大人になりきれてない大人って居るんだ。
 なんだか将来が不安になる・・・私、大人なのかな?






ピーターパン症候群






 今日はローラーブレードではなく、歩いて帰っていた。
 お昼までの学校は終業のチャイムを鳴らし、いつもならとっくに帰ってるだろう。
 でも私は帰路に着く前に、いつもの公園に向かっていった。
 といっても、帰るには公園を通らないといけないから、結局帰路なのかな。
 公園に着いた私は、何をするでもなくただ空を見上げてみた。

「お、早いな」
 ふと声をかけられ、私は振り向く。
 待ち遠しかった相手・・・志摩くんがそこにいた。
「ううん、今来た・・・とこ・・・ろ・・・」

 ついつい言葉が途切れてしまった。
 だって、志摩くんが女の人連れてるんだもん。

 呆然とその女の人を見ていた。
 その人は推定25歳前後で、今流行りのギャルのようなファッションをしていた。
 ミニスカートに、高いヒールの靴。
 そのせいか、私は愚か志摩くんをも超えてる身長は、隣の彼を一層小さくさせた。
「・・・・・どちら様?」
「ん?」
 あぁ、と志摩くんは言い、続けた。
「依頼でな、子供っぽいところをどうにかしてくれって言われたんだよ」
 どうにもできねぇっての!と言う志摩くんをよそに、私は安堵とショックを覚えた。
「えーっ!!依頼が入ったの!?」
「まぁな。最近多くて嬉しいぞ〜おれは!」
 だって、メールでは“新しく出来たお店でご飯奢ってやる”って書いてたじゃない!!
 嬉しくないよっ!!・・・・・・依頼なのは嬉しいけどさ。

「じゃあご飯は何処で食べるのよっ!」
「んー?・・・・・・ん家だな」
「今お昼代幾らになるか計算したでしょ」
「うっ・・・」

 そんなことだろうと思った。
「別にメールで言ってたお店でだって依頼の話は出来るしね。さ〜行こうっ!」
「なっ!!おれが奢るのか!?」
「志摩くんが言ったんじゃない!!!」
 私たちは依頼人のことも忘れてぎゃあぎゃあ言い合った。
 それを見ていた女の人は一言。
「仲良いね、二人とも。ひょっとして恋人なの!?」
「「違うっっ!!!!!」」

 こんなケチなヤツと恋人になるんなら、私は一生いらないわよ!!!
 ・・・ん?恋人?

「照れちゃってる〜可愛いー!」
 あははと笑う女の人。
 私と志摩くんは途端に言い合いを止め、ちょっと赤くなってたんだから。



 結局、志摩くんは私と依頼人を何処かの喫茶店に連れて行った。
 また今度、新しく出来たお店で奢ってくれるんだって。まぁいっか。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
 そう聞かれたから、私から注文する。
「Aランチを」
 次に言ったのは志摩くん。
「おれはBランチ」
 最後は、もうお昼を済ませてた依頼人。
「イチゴオーレ!」
「はい、かしこまりました」
 店員さんは去って行き、少しの沈黙が流れた。
 なぜそれを?と思ったものの、訊いてはならないような気がして、思わず逸らす。
「・・・で、どういう依頼なの?」
 沈黙の根源だった依頼主のほうを向いた。

 彼女の名前は清原 珠理さんといった。
 珠理さんの話によれば、それはその子供からの依頼なんだって・・・ん?子供っ!?
「え、珠理さん何歳!?」
「私?36〜」
「「さっ、36歳だって!?」」
 志摩くんも知らなかったみたいで一緒に驚いた。
 見た目25歳かと思ってたのに、まさか子持ちだったなんて・・・しかも、その子供からの依頼!?
「子供は何歳なんだ?」
「えーと、今年で18かな?」
「18!?おれより一つ下かよ!?」
 マジでかっ!?と志摩くんは相当驚いてる。
 私だって驚いてるわよ!!一つ上だもん!!!

 珠理さんはけらけら笑いながら、
「鈴和も子供なのよー、私が『にゃ〜』って言ったらのってきてくれるもん」
 にゃ〜・・・って、そんなの私言わないけどなぁ。

 なるほど。この人は大人になりきれてない大人のようなものなのね。

「でも、どうして治すように言うんです?鈴和さんは」
 この答えを聞いたときには“聞かなきゃよかった”って思っちゃうんだけど。
 笑ってた珠理さんは、笑顔のまま、

「もうすぐ卒業式だから、しっかりして欲しいんだって〜」
「「・・・はぁ?」」

 隣にいた志摩くんは、私に小声で「・・・娘も子供だな」って言った。
 もちろん私は頷いてしまった。
 だって、その通り。二人して子供なんじゃない。

「ね、ねぇ・・・どうしてしっかりしようと思わないんですか?」
 きょとんとした珠理さんは、
「やだ、私しっかりしてるよ?」
「ぇ・・・」
「“大人”って言葉が嫌いなのよね。だから大人っぽくなろうとは思わないかな」
 店員さんが持ってきたイチゴオーレを飲みながら、珠理さんは“大人”の顔をしてそう言った。
「とりあえず、私はこれでいいのよ。じゃーねっ!!」
 飲み干したイチゴオーレを置いて、彼女は颯爽と去って行った。


「・・・なんだったんだ・・・」
「さぁ・・・?」
 志摩くんと私、呆然としてた。・・・でも、思考回路は働いてた。
 何処からが“大人”で、何処までが“子供”なんだろう。
 きっと、誰にも大人な部分と子供の部分はあるはず。
 まぁ・・・あの親子には子供の部分が多いんだろうけどね。
「ねぇ志摩くん、私って大人?」
 やってきたランチを食べながら、私は訊いてみた。
 返ってきたのは、どうでもよさそうな返事。
「あー?どっちでもねぇだろ。なんだからよ」
「・・・そっか」

 大人とか子供とか、決めるもんじゃないのかな。
 ちょっと胸の奥がスッキリした私は、この後も軽快にフォークを走らせた。

 二人して食べ終わった頃。
「よし、出るか」
「うん・・・あれ?」
 ふと目に入ったのは、一枚の紙切れ。
「・・・志摩くん、珠理さんから報酬受け取った?」
「ん?・・・・・あぁ゛っ!!!!!!」
 忘れてたとばかりに固まった志摩くんに、とどめの一撃を出してしまった。
「しかもイチゴオーレの代金は志摩くん持ちだよ?」
「はぁっ!?なんだって!?」

 一枚の紙切れ・・・もとい、伝票を渡すと志摩くんは発狂した。
 それはもう、他の人の迷惑も考えないで大声で。


「くそ〜〜〜〜〜やられたっ!!!!!!!」





 なんていうんだっけ、こういう子供っぽい大人のこと。

「あ、ピーターパン症候群だ」

 なんだかんだ言って志摩くん、キミは珠理さんの事を悪く言えないと思うな、私。