「で、どうしたの志摩さん?」
香ちゃん家のリビングで、お茶を出してくれた家主を見る。
今日はオフらしく、香ちゃんは優しい笑みを浮かべてソファに座った。
「・・・なぁ香ちゃん、のことどう思う!?」
「はぁ??」
香ちゃんが首を捻る理由も解るけど、他に言葉が見つからなかった。
なんか、引っかかるんだよなぁ・・・?
“志摩くんが大好きなのになぁ・・・”
数日前に聞いた言葉、あれは正真正銘の言葉だろう。
でも面と向かって訊けば『違う』と言うし・・・わけわかんねぇ!!!
「・・・ふーん、そんなこと?」
「なっ!?」
ハッと我に返り、香ちゃんの方を見る。
無垢な笑顔だけど、なんか可笑しいぞ・・・
「志摩さん、全部声に出てるから」
「なっ!?マジか!!」
途端に顔を赤くしてしまった。
オイオイいつからだよ!?
「で、さっきの質問だけど」
香ちゃんはお茶を飲みながら続けた。
「好きだけど?」
「はぁっ!?」
自分でも吃驚するくらいの過剰反応。
でもまさか、香ちゃんがを好きだなんて思わなかったぞ!?
「恋愛感情とは違うと思うけどね」
・・・ちゃっかり補足しやがった。
動揺の表情をしていたおれは、少し固まって脱力した。
「あ、でもと楽しそうに笑ってるのを見ると、可愛いって思うよ」
「なにぃ!?」
ガタッと立ち上がり、その拍子にお茶が少しこぼれる。
やっぱ香ちゃんはのことを・・・って、すっげぇ笑われてるし。
「・・・・・・からかうなっ!!」
再び座ると、香ちゃんがティッシュでお茶を拭いてくれた。
「志摩さんはどうなわけ?」
急に振られて、驚いてきょとんとなってしまった。
「のこと、どう思ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
だってのことだろ?
別にどうも思ってねぇんじゃねぇのか!?
頭の中であいつの顔を浮かべてみた。
怒ってる姿、考え事をしてる姿、泣いてる姿、笑ってる姿・・・
思えば、のいろんな表情を見てるなぁなんて思ってしまった。
「・・・わからん・・・」
捻りに捻った答えだけあって、一番明確な答えだった。
「わりーな、ヘンなことでせっかくの休日を潰しちまって」
「いいよ別に、暇だったんだし」
香ちゃんは微笑んで、次のようなアドバイスをくれた。
「解らないのなら、実際のに会ってきたら?」
別に、特別な想いなんて無い。
香ちゃんが会ってこいって言ったから、そのアドバイスを実行してみるだけなんだ。
なんて・・・言い訳してるおれがいる。
「でもなんか行き辛ぇ・・・」
門前まで来たはいいけど、この先に入る勇気が出ねぇ!!!
ん家の門は結構でかい。
まるでおれを入れまいとしているようで、ますます入りづらい。
「あ゛〜〜〜くそっ!!!」
しゃがみ込み、頭をガシガシと掻く。
答えが知りたいだけなのに、なんでこんなに緊張しなくちゃならねーんだ!?
ん家なんて今まで何回も入ってるじゃねーか!
「・・・おれらしくねぇぞ」
しゃがんだまま見上げると、ますますでかく感じる。
「あれー?」
突如聴こえた声にビクッと肩を震わせた。
「志摩くん・・・よね?何してんの??」
「・・・げっ!」
永倉・・・、さん・・・!?
おれの反応の悪さに少しムッとして、「その反応は何よ」って言った。
「お、お前なんで此処に居るんだ!?」
「だって私の家じゃない」
・・・いや、確かにそーだけど・・・。
まだ決意してなかったおれにとっては大打撃であって、あたふたとしてしまう。
「え、えーと・・・学校帰りか!?」
「うん?そうだけど・・・志摩くん、何かヘンだよ」
の訝しげな目が見え、うっと言葉を詰めてしまった。
だけどすぐに笑顔に変わった。
「ちょっと見てて面白いけどさ」
あははと笑いながら、は門を開ける。
「志摩くんも入るでしょー?」
「・・・あぁ」
今まで拒むようにでかかった門は、の笑顔のように優しい印象を持たせた。
・・・おれ、ヘンか?
「お茶入れてくるね」
笑顔のまま、はリビングを出る。
その後姿をつい目で追ってしまう。
いつも見る風景、リコもいつも通り。
でもさっき香ちゃんとした話のせいか、だけはいつもと違ってるように思えた。
・・・いや、なんというか・・・何がかはわからねぇけど。
・・・さっきの笑顔を思い浮かべる。
なんか、安心するんだよなー・・・あいつの笑顔って。
「・・・そうか」
“好き”とかはわかんねーけど、をどう思ってるかは解った。
「“大切”・・・だな!」
「何が大切なの?」
声の方を見ると、がお茶を持って首を傾げていた。
やっぱり、一番しっくりくる!
「わりぃ!おれちょっと香ちゃん所行ってくるわ!!」
「へ?ちょっ、志摩くん!?」
そう言って、すぐ家を出ていった。
解ったんだから、即行香ちゃんに言わないと気が済まねぇ!!
もう一度来た道を戻っていった。
「・・・なんなの?もう」
は入れたばっかりのお茶を置き、きょとんとして玄関を見つめていた。
でもすぐに笑顔に変わり、思い出すように目を細くした。
「やっぱヘンなの。でも志摩くんらしいや」
は、おれにとって“大切”な存在。 そんなこと、あいつは知らない。