・・・ここ、何処?
 永倉 はゆっくり身体を起こして、辺りを見回した。
 暗闇で何も見えない。
 ゆっくり、慣れるのを待っていた。

 やがて、目が慣れたが見たものは・・・






家庭内飼育のススメ






「あ〜・・・面倒臭い・・・」
 此処は大きな日本家屋の前。
 は門前で見張りをやっていた。
 永倉屋の依頼では、此処の家主が強盗に狙われたから護ってくれとのこと。
 しかし強盗どころか人っ子一人さえ通らない。

「志摩くんは志摩くんで依頼入っちゃったからなぁ」
 はぼやきながら空を見上げた。
 同じ空の下で、志摩はよろず屋東海道本舗の依頼をしている。
 そして香も撮影をしていて、天空問屋のは助っ人屋をやっていた。
 今回は、みんなそれぞれ仕事が入ってしまったのだ。
 一人で門前に居るにとって暇なことこの上ない。

「ま、今日だけだって言うからいっか」
 それで報酬がもらえるなら、あと少しの時間も辛抱しよう。
 そう思い、丁度下を向いたその時だった。

 首に向かって何かがとん、とぶつかった。
 それは確実なもので、フッとの意識を遠退かせてしまった。
「・・・えっ・・・」
『誰が』『何のために』気絶をさせたのか。
 突然のことで、は何も解らないまま気を失ってしまった・・・。





 数時間後だろう、暗い部屋の中慣らしたは目を見開いた。
「・・・え?」
 結構広い部屋の中に、ベッドと椅子があった。
 そして彼女はというと、鎖が輪になって右足についてあり、それは鍵付きでベッドに繋がっていた。
「は??」
ベッドの上には真っ白なワンピースが置いてあった。
「なっ、何コレ??」

 確か、永倉屋の御用で見張りをやってて・・・あれ?どうだったっけ??

「こんにちわ、ちゃん」
「へ?」
 パッと明かりがつき、眼が眩んだが見た人物は、
「・・・名執さん」
 名執というのは強盗から護ってくれといった依頼人。
 は怪訝な表情でキツく言った。
「これはどういうことですか?」
 しかし名執は優しい、近所に住んでいるお爺さんのような表情をしていた。
ちゃんを飼うことにしたんだ」
「・・・飼う、とは?」
「言葉の通り・・・飼うのさ」

 異常だ。
 の心の中で、初めてこの感情が生まれてきた。

「とりあえずそのワンピースに着替えてくれるかい?」
 名執の言葉に即答で答える。
「結構です。帰してください」
「主人の言うことが聞けないのかい?」
「ちょっ・・・」
 それだけ言い、繋がれてるを残して出て行ってしまった。
「・・・・・・どうなってるのよ」
 繋がれた子犬のようにそう呟き、は室内を仰ぎ見た。

 ベッドは天蓋付きで、真っ白なものだった。
 そして室内も女の子らしい外装になっている。

 他の女の子なら一瞬驚くのだが、は家が家なだけに驚くこともない。
 どうすることも出来ず、天井を仰いで、一言。
「・・・・・・とりあえず、着替えようかな」
 幸い、携帯電話は取られることが無く服のポケットに入っていた。
 見てみれば、電波も入るようだ。
 急いで電源を切ってベッドの中に潜りこませる。

 窓は鉄格子付きだし、出られそうもない。
 はとりあえずワンピースに着替えてみることに。


「ぅわ・・・ぶかぶか」
 制服のブラウスの上から白のワンピースを着たは、それでも大きさに余裕があった。
 ロングスカートのワンピースがが着ることによって裾を引き摺っている。
「・・・さて。どーするかな・・・」
 愛用の棍はきっと名執が持っている。
 棍が名執の手にある限り、見捨てて行くことは出来ない。
 志摩に携帯で知らせるか。
 それとも自力で逃げて、後日棍を取りに来るか。

 そこでの思考はストップした。
 コンコン、とノックする音が聴こえたからだ。
「着替えたかい?」
 不服そうな表情は一変、は仕方なく笑顔になった。
「これでいいですか?」
「うん、よく似合ってるよ」
 愛しそうな目で見てくる。
 そんな目には少しの不信感を抱いた。
「夕食だよ。食べたらすぐ寝なさい」
 何もする気はないから、と優しそうな表情のまま言ってすぐに出て行った。
 何もする気ないなら此処に監禁しないでしょ。
 なんて思ったけど、何か事情でもあるのかとも思ってしまった。
「・・・これってホントに飼われてるみたい」
 美味しそうなシチューを見ながら、そう呟いた声は誰にも聴こえなかった。

 ご飯を食べる前に、鉄格子の向こうを見据えた。
「・・・2階か」
 見晴らしの良い景色が見える。
 とりあえず自力で逃げ出すことは出来ないだろうな、と確信した。

 ちゃっかりシチューを頂く。
 うん、言い味してる。名執さんが作ったのかな?
 監禁されててそれどころじゃないのに、はパクパクと食べていった。
 犬のようだ。・・・飼いたくなった名執の気持ちはわからないが。

 夕食を食べ、名執がお皿を取りに来る。
 その後で志摩に電話をしようと思ったは、実際にその通りにした。