窓の外が暗くなってきた。
「ねぇ志摩くん・・・出る?ここ」
校内を調べる志摩くんに付いて行きながら、私は呟いた。
教室内を見ていた志摩くんは、振り向いて一言。
「何がだ?」
「何がって・・・」
言いたくない単語だけど、声を振り絞って言った。
「・・・ゆ、うれいとかお化け・・・」
「なんだお前、怖いのか?」
「怖くないってば!!!!」
ついつい強がるけど、本当は凄く怖い。
そんな私の心情を知ってか知らずか、志摩くんは微笑んだ。
「出ねーよ」
「本当?志摩くん信用してもいいの?」
「あぁ、出ねぇ出ねぇ」
「なんか投げやりだし・・・」
風が出てきたのか、窓のフレームがガタガタと揺れた。
「出たらどうすんのよ!」
言っとくけど私、見えるんだからね!!!・・・何がかは言わないけど。
「出たら護ってやるから安心しろ」
ポンポンと軽く私の頭を叩き、自信満々に笑う。
そして再び調査に戻った。
「・・・ー?置いてくぞ!!」
「・・・・・・へっ?あっ、待って!!」
志摩くんの言葉が嬉しくて、私はついつい硬直してしまった。
夜が更け、私たちは元の教室に帰った。
それからや香ちゃんに引っ付いていた。
「何やの?」
怪訝がっては言うけど、その度に志摩くんが「怖いんだよなー」ってからかう。
でも香ちゃんの傍にいた時はと志摩くんがムッとしたけど私は知らない。
「もーいいなぁ〜・・・私も香ちゃんの近くにいたい」
依頼人の淀川 茉莉さんが持ってきてくれた布団を隣の教室に敷いたはそう言った。
隣に敷きながら、私は反論。
「私のこの怖さが解るの?」
「ううんわかんない」
「じゃあそんなこと言わないの」
まったく。
ちなみに志摩くんと香ちゃんはさっきの部屋で布団を敷いてる。
、夜這いとかしそうだなぁ〜なんて思ってたとき。
キーン・・・コーン・・・カーン・・・コーン・・・
「ひゃっ!?」
「なになになに!?」
突如聴こえた轟く音。それは授業の開始を告げるチャイムだった。
こ、怖いっ!!!
だって今は午後9時だよ!?鳴るわけないじゃない!!!
「!!」
「!!大丈夫!?」
隣の教室から二人が急いでやってきた。
「志摩くん〜〜!!怖い怖い怖いっっ!!!」
思わず抱きついてしまった。
それを見た香ちゃんとは凝視してたけど、それどころじゃない!!
怖い!!!志摩くん護ってくれるって言ったじゃん!!!
「・・・お前大丈夫か?」
ちょっと吃驚してた志摩くんも、震えてる私を流石に心配してくれたみたい。
だけど怖い!!!!
幽霊とかお化けの仕業!?ねぇそうなの!?
「、落ち着いて。誤作動だ」
香ちゃんが隣で宥めてくれた。
・・・香ちゃんの宥め方ってとても落ち着く。
志摩くんの火の発作の時にはいつも香ちゃんが宥めてるもんね。案の定冷静さを取り戻した。
「でも、何で今更チャイムが・・・」
ふと外に目がいったは、何かの違和感を見つけた。
「・・・ねぇ、あれ。何か変じゃない?」
窓を開けて近くにあった懐中電灯でグラウンドに当てた。
盛り上がって、何か文字が書いたように見える。
・・・え?
「、左上からゆっくり当てて」
「え?うん」
は私が言ったように当てていった。
「Lizzie Borden took an axe,
Hit her father forty whacks.
When she saw what she had done,
She hit her mother forty-one.」
当てられた文字を読んで、一つの答えに辿り着く。
「マザー・グースだ」
「はぁっ!?」
志摩くんたちも目を凝らす。
私は訳して言った。
「リジー・ボーデン 斧をとり
父親 40回 めった斬り
我に返って 目が覚めて
母親 41回 めった斬り」
「惨い・・・」
思わずが呟くほど。
「とりあえず下に降りるぞ!!」
志摩くんの言葉に頷き、私たちは急いでグラウンドに向かった。
「・・・どう思う?志摩さん」
香ちゃんの言葉に、志摩くんは眉をひそめる。
「これは、あんまり手が凝ってないな」
確かに、志摩くんの言う通り。
字は大きいけど、大して深く彫られてない。
太い棒で彫れば同じものが出来上がるだろう。
「音が聴こえないように、チャイムを鳴らしてカモフラージュしたってところかな」
の言葉に頷いた。
「でも、なんでこんな唄を選んだんだろう」
これは、リジー・ボーデンと言う女の子がお父さんを斬る。
“我に返って目が覚めて”というところは、母親がお父さんを斬ったところを目撃したということ。
だからリジーは斬った。そういう話。
「殺意がこもってる・・・でも、誰に対して?」
私の言葉に全員が声を噤んだ。
「とりあえず戻らない?」
それからよ、とが口を開いた。
「・・・そうね」
私たちはグラウンドをあとにした。
この後、帰ってきた私たちは絶句した。
「・・・何、これ」
志摩くん、香ちゃん、、そして私・・・全員が言葉を失った。
一番出入りしていたその教室に、切り刻まれた跡が残っていた。
壁、机、布団・・・どれにも傷が残っていた。
「まさか・・・」
隣の部屋に行ってみた。
やはり隣の教室にもその跡はあった。
「なんだよ、これ・・・」
私の後をついてきた志摩くんも絶句した。
「・・・まさか、マザー・グース?」
「はぁ?」
端に刺さったままの斧を指差す。
血が、付いてた。
「ほら、父親は40回。母親は41回」
「なるほど。俺と志摩さんがいた部屋に40回の切り刻んだ跡か」
「で、私らがおったところに41回?」
数える気なんてない。もちろんだれもそんなこと思ってない。
「とりあえず、場所を変えるぞ」
「賛成」
志摩くんを筆頭に、私たちは集まる場所を変えた。
1階上の場所に移動する間、誰も何も喋らない。
私はというと、怖いことはなかった。
寧ろ、何が目的なのかを考えていた・・・ずーっと。
だけど、私たちは一人にしか会ってない。
依頼人の“淀川 茉莉”
彼女が犯人に違いない。だってだれも私たちよろず屋組が泊まってることなんて知らないんだから。
となれば、夜に見える人影と言うのも彼女だろう。
だけど問題は2つある。
どうして依頼なんてしたのだろうか。
なぜあんなことをするんだろう。
解らない。私の考えが可笑しいのかもしれない。
とにかく茉莉さんの姿を見ないと、どれも確信できない。
そして、チャイムは再び鳴った。