「・・・そういえば」
 今更思い出したみたいで、ボソッと呟いた少女がいた。
「志摩くん、誕生日いつだっけ・・・?」






誕生日には






 8月1日。
 永倉 の誕生日・・・志摩にはお世話になっていた。
 星空の置物と、同じく月と星のペンダントネックレスだ。
 幻想モノはの好きなものであり、とても喜んだのを覚えている。
 志摩からの贈り物だと言うのも喜んだ理由の一つではあるが・・・。
 とにかく、お返しをしなくてはいけない。

 それなのに・・・
「志摩くんの誕生日、聞いたことない!」
 今更ながら気付いたは、途端真っ青な表情をした。
「どうしよう・・・どうしようリコ・・・」
 そんなこと訊かれてもリコは解らない。
 クゥ〜ンと鳴くリコを見て、パソコンを見た。
「そっか、香ちゃんに訊けばいいんだ!」

 リコはそんなことを言った覚えはない・・・しかし、はリコの案だと受け取っている。
 ・・・まぁいいが。
 パソコンに向かったは、再び項垂れた。
「でも・・・もう過ぎてたらどうしよう」
 香に訊くのは諦めたのか、再びソファに座る。
「いつだろう・・・どうしよう・・・」
 とりあえず再びパソコンに向かい、『よろず屋東海道本舗』のHPを開いてみる。
「誕生日・・・誕生日書いてない?」

 あぁ、ちゃんが壊れた・・・・・・
 リコはかわいそうなものを見るような目でを見たに違いない。
「書いてない・・・」
 泣きそうな声が響く。
 かくなる上は・・・と、は素早く携帯を取った。





 そして、数十分が経ち・・・
 大きな屋敷に、チャイムが響いた。
「はーい・・・来たっ!!!!」
 は藁をも縋る思いで呼んだのだろう、とても嬉しそうだ。
 ドアが開いた途端、は二人に抱きついた。
「莉璃〜飛鳥っっ!!どうしよ〜〜〜!!!」
「なっ、!?」
「どうしたのよ一体!!」
 さっきが呼んだのはこの二人・・・
 が通っている香蘭学園の報道部、飛鳥は新聞部のそれぞれ部長だった。
 校内のことならこの二人に訊け!
 更に問題なら永倉屋に頼め!と言うパターンが増えつつあるらしい。
 しかし・・・
「はぁ!?志摩くんの誕生日!?」
 莉璃は呆れて叫んだ。
「あんた知らなかったの!?それでもホントに好きなわけ!?」
「だって今気付いたんだってば〜〜!!」

 しかも、思い出し方がまたスゴイ。
 もうすぐリコの誕生日だなぁ〜という思考から思い出したんだから。

「で、なんで私たちが呼ばれたの?」
 飛鳥の言葉には呟く。
「ね、調べて?」
「イ・ヤ!」
「何でよぉ飛鳥ぁ――っ!!!!」
 言うと思った・・・とでも言いたげな二人の表情だ。
 確かに報道部・新聞部の部長だが・・・それが通じるのは校内のことだけ。
 志摩のことなんて知る由もない。
「もうこれはが訊くしかないと思うわ」
 莉璃の言葉に飛鳥は頷く。
「仕方ないよ。まだ誕生日が来てないことを祈るしかないって」

「そんなぁ・・・・・・」
 二人を呼んだのは失敗だった。
 心の底でそう思ったのは当然のことだった。



 突然チャイムの音が響き、リコは玄関のほうを向いた。
 ・莉璃・飛鳥も吃驚して、リコと同じ方向を向いていた。
「誰だろう?」
 の後を、ティーカップを持った莉璃と飛鳥がついてくる。
 モニターを開いて驚いたのはだった。
「しっ、志摩くん!?」
「わーお、本人登場」
「修羅場かしらねー?」
 莉璃と飛鳥は楽しんでいる。
「と、とりあえず二人はどうするわけ?!」
「「勿論、隠れます!!」」
 友達ながら、いい性格をしてる・・・は呆れて思った。

