴出した。
「サラリーマン!お前おもしれーこと言うな!」
「笑わないでよ!我ながらいい例えなんだから!!」
それにしても、なんでこの人は隣に居てくれてるんだろう。
疑問はすぐに消える。だってそれほど彼は優しいから。
永倉屋独立なんてしないに決まってる。寧ろ、私からしたいわけが無い。
「で、」
珍しく策士な笑みを浮かべ、志摩くんは続けた。
「おめでとうって言って欲しかったのか?」
「へっ!?」
何でよ!って言おうとしたけど、そういえば自分で白状した気がする。
肩を竦めて、私の言い分を言ってやった。
「・・・だって、誕生日に家を追い出されて、此処でボーッとしてるなんて嫌じゃない」
「うん、おれなら嫌だな」
「でしょ?!」
やっぱり、誰だって思うんじゃない。
もう一度上の時計を見てみる。
「見辛いなぁ・・・」
もう帰りたいなんて思いながらため息を吐くと、志摩くんに「」と呼ばれた。
「なにー志摩くん?」
「ほら」
「え?」
上を見ていた私は、手に渡されたものに目線を落とした。
手の中にあるのは長方形のもので、リボンで丁寧に包装されている。
「・・・これ?」
志摩くんは何事もなく答えた。
「プレゼント。誕生日だろ?」
いらないか?と言われ、私は慌てて首を降った。
「開けていい?」
「あぁ」
燦々と日差しが輝く中、私は丁寧に包装を開けて行った。
少し長い箱をそっと開けると、何かが日差しに当たって輝いた。
「・・・うわぁ・・・!」
光かと思ったものは、時計だった。
棍を回すときも邪魔にならない、細く小さなモデル。
それでも、白くお洒落な装飾をしていた。
「可愛いっ!!」
「だろ!?」
さすがおれだ、と言いたげなようだけど、本当にその通り。
恋は盲目とは言うけど、この時計は本当に可愛らしいものだった。
「、誕生日おめでとうな」
時計に見惚れていた私は、その言葉を聴いて志摩くんの方を向いた。
にっこりと笑顔で言われてたみたいで、それはすぐに照れた表情で隠れてしまった。
一番言われたかった言葉を、最初に言ったのは志摩くんだった。
やっぱり一番好きな人に言われると、今までの哀しさが全部吹っ飛んでしまったみたい。
もう一度時計を見て、愛しそうな目で答えた。
「ありがとう、志摩くん」
帰ると、クラッカーの音が響く。
皆でサプライズ・パーティを開いてくれていたみたい。
そして香ちゃんからはアンティークもののティーカップ、からは綺麗なアクセサリー。
とても嬉しかった、それでも・・・。
私は、パーティ前に貰ったばかりの時計ばかりを見ていたんだ。