“リジー・ボーデン”、“だらしない男”。
 今まで2つのマザー・グースが表現されてた。
 まだ、あるの?
 私たちに、何を伝えたがってるの?

 まだ、“淀川 茉莉”の姿は見えない。






Nursery Rhyme [お母様が私を殺した]






「はぁ〜〜・・・疲れた・・・」
 教室内で私は言った。
 今日一日で、いろんなことがありすぎた。
 依頼どころじゃない。
 だって依頼主が色々やってんだもん。
 何が「正体を破れ」よ、信じられない・・・。

 なんて思ってたけど、そういえば。

「・・・
「ん?」
「お手洗い付いて来て」
「はぁ?」
 一人で行ってきなよって言いそうなだけど、さっきの悲鳴のおかげかどうか、「仕方ないなぁ」って肯定してくれた。
「やった!」
 私は嬉しく言う。
 だってさっき手に汗握って、べとべとなんだもん。
「志摩くん、香ちゃん」
 呼ぶと二人は反応してくれる。
「お手洗い行って来るね」
「おー。気をつけろよ」

 志摩くんの忠告を、私は『何が起こるかわからないから』と捉えた。
 だけど、『怖がりだから』という意味で志摩くんは言ったのかもしれない。

「うん。連れて行くから大丈夫!」
「ほな行って来る!」
 私たちは元気に教室を出て行った。
「・・・心配だな」
「本当に」
 2人がそんな会話を交わしてるなんて思っても見なかった。



「・・・ねぇ、トイレって何処?」
「・・・へ?」
 私たちは少し立ち止まる。
「何処?」
「知らんよ!」
 こうして、手を洗う項目の前にお手洗いを探すことから始まった。
「うぅ〜〜・・・またマネキンとかないかなぁ・・・」
 転がってる手や足を見てはビクッと震える体・・・どうにかしてよ。
「気にするから余計怖くなるわけよ。此処はトイレを探すことだけ専念しい」
「うん・・・」
 に言われ、トイレの文字を必死で探す。
 すると、案外すんなりと見つかってしまった。やれば出来るじゃない、私!

「じゃあ手洗ってくる」
「うん。私はトイレー」
 行きたかったんじゃん。
 私のおかげね、なんて思って蛇口を捻ったその時。
 電気をつけてたから良く見えた。

「ぅわ!」

 ・・・赤い水が流れてるし。
 だけど私は『血』じゃなくて『赤水』と思ってしまった。
「どれだけ使われてないのよ・・・」
 ずーっと流してると、時期に普通の水に戻った。
「なにしてんの?」
「ん?赤水よ・・・全く使われてなかったみたい」
 水で手を洗い、私たちはお手洗いをあとにした。
 何事もなく、志摩くんたちの元に戻りたいと願っていたけど・・・


 キーン・・・コーン・・・カーン・・・コーン・・・


「なっ!」
「うわ・・・煩いなぁ」
 廊下だと一層大きく聞こえるチャイムの音は、次のマザー・グースを予兆させている。

、離れないでよ!!」
「解ってるよ!!こそ・・・ん?」
 まず、が異変に気付いた。
「なんか変な臭いしない・・・?」
「匂い?」
 意識してみる。・・・なんか、嫌な臭いが広がる。
「何の匂い?」
「さぁね・・・」
 突如、ズッと滑ったが私を持った。
「ぅわあっ!」
「ひゃあぁっ!!なに?!」
 いきなり掴まないでよ!!なにか違う“モノ”が掴んだのかと思ったじゃない!!
「滑った・・・何やろ?」
「・・・血、じゃない?」
 血だまりが転々としていた。
 それは奥の階段のところで曲がっているのがわかる。
「行ってみる?」
「行かなきゃあかんわなぁ」
 やっぱり?
 震える身体に鞭を打って、私はについていった。



・・・」
「あれ、志摩くん?」
「・・・香ちゃんも、何してんの?」
 階段にはもう志摩くんと香ちゃんがいた。
 二人とも顔色が良くないけど、どうしたんだろう?
「お前ら来るな!特に!!!」
「はぁ?」

 二人の向こうには、何かがぶら下がって揺れているように思えた。
 でも真っ暗で見えない。

「志摩さん何言ってんの?」
 って言ってはぶら下がってる“ソレ”に懐中電灯を当てた。

「・・・・・・・・・・・・え?」
「ぅわぁっ!!!!!」

 ポタッ、ポタッ、と高い音が響く。
 下は血が落ちて溜まっている。


「・・・・・・・・・・狂ってる・・・」


 血の近くには何本か白い骨が落ちていた。
 骨には肉が削ぎ落とされた跡もある。
 ロープでくくられてぶら下がっていたのは、『何か』の肉の塊。

「・・・マザー・グース・・・」
 が当てた先の窓に、血文字がかかれていた。


 My mother has killed me,
 My father is eating me,
 My brothers and sisters sit under the table,
 Picking up bury them under the cold marble stones.

「お母様が私を殺した。
 お父様は私を食べている。
 兄様姉様弟妹テーブルの下で
 私の骨を拾ってる。
 そして冷たい石のお墓に埋める」


 読み上げた私は、誰がこんな狂ったやり方をするのか疑問でならなかった。

 きっとあの塊は猫か犬だろう。
 酷い・・・なんて酷い。

「おい、あれ!!」
 志摩くんが窓の先に気付いたのか、指を差して叫んだ。
 桜の木に、人影が。
 一人だった人影は、幾人かの影に増えた。
「・・・行かなきゃ」
 低い声で、私が言った。

 いつもならあんなものを見たら卒倒してしまうだろう。
 だけど私には怒りしかなかった。
 マザー・グースだかなんだか知らないけど、動物の命を惨く戒めるなんて、許せない。

 私たちは別の階段を通って桜の木まで向かった。





「・・・・・・いない、ね」
 桜の木には、もう誰も居なかった。
 そして、もう一つ変わったことがある。

「・・・桜が、」ない。
 綺麗に咲いていた桜の花が、全て下に落ちていた。
 そこにあったのは、ピンク色の湖。
 木に彫られてたのは、やはり英語。


「There was an old man,
 And he had a calf,
 And that's half;
 He took him out of the stall,
 And put him on the wall,
 And that's all.」

 ひとりのおじいさん
 子牛を飼ってた
 これでお話の半分
 牛小屋から引っぱり出して
 塀のうえにのっけた
 これでお話はおしまい


「終結を唄ってるみたい」

 もう、チャイムが鳴り響くことは無かった。