雨の日になると、外を見る。
 ほら、いろんな人が傘を差してる。

 その中に混ざるのは、優しさに満ち溢れた色。






カラフル






「うわわっ、雨!?」

 パラパラと降ってた雨が強くなり、歩行者の足を速めていく。
 でも私は例外だった。
 出てきた店の前から動けず、通り過ぎる人々を見ているだけだった。
「うあ〜・・・どうしよう」
 夕立ならすぐに止むはずなんだけど・・・そのうち、留まるどころか盛大に降り始めた。

 今日は学校帰りに服を買ってたんだ。
 と言っても志摩くんたちも別の依頼に動いてるから、一人でだったんだけど・・・
 う〜ん、店の中にずっといたから、雨が降ってるなんて知らなかった。
「ばったり会ったりしないかなぁ・・・」
 うわ〜私ったら志摩くんが傘を持ってるわけないのに。
 てゆーか持ってても会わないっての。
 雨足が強くなってきた。
 はぁ〜・・・ここから自宅までは少しかかるんだけど、濡れて帰るしかないのかなぁ。
 早足で過ぎ去っていく人々を見ながらそう思ったとき、ふと蒼い傘が目に入った。

「・・・え、志摩くん?」
「ん?お、?」

 傘の持ち主は志摩くんだった。
 あれー今日は依頼じゃなかったのかな?きょとんとした表情を作ると、怪訝そうな顔をされた。
「お前なんでこんなところに居るんだ?」
「それはこっちの台詞よ。御用は??」
 御用?と首を捻ったが、志摩くんは返した。
「あぁ、依頼か?さっき終えてきたんだよ」
 で、お前は?と言われ、私は袋を指差す。
「買い物してたの。かっわいいサンダルを見つけちゃった」
「ふーん、どんなのだ!?」
「めちゃくちゃ可愛いの!でも高かったのよー!」
「で、傘が買えなかったのか?」
「うっ゛・・・」
 な、何も言い返せない。
 お店には傘も売ってた。買えばいいんだけど・・・高いのよ、それが。
 服を買ったせいで残金はわずか。
 ・・・家に帰ればどうにかなるけど、もう用は無いわけで・・・要するに志摩くんの言うとおり。

 意地が悪そうに笑っている志摩くんをジーッと見てみた。
 気付いた彼は、一層意地悪く微笑む。

「入れて欲しいか?」
「・・・・・・欲しいです」
 素直に言ったせいか、志摩くんはすぐ入れてくれた。

 更に雨足は強くなり始めた。
 もう行きかう人達は傘を持ってて、でもバシャバシャと音を立てて通り過ぎていく。
「ねぇ志摩くん、何処行くの?」
 明らかに私の家とは違う方角を歩いてると思うんだけど?
 斜め上を見ると、志摩くんは前を見たまま答える。
の家よりおれの家の方が近いだろ?」
「え、そうなの!?」
「あれ!?お前おれの家来たこと無かったか!?」
「ないわよ!」

 全く、一度だって行ったことないんだから知るわけ無いっての!!
 とにかく足早に、一つの蒼い傘はアパートへと向かっていった。



「あ〜〜〜疲れた!!」
「ほんとだよ〜!!」
 びしょ濡れの志摩くんは家の中に入り、私も後に続いた。

 始めて入る志摩くんの家・・・結構お洒落じゃない。
「意外!綺麗に片付いてるんだね」
、お前褒めてんのか?それ」
 ジーッと批判の目で見られても気にしない。
 だっていつも私の家でダラダラしてるんだもん、志摩くん。
「ま、いーけど。ほら!」
「え?わっ!」
 バサッと一式渡される。
 えっと、タオルと・・・服?
「洗面所はそっちだ。風邪引くから着替えて来いよ」
 にっこり微笑んで言うもんだから、あっけにとられてしまった。
「あ、うん・・・」

 やばい、いま顔赤いかも。
 それを隠すように私は洗面所へ向かった。

「うわ〜、うわ〜、なんか恥ずかしい・・・」
 小声で、あくまでも小声で叫びながら制服を脱ぐ。
 なんで恥ずかしいかって?
 だって初めて来たって言うのになんで私は服を着替えてんのよ!!
 雨め、恨むわ・・・でも、雨のおかげで志摩くんの家に来れたんだよね。
「とっ!とりあえず着替えなきゃ・・・」
 長い髪をタオルで拭き終え、志摩くんから預かった服を着始める。

 私の手は止まり、全部着て鏡を見てみる。
「・・・うわ、ぶかぶか」

 静かにドアを開けると、音に気付いたのか志摩くんが振り向く。
 そして・・・笑った。
「すっげぇぶかぶかじゃねーか!」
「ちょっ、笑わないでよ!」

 意外と志摩くんって大きいんだ。
 貸してもらった服がぶかぶかなんだもん。
 ま、そんな事言ったら志摩くんに怒られちゃうかな。
「とにかく笑うなっ!」
 バシッと叩くと、涙目で笑いながらも志摩くんは「悪ぃ」と言った。
 全く・・・と、窓に目を向ける。

?」
 窓に向かって歩く私に怪訝がったのか、志摩くんも付いてきた。
 少し弱まった窓の向こうに見えるのは、通り過ぎていく人々。
 みんながみんな、傘を差しては足早に通り過ぎていく。

「ねぇ志摩くん、見て見て!」
「んあ?どーした?」
 指を差したのは外の人々。
「上から見たら、綺麗だねー・・・」

 赤、青、黄色、緑・・・
 通り過ぎる傘の色が様々で、上から見るととても綺麗な色たちに見えた。

「お、ほんとだ」
 志摩くんも外の人達を見てる。
「なぁ、の傘は何色なんだ?」
 その言葉に、外を向いてた私は志摩くんの方を向く。
「私の?確か・・・赤とオレンジがあったかな?」
「赤ねぇ・・・やっぱ買う人のイメージ色みたいなのを選ぶんだな」
「へ?」
 あぁ、なるほど。
 確かに志摩くんは色で表すと蒼っぽいもんね。
「ほんと、そうみたい!」

 そういって、再び外に目を向けた。
 雨脚がもう少し弱まるまで、私たちはそうやって色とりどりの傘を見ていた。
 カラフルなキャンバスは様々な色を従え、私と志摩くんの話題は尽きることは無かった。




 もうすぐしたら、私もそのキャンバスの仲間入りになるのかな。

 だとしたら、志摩くんの“蒼”が仲間入りになることくらい、解ってた。