私って志摩くんの何なの?
 こんなに哀しい気分になったのは、久し振りだった。






咎めの涙、その理由






「なぁ〜、炭酸類はねぇのか?」
 我が物顔でソファに転がってる志摩くんは、立ってる私にそう言った。
「ない」だって飲めないもん。
 すると志摩くんは「マジか〜」なんて文句を言いながらだれやがった。

「・・・志摩くんさぁ、此処は“永倉”の表札がかかってるのよ」
 要するに、キミは何でいつも私の家にいるわけ?
 嫌味を込めてそう言ったけど、鈍感すぎる志摩くんは全く気付いてない。
「だからなんだよ」
「・・・“永倉”義経ですか?」
「はぁ?何言ってんのお前」
 “志摩義経”は私がバカになったような目つきで見た。

 くぅっ・・・ムカつく!!!

「志摩くんって何なの!?」
 遂に切れてしまった。
 私の変貌ぶりに志摩くんはと言うと
、どーしたんだ?カルシウム取ってるか?」
「取ってるわよっ!!!!!」

 流石の志摩くんも私の怒声に驚いたみたい。

「志摩くんにとって私は何なわけ?」
 ふと思ったその疑問。
 言ったら女々しいような気がして言えなかったんだけど、遂に口に出してしまった。
 志摩くんは吃驚したように目を瞬かせ、
「な、なに言ってんだ!?」
 なんて動転していた。

 別に怒ることじゃない。
 だけど何故か異様にムカついた。
 あまりの怒りに泣けてくる。
!?」
 怒りながらも泣き出した私を見て、志摩くんはますます驚いた。
 でも、それで私の涙が止まったら世の中が楽になるわ。
 私はありったけの声を出して叫んだ。

「志摩くんなんて大大大大っ嫌い!!!!!」
「へ?」
「此処は志摩くんの休憩所でもないし、私はキミのお手伝いさんでもない!!!」

 何言ってるんだろう。
 だけど、実はこれ・・・八つ当たり。
 昨日担任に叱られたことをストレスに思ってて、たまたま志摩くんに怒りをぶつけただけ。
 でもそんな事思ってもない私は、泣きながら叫んで2階に上がっていった。

「・・・はあ?」
 残された志摩くんは唯一人、理不尽な理由と私の涙に戸惑っていた。



 寝室に入り、そのままベッドにダイブする。
 心配そうにリコが追ってきたけど、私はそれどころじゃなかった。
「・・・っ・・・うっ・・・」
 うつ伏せて、ただひたすら泣き続けた。
 泣きたいわけじゃない。だけど涙が止まらない。
 志摩くんには悪いことをしたと思ってる。だけど・・・私は何なの?そう思ってしまう。
 リコはベッドに横たわる私の隣に座り、手を舐めてくれた。
 起き上がり、ベッドに座る。リコは絶えず舐めてくれる。
 きっと励まし。だけど私には重過ぎる優しさ。
「・・・ふっ・・うぇっ・・・」
 辛くて辛くて、涙は止まるどころか溢れ出した。
 伏せたらその涙は頬じゃなくてスカートに落ちる。
「・・・
 ふと聴こえた声には、安心させてくれる人のものだった。
 志摩くん・・・遠慮気味だ。
「・・・なによ・・・」
 目も向けないで答えた。
 声が震えてる。久し振りに泣いたんだ。
 志摩くんは申し訳なさそうに、言った。
「あの、よ・・・悪かったな」
 その言葉に私は気付いた。

 別に志摩くんに謝ってもらうつもりなんてなかった。
 もちろんあまり家に来ないで、なんてことは思ってない。
 寧ろ自分のうちのように寛いでくれてることを嬉しく思う。
 ・・・昨日から、イライラしてた。
 ごめんなさい、あんなことを言うつもりなんてなかったんだ。

 あぁ、今ほど思ってることを相手に伝えられれば良いと思ったことはないかもれない。

「・・・志摩くん、ごめん」
が謝ることはねーんだ」
「ううん、矛盾してた・・・」

 八つ当たりなんて、情けない。
 悪いことをした、涙が止まらない。

「おれも来すぎたよな・・・ごめんな」
「・・・違っ!」
 志摩くんが出てっちゃう!
 私は咄嗟に腕を引っ張った。


「ぅわ!?」
 引っ張った私も立つ気がなく、ドサッと二人して座り込んだ。
「なっ!??」
 志摩くんは驚いて後ろを振り返った。
 ・・・だって、泣きながら抱きついたんだもん、後ろから。

「違うの・・・ごめんなさい・・・」

 言わなきゃ。
 私は泣きながらも志摩くんの背中に言った。
「ホントは・・・寛いでくれてるのが、嬉しいのよ」
 しゃっくりを上げながら、私は続ける。
「・・・当たっただけなの・・・八つ当たりだった・・・」
 こんな小さな声で、志摩くんに伝わっただろうか?
 だけどそれで精一杯。
 抱き締めて子供のように泣いた。

「・・・なぁ、
 俯いてた志摩くんは、後姿しか見えない。
 離れて涙を拭いて、震えた声で答える。
「・・・なに?」

 ・・・あ。

「ゴールデンウィーク、あるだろ?どっか行くか」
 志摩くん、耳まで赤い。
「・・・・・ありがとう」
「へ?おまえなあ、答えになってねーって!!!」
 振り返った志摩くんはいつものように笑った表情。
 涙で晴らした目を体育座りで隠し、私は腕の中で微笑んだ。
「・・・行くっ!!」

 大っ嫌いって言っちゃった。
 ごめんね、本当はね・・・

「志摩くん、大好き。」
 ボソッと伝えてあげると、志摩くんは少し驚いたみたいで
「はぁっ!?」
 なんて奇声を上げた。
 だけど、さっきの“大っ嫌い宣言”は嘘だって気付いたのか、

「可愛いとこあるじゃねーかっ!」
 なんていいながら、頭をなでてくれた。


 泣いただけ、気が晴れた気がする。
 ううん・・・きっと志摩くんが優しいからかもしれないなぁ。