・・・は?
 香ちゃん、今何て言った?
 おいおい、おれはそんな事一言も聞いてねーぞ!?






遠距離片思い






 それは唐突に、だけどはっきり聞こえた。
「そういえば志摩さん、がいなくなるから寂しくない?」
「え?」

 聞き取ったばかりのおれは、危うく手の中の本を落としかけた。
 がいなくなるって、どういうことだ?
 香ちゃんの言ってることが全くわかんねぇ。

「なんでいなくなるんだ?」
 素直に訊いてみると、きょとんとした香りちゃんの顔が目に入った。
「あれ?志摩さん聞いてなかった?、明日からイタリアに戻るんだって」
「・・・はぁ?!なんだとっ!?」
 少し時間がかかったが、香ちゃんが言ってる意味が解った。 
がイタリアに戻る”ってことは、もう会えねーってことだろ!?
「・・・おーい、志摩さん?」
 目の前で振られてた手に気付きもしないで、考えていた。

 だってよ、おれはそんな事一切聞いてねぇ!!
 香ちゃんからいきなり聞かされて、明日発つだと!?
 そんな事絶対許さねぇぞ!!

 ・・・お?なんでこんなに動揺してんだよ。
 別に会えなくなってもいいんじゃねぇのか?
 いや、おれはそんなに動揺してねぇけど・・・そ、そうだ!永倉屋はどうするんだ!?
 イタリアってめちゃくちゃ遠いぞ!?

「志摩さん、百面相に気付いてる?」
 香ちゃんは苦笑いをしていたが、それどころじゃなかった。


 っだぁ〜〜〜〜〜〜!!!こうなったらに直接聞くしかねぇ!!!


 ガタッと立ち上がり、呆然とした香ちゃんに一言。
ん家に行って来る!!」
「え、ちょっ、志摩さん?」
「本当かどうかは本人に聞くべきだろ!?」
「でもっ・・・・・・マジで行ったよあの人・・・」
 香ちゃんの言葉も聞かないまま、自分の家から飛び出す始末。
「・・・あれは絶対誤解してるよな」
 後で呟いた台詞なんて聞こえてもいなかった。



 即行での家に向かった。
 ・・・おれってこんなに早く走れるんだ、数分で到着してしまった。
 門はいつも通り、いとも簡単に開き、閉じることも忘れて中に入る。
「ったく、のヤツ・・・なんで言わねぇんだよ」
 庭を歩くうちに、段々腹が立ってくる。
 香ちゃんが知ってておれが知らねぇなんて、信用ないのか!?
 ムカムカしていたおれは玄関前のチャイムを叩いた。
 それでもチャイムはゆっくり鳴って、余計ムカつかせる!

「はいはーい!」
 ガチャッと開いたドア、そして諸悪の根源の姿。
「あれ?志摩くんだー。どうしたの?珍しくチャイムなんて押して」
「・・・おれだって押すっつーの!」
 何かに当たりたかっただけなんだけど、弁解したくもなる。
 は苦笑い気味で、「今丁度散らかってるのよ」って言ってリビングに通した。

 え、マジなのか?
 大きな吹き抜けがあるエントランスホールには、ダンボールが数個あった。
 本当にイタリアに戻るのか?
 そう思ったら、なんかめちゃくちゃ寂しい気分になってしまった。

 ・・・そういえば、此処1年ほどとよく一緒に居たよな。
 香ちゃんと離れるのは嫌だけど、とも離れたくねぇって思う・・・んだよなぁ。

「志摩くん?何ボーっとしてるの?」
 リビングのソファに座ると、も隣に座った。
 今まで動きっぱなしだったのか、軽く伸びをしている。
「・・・なぁ、イタリアに行くって本当か?」
「・・・は?」
 訝しい表情をしたの方が見れなかった。


 なんか、今気付いたけど・・・
 会えなくなったらそれで寂しいんだよな・・・。


 途端、の笑い声がリビング中に響いた。
 なんで笑うんだ?不釣合いだろ。
「真剣な表情をしたと思ったら、何言ってんの!?」
 きゃははっと大声で笑ってる。

 ・・・は?おれには理解できねーぞ!?

 暫らく笑っていたは、ようやく声を出した。
「志摩くん、勘違いしてるよ〜!!」
「・・・勘違いだって?」
「そうそう!」
 はぁ?勘違いの意味がわかんねぇぞ?

「あのね、確かにイタリアに行くよ」
 “でも”と否定の意味が繋がった。
「一週間で帰ってくるって!」

 ・・・なんだってぇ!?

「な・・・なっ!?」
「一生帰ってこないと思ってたでしょ!面白いよそれ〜〜〜っ!!!」
 遠慮なく笑うを見ながら、自分が勘違いしていた理由がわかった。
「・・・じゃあ、帰ってくるんだな?」
「もちろんだよ!」
「本当だな?」
「永倉屋もあるんだから、ね?」
 それにしても、とようやく笑い終えたが聞き返した。
「なんで今更訊いてくるの?一週間前に言ったでしょ?」
「・・・は?」

 一週間前?
 確かにん家に居たと思う・・・香ちゃんやも居たっけ?

「晩ご飯をご馳走しながら言ったと思うけど??」

 ・・・あ!!
 確かにん家でメシを食ったぞ!!その時に言ってたのか・・・。

「メシの時に言うな!!聞いてねぇって!!」
「香ちゃんたちは聞いてくれてたけど?」
「うっ゛・・・」

 今までの怒りを何処にぶつけたらいいんだ?
 おれは立ち上がって叫んだ。


「くそ〜〜〜香ちゃん!!!なんで言わねぇんだよ〜〜〜〜!!!!」

「言う前に志摩さんが出て行ったんだよ」
 丁度おれの家で香ちゃんが返事を返した。

 結局に手伝わされたし・・・割に合わねー!!