「ぅあ〜〜〜・・・」
私は思わず声を漏らしてしまった。
先日の厄日以来、私は片足を捻挫している。
だから歩くのも大変だし、もちろんローラーブレードも履けない。
「ヤバイ・・・いつも通りの時間に準備しちゃった・・・」
今から歩くと30分以上かかりそうな予感さえする。さて、どうしたもんか・・・
「遅刻だ・・・」
もう最悪!とばかりに落ち込んでしまう。
出だしがこれだと本当に辛いよね。
・・・志摩くん何やってんのかなぁ・・・
「ん?なんで志摩くんが出てくるのよ」
そんな余裕もないくせに、私はついつい志摩くんの名前を出してしまう。
油断してたら、第一声がそれなんだから・・・焦るわ。
「焦ると言えば、今日ホントにどうしよう・・・」
エントランスホールで私は一人呆然と立ち尽くしていた・・・。
結局学校へは自転車で向かうことに。
そうは言っても、片足が使えないんだからもう片方の足で漕ぐわけ。
付いた時はもう朝のホームルームを終えるチャイムが鳴る時間だった。
「はぁ・・・疲れた・・・」
自転車置き場に置き、職員室に向かう。
先生のお咎めを頂き、教室へ。
ひょこひょこ歩きがこれほど嫌になったことはないかもしれない・・・
「おはよう」
ガラッと開けると、みんなが見る。
「あれー、今日は休みじゃないの?」
だ。ちょっと、誰がいつ休みだなんて言ったのよ。
「休みたかったけどね、一応来たの」
「さすが優等生ねー」
「でもまぁが居ないと面白くないか!」
莉璃と飛鳥がとそんなことを言う。
・・・なんか、私可哀想じゃない?初めて思った。
国語の時間も、日本史の時間も。
他の生徒のように焦って勉強なんてしない私は、窓際の席を有効に活用した。
先生の話を聴きながらも、目は黒板じゃなくて空を見上げてる。
志摩くん、まだ寝てんだろうなぁ〜・・・
同じ空の下、私と志摩くんってこんなにも違うのよね。
・・・はっ!何言ってんだろ、私。
「ねぇー」
「ん?」
どしたー?って言う陽気なに、訊いてみた。
「はさ、香ちゃんのこと好きなんだよね」
「そうだけど・・・何?今更。はっ!まさか、志摩さんから香ちゃんに乗り換えた!?」
「まさか。香ちゃんはかっこいいけど恋愛対象じゃないわ」
「なんやそれ。私こそ志摩さんは対象外やね」
「・・・だよね、普通」
だって、無神経で鈍感で小さくて馬鹿で煩くて負けず嫌いだもん、志摩くん。
「好きになるところがないような気がする」
なのになんであんなに好きなんだろう。
「そぉ?」
私の心の中の問いに、は笑いながら答えた。
「って志摩さんに護られてるやん。志摩さんなりに大事にしてんじゃない?」
大事に、ねぇ・・・
確かに、危なっかしい時はいつも助けてくれるし、優しい時は優しいし、かっこいいとこもあるし。
「で、なんなの?」
それだけが訊きたいわけじゃないんでしょ?とは微笑んだ。
そう、本題は此処から。
「はさー、一日中香ちゃんの顔が浮かぶ?」
「もちろん!大好きやねんもん!」
即答するも彼女らしいなぁ・・・なんて思ったのはこの際内緒。
「もしかして、志摩さんが頭から離れないの?」
「そうなのよ。家だけじゃなくて私の脳裏まで占拠しちゃって」
あながち嘘じゃないでしょ。
も笑ってくれた。我ながら面白いことを言ったもんだ!
「っていつのまにそんなに志摩さんを好きになってたの?」
「へ?」
そんなに?・・・って、どんなに?
