「志摩くん、犯人・・・」
「あぁ、依頼人の“淀川 茉莉”だ」
「やっぱり?あの人しか私らが泊まってるの知らへんよね」
「ただ、動機が見つからないな」
「そうよね香ちゃん。考えてても全く浮かばない」
「・・・とりあえず、淀川 茉莉を見つけ次第捕まえるぞ」
「うん。解った!」

 私たちは簡潔に話し合い、すぐに寛いだ。
 といっても、教室内だから寛げないんだけどね。






Nursery Rhyme [だらしない男]






「ねぇ〜寝床どうすんの?」
 一番の疑問をぶつけてみた。
 香ちゃんは「離れない方が良いと思うよ」って言ったっけ。
 ・・・あ、なんか顔が赤いよ。
「・・・襲う気?」
「んなわけあるかいっ!!!」
「なぁ〜んだ」
 ちょっと面白いなって思ったんだけどね。
「それにしても、なんか冷えないか?」
 志摩くんだ。
「そういえば・・・寒くなったね」
 ってゆーか私制服だし。スカートとか寒いし。
「・・・は暖かそうね」
「うわ、まだ根に持ってんの?」
「うるさいっ!」

 それにしても、急なような気がする。

「窓とか何処か開いてるのかな?」
 聴くや否や、はドアに指差して言った。
「よーし志摩さん見てこーい!」
「なっ、おれぇ!?なんでおれだけだよ!!」
「じゃあも行ってこーい!!」
「はぁっ!?」
 これを俗に言う“とばっちり”というのでは!?
「・・・ま、いーや。行くぞ、
「えぇ〜・・・」
 そう言っても、二人きりってのは少し嬉しい。
「んじゃ、行ってあげるか!」
 鞄から棍を取り出し、三節を組んだ。
「じゃ、二人とも気をつけてね」
「あんたらこそ、間違いとかないようにな〜」
「殴るよ」
 めぇ、覚えてなさいよ・・・。
 必ず逆襲(?)することを決意して、私は志摩くんについて行った。



「ちょっ、志摩くん待ってよ!」
 懐中電灯を持ってるのは志摩くんなんだから、離れたら怖いのは私じゃない!
「うぅ゛〜〜・・・怖い・・・」
 でも香ちゃんと違って抱き付き辛い。
 ので、志摩くんの服の裾を持ってみた。
 これで離れないし近くに入れる!なんて思って、再び私って乙女だなぁって頬を赤くしてしまった。

「3階の窓は開いてねぇみたいだな。・・・?」
「へっ?」
 やばい聴いてなかった!!
「う、うん!!」
 適当に頷いたのが解ったのか、志摩くんはムッとして
「お前聴いてんのか?」
「・・・聴いてた」
「嘘つけ!」
 だって暗くなったらまた雰囲気とか出て怖いんだってば!!
 花○さんとかテケ○ケとか出てこないか心配だよぉ〜〜っ!!!

「ほら、行くぞ」
「え?わっ」
 裾を持ってた手を掴まれ、もっと近くになる。
 ・・・志摩くんの顔が赤くなっていた。
 暗くても、分かっちゃった。
 その手は私が隣に来ても、階段を降りるときも離れなかった。

 2階も何も起こってないみたい。
 だけど、少しさっきとは違うような気がしてならなかった。


 キーン・・・コーン・・・カーン・・・コーン・・・


 また響くように鳴ったチャイム。
 思わず身を硬くしてしまうくらい、煩い。
「またか!?」
「うん!」
 今度は何のマザー・グース?
 ガシャン、と一番奥の部屋の窓が割れる音がした。
は此処にいろ!」
「解った!気をつけてね」
 マザー・グースとか茉莉さんのことを考えてた私は、不覚にも志摩くんを見送ってしまった。



「・・・・・・・・・・ヤバイ・・・・・・」
 一人なんてめちゃくちゃ怖いじゃん!!!!
 しかも懐中電灯は志摩くんが持ってるから、暗闇が一層私を怖くさせた。
 誰が来ても、それが例え志摩くんでも絶対悲鳴あげてしまいそう。
 生唾を飲み込んだその時、後ろで何かが落ちる音がした。
「へっ!?」
 振り返っても、誰もいない。
 まさか・・・お化け!?

 何気なく廊下の向こうをみた私は、そこに“落ちていた”ものを見てしまった。


「っひゃああぁぁあああっっっ!!!!!!」


 思いっきり悲鳴をあげ、私は腰を抜かすように座り込んだ。
 目は見開かれてたと思う。とにかく吃驚して、恐ろしかった。

 冷静に考えれない。
 怖い、怖い、怖い!!!!!

っっ!!!???どうしたんだよ!!!」
 悲鳴に驚いたのか、すぐ志摩くんは声を張り上げて戻ってきた。
 そして私が見ているものを見て驚きの声をあげた。
「うおっ!!何だあれ!?」

 私が見ているもの・・・少し先に転がってるもの。
 それは人の頭だった。
 目は見開かれ、こっちを見ていた。
 血のような赤いものが広がっているが、それは落ちた衝撃で床に散っている程度だった。

!?」
「ちょっ、大丈夫!?」
 後ろから香ちゃんとの声も聴こえた。
 悲鳴に驚いて降りてきたんだろう。でも視線の先を見て吃驚した声を上げた。
「なにあれ?」
「頭!?」
 志摩くんが近寄り、ホッと安堵のため息をつく。
「心配ない、マネキンだ」

 ・・・マネキン?
 なんで、また・・・・・・

「ついでに、いろんなところにいろんなもんがあったぞ」
 志摩くんはガラスが刺さってる腕を持っていた。どうやらマネキンのものみたい。
「うん、さっき此処に来るまでに足とか指とかあった」
「でもこれは、悪戯にしては手が込んでるな」
 香ちゃんも近づいて目を懲らしめていた。
「大丈夫?」
 はというと、放心状態の私の傍にいてくれてた。
「・・・怖かったぁ・・・」
 だって、一人になっただけですっごい恐怖感に襲われてたのに、こんなの見たら・・・
「まったく、ホント怖がりねぇ」
 苦笑してたけど、ちょっと安心感もあったみたいなの笑みだった。

「・・・志摩くん、その手見せて」
「ん?あぁ」
 きっと外から投げられたであろう、マネキンの手。
 掌に何か書いてあるのがわかった私は、読んでみた。


「・・・There was a man, a very untidy man,
 Whose fingers could nowhere be found to put in his tomb.
 He had rolled his head far underneath the bed;
 He had left his legs and arms lying all over the room.」

「マザー・グース?」
「うん・・・」
 香ちゃんの言葉に答えるように、私は訳してみた。
 これ、知ってる唄だ。

「1人の男が死んだのさ。とてもだらしがない男。
 お墓に入れようとしても、どこにも指が見つからない。
 頭はごろりとベッドの下に、
 手足はバラバラ部屋中に、散らかしっぱなし出しっぱなし」


「なるほど。バラバラ死体を演出したんだな」
「マザー・グースが好きなんだな、ホント」

 志摩くんと香ちゃんはお互いそう言い合った。

「とりあえず一旦戻るか。・・・?」
 志摩くんが不思議がる。
 だって立とうとしないんだもんね。
「・・・腰、ぬけた・・・」
「はぁ?」
 無理もないでしょ、本当に怖かったんだから。
 香ちゃんに運ばれる私・・・なんか情けないなぁ。

 携帯を見ると、もう日付が変わっていた。
 もう大丈夫かな。チャイムは鳴らないかな。


 そう思った私は、その考えが甘いことを知らなかった。