「は〜い・・・」
 遠慮がちにドアを開けると、張本人の姿が見えた。
「よっ!近くを通ったから寄ってみたんだけど邪魔か?」
「ううん、邪魔じゃないよ」
 志摩の表情が明るくなった。
「じゃー入るぞ!」
「どぉぞ・・・」
 この頃のの脳裏では、『どうやって志摩くんに訊こう・・・』という思いでいっぱいだった。
 馬鹿にされるんだろうなあ・・・でも、訊かなかったらプレゼントあげられないし・・・
 過ぎた後でも、気持ちが大事よね!!
 ・・・と、言い聞かせていた。

「・・・?」
「へっ!?なに!?」
 玄関でを覗き見て、志摩が心配そうに言う。
「元気ねーなぁ?心配事か?」
「えっ!?」
『志摩くんの誕生日がわかんなくて、いつ言おうか悩んでた』なんて今は言えない!!!
「うっ、ううん!!どーぞどーぞ!!」
 志摩は変なところに敏感なため、は勘付かれないように振舞ってみた。
 しかし、よく考えたら誰がそんなことで悩むだろう・・・志摩でも見破られないって。

 リビングに通された志摩は、はたとテーブルの上を見た。
「・・・誰か来てたのか?」
「えっ!?あ、あぁ!!」
 机の上にはお茶会の後が。
「莉璃と飛鳥が来てたのよ!志摩くんと入れ違いで帰っちゃった」
「あーあいつらな!最近見てねーなぁ」
 莉璃と飛鳥は志摩とも面識がある。
 ・・・まさか2人が2階から二人の様子を伺ってたなんて、志摩はおろかも気付かなかっただろう。

 机の上を片付け、すぐに志摩に温かいお茶を出してやると美味しそうに飲んでくれた。
「志摩くんって何でも美味しそうに食べたり飲んだりするね〜。出し甲斐があるってものよ」
「なんだそりゃ。おれってそんなに美味そうに食ってるか?」
「うん。お素麺とか、お鍋とか。絶対睡眠薬混入しても気付かなさそうよね」
「お前おれをどーいうヤツだと思ってんだよ!!」

 そう叫んではみるものの、やっぱりのお茶が美味しいのか再び啜っていた。
 微笑ましいように見ていたが、現実問題が(やっぱり)浮上する。

「・・・・・・ね、ねぇ・・・志摩くん」
「ん?どーした??」
 志摩はきょとんとしての次の言葉を待つ。
 思い切って訊いてみることにした・・・何事もやってみなければ!

「・・・志摩くんってさぁ・・・いつが誕生日なの?」
 ブハアアァッ!!
 丁度お茶を飲んでた志摩は、勢い良く噴出してしまった。
 予想外の展開には驚き、「ちょっ、何すんのよ!!」と憤慨した・・・が。

「お前・・・おれの誕生日知らなかったのか?!」
 驚いてるのは志摩の方だ。
「ひょっとして、もう過ぎてる!?気付くのが遅かった!?」
 タオルで拭いていたは志摩の反応を見て、急激に不安になった。

 しかし・・・

「3月25日!」
「・・・へ?」
「おれの誕生日。まだ過ぎてねーぞ!」
「・・・ホント!?」
 良かった〜〜〜とは安堵感を露にした。
「・・・ひょっとして、今まで元気がなかったのはそのせいか?」
 頷くと、志摩は・・・唖然として、次に笑う。
「お前、馬鹿みたいだな〜!!あはははっ!!!」
「ちょっと笑わないでよ!!」
 確かに馬鹿みたいだが、志摩に笑われたらなんだか癪だ。

「3月25日ね!もう絶対忘れない!!!」
「おーおれももう言わねぇぞ!」
「いいもんね!!!」

 しばらく睨み合った二人は、糸が切れたように笑いあった。



「ねえー何か聞こえる?」
「・・・笑ってる」
「はぁ??なんか変な奴らねー」
「ホント、似たモノ同士なんだから」

 2階へと続く螺旋階段では、莉璃と飛鳥が様子を訝しがっていたのは言うまでもない。