なんか笑ってるがわからない。
「朝も、昼も、夜も。いつも志摩さんを思い出しちゃうんでしょ!」
「そうなのよ。もう嫌になる!」
すると一層が笑い出し、そのまま後ろにこけるんじゃないかとまで思えた。
「それはさ、よっぽど志摩さんが気になるんだよ」
「えー?気になる??」
「そう、気になってんのよ。好きやから、何してんのか気になるわけ」
・・・確かに、『志摩くん何してんのかなー』ってよく思う。
「さすが!なんか博士みたいだね」
やっぱり彼女に訊いてみてよかった、そう“初めて”思えた。
それからも、授業中は空を見上げてはの言葉を繰り返してた。
そっかー・・・私、志摩くんのことがどんどん好きになってんだ。
いつの間にそんなに大きな存在になったんだろう。・・・わからない。
あっというまに、放課後。
私は志摩くんのことより、朝の問題が再浮上してしまうことになった。
「莉璃さん、飛鳥さん、さん」
3人はそれぞれ「なによ、改まって」という言葉を言ったけどそれがすっかり重なった。
「・・・だれか、自転車漕いでくれない?」
無理を承知で言ってみた。・・・案の定。
莉璃は「残念、部活です」って言う。
飛鳥は「私はこれから編集作業があるんだよね」って言う。
は「天空問屋の仕事があるから無理!」って言う。
「えぇ〜〜〜!!」
なに!?この人達は友達愛と言うものはないの!?
「私一人だと時間かかっちゃうんだもん!つれて帰ってよ〜〜!!」
「「「ごめん、!」」」
・・・はぁ・・・結局また一人で頑張って帰るのね。(涙)
そう思って肩を落とした私に、は一つの提案を差し出した。
「じゃあさ、志摩さんに来てもらったら?」
「・・・はぁっ!?なんで志摩くんが出てくるわけ!!」
ニヤ〜って恐ろしい笑顔を浮かべてるは、「いいから携帯貸しな」なんて言う。
「嫌」
「はい、」
「あ゛っ!!!」
飛鳥が鞄から取ってに渡す。
ちょっ、みんなして何してんの!!!
私が呆然と見つめる先で、は電話をかける。
「あ、志摩さーん?私、だけど」
うわっ!マジでかけやがったよ!!!
「ちょっ、莉璃!!あんたは味方でしょ?」
すると莉璃は「に味方ね。だって面白そうだしっ!」なんて満面の笑みで言う。
・・・本気だ。みんな何やってんの!?
「暇でしょ?これから。うん、やっぱり!」
あっ!!今チラッとこっちを見た!!!なんかムカつくなぁ〜〜!!
「でね、が捻挫してんのよ。えっ?知ってる?」
受話器に手を当てて、驚いたようには
「なんで知ってんの?」
「だって捻挫当日にばったり逢ったんだもん」
「ほほ〜、なら話は早いわね」
再び受話器に向かって話し出す。
・・・もう良いよ、諦めました。
どこかで『来てくれたらいいなぁ』っていう思いもあったから、結局はの言う通りなのかもしれない。
あぁ、なんだかんだ言ってこの3人は友達なだけあるかもね。
「実は、今日自転車で来てんだけど、漕げへんやん。・・・え?私ら?」
は莉璃と飛鳥を見る。二人とも首を振る。
「私らは用があるんだって。志摩さん送ってあげてよ」
なんかドキドキする。
やっぱ私、志摩くんに惚れてんのか・・・。
「ほんとに?わかった、10分後に校門前でね。言うとく!!」
は携帯を離して私に戻してくれる。
「聴こえてた?」
「・・・うん」
ありがとう。心の中ではお礼を言っておいたけど、口に出しては言わなかった。
「じゃあ頑張ってな〜」
「うん、ばいばい!」
友達3人はそれぞれに教室を出て行って、私一人が残る。
「・・・さて。今から行こうかな」
降りるのも少しの時間がかかるし、今から行ったらぴったりでしょ。
私は、「志摩くんに今日の晩ご飯作れって言われそうだなぁ」なんて言いながらも、微笑んでいた。
朝も、昼も。
今まで私はいつもあなたのことを想ってた。