志摩くん、何か弾いて欲しいものある?
 そう言ったら、キミはなんて言いました?






ラプソディ・シンドローム






「志摩くん、ピアノ弾ける?」

 奥の、ピアノが居座ってる部屋。
 ソナタを弾きながら、私は言った。
 志摩くんはそこで本を読みながら首を振る。
「弾けるわけねーだろ」
「練習してみたら良いのに」
「いいんだよ、おれは聴くほうで!」
 そんな大声で言わなくてもいいのに。
 そう思いながら、私は微笑んだ。
 聴いていてくれる。それだけで、私は嬉しいんだからね。

「じゃ〜さ、何かリクエストしてよ」
 ソナタの曲が終わり、私は言ってみた。
 といっても、志摩くんが曲名を知ってるのかも疑問に思ってたんだけど。

「リクエストー?」
 あ、考えてる考えてる。
「じゃあ、自由な感じですっげぇの」
「なんですかそりゃ」
 なんて言いながらも、弾いてあげることにした。

 自由な曲調・・・狂詩曲ね。
 目を閉じて、頭の中で旋律を描く。
 やがてそれは終幕を迎え、私は鍵盤に指を乗せた。

 華やかで・・・メロディがとても自由奔放に動く。
 実はね、私ラプソディ作るの大好きなんだ。
 ピアノの前に座ると、いつも作っては弾いてる曲が狂詩曲。
 狂想曲・・・カプリッチオも好きだけどね。そういった自由なのが好きなの。

「どぉ?志摩くん」
 弾きながら、問いかける余裕すらある。
 楽譜を見てないから、志摩くんの方に目を向けることも出来た。

 志摩くんはというと、本なんか読んでなかった。
 吃驚したようでピアノに目を奪われている。

「すっげぇ〜〜〜〜〜!!!!」
「まぁね〜」
 自慢げに弾いてたとき・・・ま、間違えちゃったのは愛嬌ね。

 やがて狂詩曲は終幕を向かえ、華やかに終わった。



、お前即興で作ったのか?」
「ま・・・まぁね・・・」
 間違えたところにショックを覚えてた私の返答は小さな声だった。

「次のリクエストは〜?」
「んー・・・また自由なの!!」
「そればっかじゃない」

 そう言いながらも、私はやっぱ笑顔。

「おれは自由な感じが好きなんだよ!!」
「怒鳴らなくてもいいって」


 なんか似てるなぁ、私たち。

「じゃあ弾きますかっ!」


 そしてもういちど鍵盤上で指を滑らせた。