午後5時。
 実を言えば、これから志摩くんと映画を観に行く。
 え?何故かって?
 に調教されたのです。『志摩くんの鈍感を治す』んだって。
 あぁ・・・不安。






Fragile Scena






「いい?
 一週間前、が家に来た。ん?なんか深刻な表情してる。
「どうしたの?
 何か渡された。
 映画のチケット?
「あ、これ観たかったんだ〜!!」
 ベタな恋愛映画だけど、凄く人気なんだよね。
「有難う!一緒に・・・」
「何言ってんのよ」
「・・・へ?」
 え、だってがくれたんだし、これは一緒に行こうってことじゃ・・・
 真剣な表情のまま・・・ちょっと怒ってる?とにかく、は言った。
「これを志摩さんと観に行くの」
「・・・ハイ?」

 な、なななな、何言ってるのよったら?
 なんで、なんで私が志摩くんとこんなベッタベタな恋愛モノなんか観に行くの?
「今頃香ちゃんが同じものを志摩さんに渡してるわ」
「はぁっ!?ちょっ、マジ!?」
「大マジ」
 渡されたのは一週間後に上映予定の映画チケット。
 そんなのアリ?
「・・・無理よ!だって相手は志摩くんだもん!!」
「大丈夫、私が調教したる!!」
「調教ぉ?」
 が微笑んだけど、それがなんか“気をつけろ”という警告のような気がした・・・。





 現時刻、午後4時40分。
 今からローラーブレード無しで行くと遅刻しちゃうんだけど、それで良いんだって。

 調教1『まず棍は置いていくこと。それから10分ほどの遅刻もするように』

 動揺とかしちゃうし、今日はとことんの言った通りにしてやることにした。
 だから棍も置いてきたし、わざと遅刻してる。
 ちょっと小走りで志摩くんの待つ待ち合わせ場所まで向かった。


 5時10分。
 いつもの公園の噴水前に、志摩くんがいた。
!遅いぞ!」
 はぁ、はぁ、疲れた・・・でも、私は顔を上げて微笑んだ。

 調教2『それから、志摩さんにはいつもと違う印象をつけるの』

 いつもなら「ちょっと待っただけじゃん!!」って反論するけど
「おまたせ、志摩くん」
 反論せずに、笑顔を向けてみた。
 すると志摩くんは固まって、
「・・・、お前熱でもあんのか?」
 ムッ!
 コイツ、私がわざわざ笑顔を向けてやったのに・・・はっ!いけない、いけない。

 調教3『むやみに怒らないように!女の子っぽくしないと絶対アカン!!!』

 そうよね。確かに怒鳴るなんて、逆にに怒られちゃう。
「う、ううん?早く行こう、志摩くん!」
「お?あ、あぁ・・・」
 よしっ、成功!!
 に練習させられてた甲斐があって、上手く話を逸らすことが出来た。
 因みに、私の今日の服装は珍しくミニスカート。
 だってがそうしなさいって言うんだもん。私は長いスカートの方が好きなのになぁ。
 更に、ヒールを履いてる。あ、これはのね。
 うぅ・・・マジで暴れられない。つか、足が痛くなりそう。

 私たちは並んで歩く。
 映画館は近いんだけど、此処で思い出した。
 私だけ立ち止まってみる。
「ん?どーした?」
 きょとんとして振り返った志摩くんに・・・思い切って言った。
「・・・手、繋いで」
「はぁっ!?」
 うぅ〜〜〜〜〜恥ずかしい!!
 でも、が言ってたんだもん!言う通りにするって決めたしさぁ!!

 調教4『映画館に向かうとき、ふと立ち止まること。で、“手、繋いで”って言えばよし!!』

マジで風邪でも引いたのか!?」
 ・・・このやろう、なんで意外そうに見るんだか。
 だけどやるからには頑張るわよ。“永倉”の名にかけて!!(ちょっと違う)
「手!繋いで?」
 秘儀!(から叩き込まれた)上目遣い!!
 ぶりっ子なんて嫌い。だけどこれは演技だと思えば良いのよ。
 後でに報告しなきゃいけないから、とにかくやらなきゃ。
 ・・・あ、ちょっと赤くなった。
「ったく、ほら!」
 パシッと乱暴に左手を取り、志摩くんは引っ張る。
 やばい。に感謝したくなったかも。
 私、ちょっと嬉しかったんだよね。

 そして映画館に到着。
 チケットはあったから、あっさり中に入れた。
 その時に自然に手は離れた。
「はぁ〜・・・香ちゃんめ・・・」
 ボソッと呟いた志摩くん。苦手みたい、こういうの。
 まぁそうだろうね・・・。志摩くん恋愛モノ観そうにないもん。
 えーっと、この後どうすればよかったっけ。
 私は記憶を1週間前から呼び起こした。

 調教5『ちょっと子供っぽいところを見せなさい。無邪気にはしゃいだりしてみたらえぇよ!』

 はしゃぐ・・・か。
 う〜ん、どうしよう。
「志摩くんなに飲む?私は烏龍茶!!」
「・・・お前、楽しそうだな」
 よしっ、と財布を出す。
「烏龍茶な。買ってきてやるから先に座ってろ」
「わーい!有難う志摩くんっ!!」
 悩みつつも、無意識にはしゃいでいた私だった。
 映画館に入り、一番後ろの席に座る。
 真ん中で一番見やすそう。
 この映画楽しみだったんだよね。相手が志摩くんなのがちょっとネックだけどさ。

「ほら、ウーロン」
「有難う!!」

 隣に志摩くんが座る。
 ちょっと緊張したのは、私だけの秘密。

 轟音が鳴り、スクリーンに大きく映し始めた。