大丈夫、傍にいるよ。
 手と涙の温もりから、伝わるはずだから。






愛ある手と涙






「きゃははっ!あー面白かった!!」
 家中に私の笑い声が響いていた。
 テレビを見ていた私は、ちっとも気付いてなかったんだ。
「楽しかったね〜志摩く・・・ん?」

 いつの間にか、一緒に観ていた志摩くんはソファに横たわって目を閉じていた。
 胸が規則的に上下している。
「・・・寝ちゃってたんだ」
 他家のソファで寝るか?フツー・・・
 そう思ったけど、「志摩くんらしいなぁ」の一言で収める私もどうかしてる。
 安心してくれてるんだよね。
 ・・・まぁ呆れ半分・嬉しさ半分ってとこかな。
 毛布をかけてあげながら、私は彼の寝顔を見てみる。
「可愛い顔で寝ちゃって・・・」
 寝てたら静かで可愛いのに。思わず笑ってしまった。
「う〜ん・・・それにしても、暇だなぁ・・・」

 あ、そうだ。
 そろそろ洗濯物を入れようと思ったんだっけ。
 志摩くんは寝てるし、今のうちに取り込んでおこうかな。
 私は起こさないように籠を取ってきて、そのままそーっと庭に出た。
 春も深まり、空気がとても暖かい。
「良い天気だなぁ〜・・・」
 お日様の良い匂いがする洗濯物を入れながら、私はふと空を仰ぎ見た。

 真っ青な空には、雲ひとつない。

「そーだ!志摩くんが起きたら夕ご飯のお買い物に出かけよう!」
 志摩くんのことだから、ご飯作ってあげるって言ったら付いて来るはず。
 なんか想像できるなぁ・・・私は思わず笑ってしまった。



 全部取り入れ、再び部屋の中に戻る。
 ・・・あれ?
「何?なんかさっきと違う・・・」
 すすり泣く音が聴こえる。ハッ!まさかお化け!?
 そうは思ったけど、音の犯人はいとも簡単にわかった。
 ソファで寝てる志摩くんから聴こえたんだ。
「・・・志摩くん?どうしたの?」
 目は閉じられ、そこからボロボロと涙が溢れてる。
 そんなに悲しい夢でも見たのかな。・・・なんか私まで悲しくなってきちゃう。
「父さん・・・母さん・・っ・・・」
 その言葉で、今志摩くんが見ている夢がわかった。

 ・・・確か、志摩くんのご両親は家事でお亡くなりになってるんだっけ。
 未だに魘されてるのね。・・・私以上に。

 不意に、そっと志摩くんの右手を取った。
 少し震えてる・・・それほどの悲しみなの?

「大丈夫。お父さんとお母さんはね、いつも志摩くんのことを見ていてくれてるんだよ」
 それにね、一人になったわけじゃないでしょ。
 夢を見てる志摩くんには聴こえないことはわかってた。
 だけどそれがわかって欲しくて、両手で彼の右手を包んだ。

 やがて、泣いてはいるけど志摩くんは少し落ち着きだした。
 私の思いが届いたのかな・・・?そう思うと、少し嬉しくなる。
 だって、私は志摩くんのおかげで辛い時も乗り越えられるんだもん。
 少しは役に立ちたかったんだよ。・・・言ったことはないけどね。



「・・・?」
「はい!?」

 ゆ、油断してた・・・。
 微かな声で呼ばれたのに、吃驚して大声で返してしまった。
 志摩くんは微笑みながら、「何驚いてんだよ」って言った。
「・・・起きた?」
「ん?あぁ・・・」
 起き上がると、涙がぽたぽたと毛布の上に落ちた。
「はい」
「・・・さんきゅ」
 近くに置いてた籠から、取り込んだばかりのタオルを渡してあげた。
 志摩くんは受け取り、涙を拭う。
「・・・ねぇ、よく見るの?」 その夢、とまでは言えなかった。
 それでも志摩くんはわかったみたい。
「火事の夢か?」
「うん・・・」
「たまに、だけどな。必ず涙が流れんだよ」
 苦笑してるけど、笑えないよ。

「・・・辛いなら、言ってよね」
 私ばかり頼ってたらダメなんだから。
 あぁ、と言った志摩くんはぎょっとしたように、
、なに泣いてんだよ!」
「・・・へ?」

 あれ、ほんとだ。
 志摩くんが泣いていたからかな。
「うつった・・・」
「なんだよ、それ」
 志摩くんは笑うけど、それでもまた涙が溢れている。
 まだ、手は繋がれてる。
 とても真っ青な空の日・・・私たちは思いっきり泣いた。





「・・・あ゛〜〜〜〜恥ずかしいっ!!」
 だいぶ経ち、すっかり涙が乾いた頃、志摩くんが叫んだ。
「何が?」
「なんでよりによってに・・・」
 そこまで言って志摩くんは口を閉じる。
「“に”?」
「いや、なんでもねぇ・・・」
 あ、恥ずかしがってる。
 よりによって私に・・・なんだろ。

 ・・・まさか!

「私に泣き顔見られたのが恥ずかしいとか!」
「うっ!!」
 この様子だと、当たりのようね。
「何照れてんだか。私の泣き顔だって見たくせに」
はいつも泣いてんだろ!」
 ちょっと、人を泣き虫みたいに言わないでよ!

「・・・志摩くんの泣き顔って可愛いね」
「なっ、お前それ嫌がらせだろ!!」
 あははっ、この人をからかうのって面白いわ、やっぱ。
「そうだ!ねぇねぇ志摩くん、これから夕ご飯の材料を買いに行こう!良い天気だよ」
 夕ご飯を作ってあげるからって言うと、
「なにぃっ!?行く行く!!」

 ・・・やっぱり予想通りの反応が返ってきた。
 でも、志摩くんらしいや。
 私は微笑んで言った。


「じゃ、行ってこよっか!!」