外は暑く、家の中でぼんやりパソコンに向かっている。
 でも、手は止まったまま扇風機の風に当たっていた。
「・・・わかんねぇ・・・」
 おれは答えが知りたくて、思わず携帯を取った。






一朝一夕、一言半句






「で、どうしたの志摩さん?」
 香ちゃん家のリビングで、お茶を出してくれた家主を見る。
 今日はオフらしく、香ちゃんは優しい笑みを浮かべてソファに座った。
「・・・なぁ香ちゃん、のことどう思う!?」
「はぁ??」
 香ちゃんが首を捻る理由も解るけど、他に言葉が見つからなかった。
 なんか、引っかかるんだよなぁ・・・?

“志摩くんが大好きなのになぁ・・・”
 数日前に聞いた言葉、あれは正真正銘の言葉だろう。
 でも面と向かって訊けば『違う』と言うし・・・わけわかんねぇ!!!

「・・・ふーん、そんなこと?」
「なっ!?」
 ハッと我に返り、香ちゃんの方を見る。
 無垢な笑顔だけど、なんか可笑しいぞ・・・
「志摩さん、全部声に出てるから」
「なっ!?マジか!!」
 途端に顔を赤くしてしまった。
 オイオイいつからだよ!?

「で、さっきの質問だけど」
 香ちゃんはお茶を飲みながら続けた。
「好きだけど?」
「はぁっ!?」
 自分でも吃驚するくらいの過剰反応。
 でもまさか、香ちゃんがを好きだなんて思わなかったぞ!?
「恋愛感情とは違うと思うけどね」
 ・・・ちゃっかり補足しやがった。
 動揺の表情をしていたおれは、少し固まって脱力した。

「あ、でもと楽しそうに笑ってるのを見ると、可愛いって思うよ」
「なにぃ!?」
 ガタッと立ち上がり、その拍子にお茶が少しこぼれる。
 やっぱ香ちゃんはのことを・・・って、すっげぇ笑われてるし。
「・・・・・・からかうなっ!!」
 再び座ると、香ちゃんがティッシュでお茶を拭いてくれた。

「志摩さんはどうなわけ?」
 急に振られて、驚いてきょとんとなってしまった。
のこと、どう思ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

 だってのことだろ?
 別にどうも思ってねぇんじゃねぇのか!?
 頭の中であいつの顔を浮かべてみた。
 怒ってる姿、考え事をしてる姿、泣いてる姿、笑ってる姿・・・
 思えば、のいろんな表情を見てるなぁなんて思ってしまった。

「・・・わからん・・・」
 捻りに捻った答えだけあって、一番明確な答えだった。



「わりーな、ヘンなことでせっかくの休日を潰しちまって」
「いいよ別に、暇だったんだし」
 香ちゃんは微笑んで、次のようなアドバイスをくれた。
「解らないのなら、実際のに会ってきたら?」





 別に、特別な想いなんて無い。
 香ちゃんが会ってこいって言ったから、そのアドバイスを実行してみるだけなんだ。
 なんて・・・言い訳してるおれがいる。
「でもなんか行き辛ぇ・・・」
 門前まで来たはいいけど、この先に入る勇気が出ねぇ!!!

 ん家の門は結構でかい。
 まるでおれを入れまいとしているようで、ますます入りづらい。
「あ゛〜〜〜くそっ!!!」
 しゃがみ込み、頭をガシガシと掻く。
 答えが知りたいだけなのに、なんでこんなに緊張しなくちゃならねーんだ!?
 ん家なんて今まで何回も入ってるじゃねーか!
「・・・おれらしくねぇぞ」
 しゃがんだまま見上げると、ますますでかく感じる。

「あれー?」
 突如聴こえた声にビクッと肩を震わせた。
「志摩くん・・・よね?何してんの??」
「・・・げっ!」

 永倉・・・、さん・・・!?

 おれの反応の悪さに少しムッとして、「その反応は何よ」って言った。
「お、お前なんで此処に居るんだ!?」
「だって私の家じゃない」
 ・・・いや、確かにそーだけど・・・。
 まだ決意してなかったおれにとっては大打撃であって、あたふたとしてしまう。
「え、えーと・・・学校帰りか!?」
「うん?そうだけど・・・志摩くん、何かヘンだよ」
 の訝しげな目が見え、うっと言葉を詰めてしまった。
 だけどすぐに笑顔に変わった。
「ちょっと見てて面白いけどさ」
 あははと笑いながら、は門を開ける。
「志摩くんも入るでしょー?」
「・・・あぁ」

 今まで拒むようにでかかった門は、の笑顔のように優しい印象を持たせた。
 ・・・おれ、ヘンか?



「お茶入れてくるね」
 笑顔のまま、はリビングを出る。
 その後姿をつい目で追ってしまう。

 いつも見る風景、リコもいつも通り。
 でもさっき香ちゃんとした話のせいか、だけはいつもと違ってるように思えた。
 ・・・いや、なんというか・・・何がかはわからねぇけど。

 ・・・さっきの笑顔を思い浮かべる。
 なんか、安心するんだよなー・・・あいつの笑顔って。

「・・・そうか」
“好き”とかはわかんねーけど、をどう思ってるかは解った。

「“大切”・・・だな!」
「何が大切なの?」

 声の方を見ると、がお茶を持って首を傾げていた。
 やっぱり、一番しっくりくる!
「わりぃ!おれちょっと香ちゃん所行ってくるわ!!」
「へ?ちょっ、志摩くん!?」
 そう言って、すぐ家を出ていった。
 解ったんだから、即行香ちゃんに言わないと気が済まねぇ!!
 もう一度来た道を戻っていった。



「・・・なんなの?もう」
 は入れたばっかりのお茶を置き、きょとんとして玄関を見つめていた。
 でもすぐに笑顔に変わり、思い出すように目を細くした。
「やっぱヘンなの。でも志摩くんらしいや」

 は、おれにとって“大切”な存在。 そんなこと、あいつは知らない。