突然呼ばれたと思ったら、なにか手紙を渡された。
 なに?これ。なんでこの子は恥ずかしそうなの?

 残された私は、今も状況が解らないまま。






「好き」の勇気






 虹が丘公園ではいろんな人たちが避暑している。
 そんな中を私のローラーブレードが少し喧しげに進んでいった。
 ・・・と言っても、私も遠慮しがちに速度を遅くして滑ってたんだけど。
「あ〜〜〜終わったぁ!!」
 う〜ん、と伸びをする。丁度上を向くと大きな時計台が映った。
 制服姿の私は、いま下校中。
 蝉の音に耳を傾け、「もう夏だなぁ」と言いながら公園を横切っていた。
 そんなとき、毎日とは違うことが起きた。

「あ・・・あの!」

 突如大きく叫ぶ声が後ろから聴こえ、私は反射的に振り向いてしまった。
 別に私を呼んだんじゃないだろうとは思ったけど・・・ついよ、つい。
 ジャッと踵を返すと、そこにいたのは私よりも少し大きい男の子。
 志摩くんよりも大きいかな?短い黒髪に制服、これは隣町の高校のだ。
 ちょっと格好良さが見え隠れした彼は顔を赤く染めながらも、私の方を見ていた。

「あの、永倉 さんですよね・・・」
「・・・はぁ」
 なんだ、私のことだったんだ。
 そういえばこの人誰だろう。御用かな?ってゆーかあったっけ??

「どうして私の名前を知ってるの?」
 前に御用を受けたことも無いし、う〜ん・・・謎。
 顔が真っ赤な男の子は、どもりながら言った。
「と、友達が香蘭学園に通ってて、永倉さんは有名だったから・・・」
 ・・・そうなんだ。私は苦笑いを返しておいた。
 確かに有名なのも解るかも。だってローラーブレード登校なんて私くらいなもんだし。

 その男の子は傍まで近寄ると、何かを渡してきた。
「こ、これ読んでください!」
「へ?」
 彼は顔を真っ赤にしながら強引に受け取らせる。
「返事は今度でいいです!!じゃっ!!」
 そう叫ぶと、ギクシャクした様子で踵を返して歩き出した。
 すれ違う人々も気にしないで、ぎこちない歩きをしていた男の子は途端に走って公園を出て行く。



「・・・はぁ??」
 独りとなった私は、今も状況が解らないまま首を捻る始末だ。

「よう、!」
 ふと呼ばれた声にハッとして手紙から視線を外す。
 目の前でニヤニヤしてるのは志摩 義経。
 うわぁ志摩くん・・・なんでこんなときに会うかな。
 いつもなら笑顔だけど、今日の私は後ろめたい思いでいっぱい。

「・・・なに?」
 異様にニヤニヤしてるから、溜まらず訊いてしまった。
 すると志摩くんは変わらない笑顔で叫びやがる。
「なんだ?ラブレター貰ったのか!?」
「うるさいなー!」

 全く、早く帰りたい・・・。
 でも初めて貰ったんだよね、ラブレターなんて。

、お前怖ぇぞ!?」
「え?はっ!」
 やっやばい・・・無意識にニコニコしてた。
 でもやっぱり嬉しいものは嬉しいじゃない。
「そっ、そーだ志摩くん!うちでご飯食べていかない!?」
「マジ!?いいのか!?」
「勿論!」
 いや〜機嫌が良いんだよね。
 私は鞄の中に手紙を突っ込み、再び滑り始める。
 もう一度上を向くと、時計台の針は5分進んでいた。


    永倉 さま
    突然の手紙、すみません。
    初めて会ったのは僕が香蘭に行ったときです。
    ローラーブレードを履いて友達と下校してる貴女を一目惚れしてしまいました。
    とても無邪気に笑う貴女を見て、僕はなんて可愛らしい人だと思いました。
    貴女のことが好きです。
    また会ったときに返事を窺おうと思っています。
                             仁科 蓮


 そう書かれた手紙をソファで読んで、思わず顔が赤くなってしまった。
 いやいや私!!何照れてんの!?
 手紙を仕舞うと、ようやく志摩くんが目に映る。
 あれ・・・不機嫌?
「どうしたの志摩くん?」
 思わず言うと、ブスーッとした表情を崩さないまま言った。
「おれには解らねーな」
「は?」
 何を言うのかと思ったら・・・その意味が私にはさっぱりだった。
「どういうこと?」
「だから、なんでそんなに嬉しそうなんだ!?」
 そんなに嬉しそうにしてないってば。
 でも、説得力ないかな。
 ちょっと確信したことで、更に嬉しくなってしまう。
「ねぇ志摩くん、それ嫉妬?」
「はぁっ!?」

 今度は志摩くんが頬を染めて叫んだ。
 そこまで驚かなくても良いじゃない。

「なっ、なんでおれがに嫉妬なんだよ!!」
「あっ!じゃあこの手紙くれた仁科くんに嫉妬?」
「ちがうっ!!!」
 完全に機嫌を損ねたみたい、ぷいっとそっぽを向いてる。
 でもね、志摩くん。耳まで真っ赤だよ?


 「好き」って言ってくれたことも嬉しかったけど、
 なんだか解りやすい嫉妬も嬉しかったんだぁ。

 嫉妬に勇気なんて要らないのにね。
 なんだかすっごい皮肉だなぁ。





 後日、下校中にもう一度勇気を出してくれたあの男の子に会った。

 もちろん、私の答えは決まってる。

 だって、答えは揺らがないことは明確だから。