「志摩くん、終わったよ」
明るくなって観客がみんな出て行く。
隣に座って気持ちよさそうに眠っていた志摩くんを起こすと、
「・・・あ、寝てた・・・」
「うん、予想ついてたからいいの」
志摩くんの焦点が合ってない。
よっぽど熟睡できたのかな。
映画館を出ると、もう外は真っ暗だった。
「どーする?」
んー・・・と、志摩くんは考え、
「とりあえず飯だな。腹減った!」
「それじゃあ・・・」
お店に入ろうかなと思ったけど、此処での言葉が浮かぶ。
調教6『むやみにお店に入らないように。夕食はの家の方がええ!公園を通ること』
「じゃあうちに来る?何か作ってあげる」
「マジ!?サンキュー!!」
とっても嬉しい表情をする志摩くんは、いつもと至って変わらない。
結構調教通りに頑張ったんだけどなぁ?
志摩くんってかなりの鈍感だったんだ。
なんて思いながら志摩くんについて行く。
このルートなら公園を通ることが出来る。
ただ、街中も通るからなぁ〜、と私はふと横を向いてみた。
いろんなお店の中心にゲームセンターがあった。
店先に出てるのはUFOキャッチャー。
「・・・あ」
止まるつもりはなかったんだけど、ついつい足を止めてその前に向かってしまった。
「ぅわぁ〜・・・かわいい・・・」
UFOキャッチャーの向こうに、とても可愛いテディベアが座っていた。
香ちゃんから貰ったアンリエットの小さいバージョンみたい・・・かわいい・・・
見惚れてた私は志摩くんを呼ぼうと、少し下がった。
すると、どんっと誰かにぶつかってしまった。
「わっ」
バシャッと何かがかかった音がした。
あれ、何の音?
振り返ると・・・なんかごつい人が頭からジュース被ってた。
「・・・オイコラねーちゃんよぉ、なにさらしてくれとんじゃ!!」
・・・ちょっとぶつかっただけなのに、なんで頭から被るんだよおい。
なんて思ったけど、からの言葉が先走った。
調教7『強気にならず、ちゃんと女の子らしゅうなること!!ケンカもアカンで!!』
えーっと、えーっと・・・
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
秘儀を駆使して、言って見た。
するとちょっと赤くなった。
よしよし、効果ありじゃないの!?
さすがね、とガッツポーズを決めようとしたその時だった。
「ねぇちゃん、この後暇か?ちょぉ遊びに行こうぜぇ!!」
「・・・は?」
あ。ぼろが出た。
思いっきり不審の目で見てたら気付かれちゃったかな。
「なんじゃあ!!この俺が誘っちゃるのに断る気かコラァ!!!」
男の右手が大きく上がって、私に振り下ろされようとしてる。
いつもの私なら此処でその手を取り足を払って倒したり・・・
棍があれば素早く組み立てて降りてくる手を受け止め、そのまま返したり・・・
とにかく、の言葉がなかったらどうとでもなった。
逆に言えば、の言葉があるから厄介なことになった、とも言えた。
調教8『騒動に巻き込まれて怪我しそうになったら、「きゃあ」と叫ぶべし!』
志摩さんが助けてくれるから大丈夫や!!って自信満々に言われてたっけ。
で、当の志摩くんは何処よ!!!見当たんないし!!(自分から離れたくせに)
「痛い目見んとわからんよーやなぁ!!!!」
思いっきり振り下ろされた手を見て、マジでヤバイと思った。
無意識で腕を上げた。
「きゃああぁ志摩くんっ!!!」
バシッと鈍い音が近くで聴こえた。
「ったくバカかお前!何やってんだ!?」
男は倒れ、後ろから志摩くんが現れた。
どうやら蹴り倒したみたい。
「・・・いったぁ・・・」
振り下ろされた手を咄嗟に腕で庇い、志摩くんが倒さなかったら反撃を・・・してたとこだった。
ちょっと怒ってる志摩くんは私の手を取る。
「すぐフラーッとどっか行きやがって!!今だってお前が俺の名前を呼ばないと気付かなかったぞ!?」
怒鳴りながらも、傷を看てくれてるみたい。
そういえば、ちゃんと「きゃあ」って言えてた。
窮地に立たされないと出ない言葉だなぁ、なんて思ったりして。
「で、なにしてたんだ?お前・・・」
今度は呆れたように言われる。
「・・・あのね、見惚れてたの・・・」
「何にだ?」
「・・・・・・あれ」
指を指したのはUFOキャッチャー。
ソレを見た志摩くんは「あぁ、あのクマか?」と言った。
志摩くんは私がテディベアの縫いぐるみ好きなのを知ってるからね。
・・・楽しそうに笑った。
「よーし、おれが取ってやる!」
「え?・・・本当!?」
どうやら志摩くんはUFOキャッチャーの天才らしい。
だって、アンリエット似の縫いぐるみをたった1回で取ったんだもん!
「わあっ、可愛いっ!!!」
受け取ったテディベアをギューッと抱き締める。
嬉しいっ!!
「有難う志摩くん!!!」
本当に嬉しくて、思わず満面の笑みで言うと・・・
志摩くんは頬を染めて、
「あ、あぁ・・・」
って照れてた。
調教9『お礼は思いっきり笑顔で言うべし!!絶対志摩さんはを可愛いと思う!!』
そんなことをが言ってたけど、このときの私は気付かずに実行してたのよね。
最後の方の私はすっかり調教のことは忘れていた。
本当にそのテディベアが可愛くて、それに志摩くんから貰ったものだからとても嬉しかった。
には悪いけど、付け焼刃の調教はやっぱ無理があったんじゃないかな?
帰り道、私たちは次の会話をした。
「志摩くんほんとに有難う!めちゃくちゃ可愛いよ〜この子!」
テディベアを見ては微笑む私に志摩くんは一言。
「そんなに喜ぶか?普通」
「喜ぶ!志摩くんが取ってくれたものだしね!」
「・・・え?」
「ん?」
「・・・あ、いや・・・そ、そういえば!そいつは何て名前にするんだ!?」
どもりすぎだとは思ったけど、私はテディの名前を考えるのに精一杯だったのよね。
「う〜ん・・・」
志摩くんたちの名前はもう使っちゃったし・・・
考え抜いた私は、一つの名前を思いついた。
「“ピノッキオ”!!」
「ピノッキオ?そんな話なかったか?」
嘘を吐くとどんどん鼻が長くなる、あのピノッキオ。
今回の調教のようで、似合うかと思ったんだよね。
調教10『、今回のことは必ず私に報告すること!!』
この言葉どおり、後日に報告してみた。
案の定、こっぴどく叱られてしまった・・・。