夜10時。
住宅街はまだ窓からの光で明るく感じるだろう・・・勿論、永倉邸もその一つだ。
しかし、他の家と違って彼女の家はすぐリビングの明かりが消された。
「うぅ゛〜・・・怖いよぉリコっ!!」
ギューッと困った顔をしたゴールデンレトリバーを抱き締めながら叫んだのは。
家主であり、普段はとても明るく強気なのだが・・・今はちょっと違うようだ。
「怖いけど・・・怖いけど観てしまうのよぉ〜!!」
彼女の視線の先にあるのはテレビ。
部屋の明かりはテレビのみだったのだが、大きな画面は突如黒くなった。
音声を大きく、雰囲気を出しているようだ・・・時期にDVDが流れ出した。
「くそ〜飛鳥め・・・でも面白いんだもん・・・」
はリコを離すことなくテレビを観ている。
きっかけ。それは一昨日に遡る。
「、莉璃!!」
呼ばれた二人は飛鳥の方を振り向いて答えた。
「ん?」「どうした飛鳥?」
飛鳥はDVDを持っていた手をブンブン振りながら近寄り、叫んだ。
「めっちゃ面白いんだって!!!!」
「「はぁ??」」
飛鳥の持っていたDVDを見たと莉璃は、それぞれ異なる反応をする。
「X-ファイル?」だ。
「あーそれね」莉璃だ。
二人の反応を見た飛鳥は、今度はきちんと説明した。
「あのね、これ友達から借りたんだけどめっちゃ面白い!!FBI捜査官万歳!!」
「なにそれ?どんなの??」
「え、知らないの??」
莉璃は意外そうに見た。
確かに、みんなが知っている有名なものなだけに・・・少し世間知らず?
「には怖いかも知れないなぁ・・・でも、面白い!!」
飛鳥を見たは次に莉璃を見る。
「うちね、お父さんが好きで全作あるの。良かったら貸してあげるから見てみなさい」
「うん・・・そうする」
今思えば、知らない方が幸せだった・・・なんては思ってたりして。
「オープニングで流れる曲は知ってるけど、怖い・・・」
(昨日)最初に見たとき、油断をしていたは思いっきり絶叫したという前科がある。
今日からはリコを抱き締めながら観ようと思ってるんだからリコもいい迷惑だ。
「来た来た・・・」
オープニングの曲が流れ終わり、本編だ。
FBIの捜査官が二人出てきて、本格的に捜査開始らしい。
「うぅ・・・怖い・・・」
だけどドラマに集中していたその時。
突如けたたましい音が鳴り響いた。
「っひゃあああっ!!!!!!」
吃驚して発した声のほうが大きかったのか、リコは凄く驚いていた。
「・・・なんだ、電話か・・・」
いつものなら一時停止をして電話に出るのだが、驚いたあまりそんな余裕もなかったのだろう。
リコから手を離し、携帯に手を伸ばした。(開放されたリコは勿論2階へ上がっていく)
「はい・・・」
『よっ!』
短い返事に愛着が湧くその声の主は、志摩 義経。
目のやりどころもないはテレビを観ながら続けた。
「なにー志摩くん・・・脅かさないでよ」
『いや、俺は脅かした覚えねぇぞ?』
「それでも驚いたんだって!」
物語は着々と進み、徐々にの表情が恐怖の色に染まっていった。
『なー、明日学校いつ終わるんだ?よろず屋の依頼手伝ってくれよ』
「うん解った」と言いたかっただが、テレビの光景を見つめたままだった。
『・・・?おーい!』
反応の無さに志摩が不審に思ったその時。
「っひゃああぁぁぁっっっ!!!!!!」
『なっ!?っっ!?』
けたたましく響いたのはの悲鳴。
それに驚いたのは志摩だった。
「わぁあっ!!やだぁあっ!!」
『おい!!どうした!!!』
焦りの声も届かない・・・だって彼女は今、(テレビによる)恐怖心でいっぱいだから。
電話の向こうで、舌打ちが聴こえた。
電話内では何も話がなく、の家では緊迫した状況の曲が流れている。
「ひゃあっ・・・ぅわわっ・・・」
恐ろしい犯人の形相にも驚くはついつい泣き出す始末、だけど体が硬直してリモコンまで手が届かない。
テレビの音と、の泣き声が混ざっていた部屋の中に、大きな衝突音が響いた。
バァンッ!!「きゃあぁっ!!!!」
ドアが開く音がして、余計彼女の肩を震わせてしまう。
「!!!」
「・・・え?」
呼ばれたほうを向けば、息を荒くしている志摩が立っていた。
「大丈夫か!?」
「・・・う・・・志摩くん怖いよぉ〜!!」
やっと体が動いたと思えば、志摩の胸に泣きつく。
そんな彼女を抱きとめると、状況を把握するために辺りを見回して・・・呆然とした。
「・・・お前、まさかビデオ見て怖がってたのか?」
「もうやだぁ〜・・・!!」
「こっちが『やだ』だっつーの!!!」
永倉邸のリビングが明るくなる。
そして次に志摩はテレビの電源を消した。
といってもが引っ付いて離れないため、結構その動作だけでも苦労したものだ。
「なんだそりゃ・・・こっちは悲鳴を聴いて急いで来たってのに・・・」
「うぅ゛・・・」
明るくなって落ち着きを取り戻し始めたの説明を受けた志摩は、脱力感でいっぱいだった。
「ごめんなさい・・・」
とはいいつつも、はまだあの映像を忘れられないのだろう。
志摩の傍から離れようとせず、服の袖を握っていた。
確かには本当に怖がりだから、この様子も解る。
「ったく・・・俺は帰るぞ」
「えぇっ゛!?いや無理ダメ!!!!」
「はぁ?」
ブンブンと首を真横に振り、志摩の服の袖を思いっきりきつく握った。
「家に一人なんてやだぁ〜!!通気孔から人が出てくる!!!」
指を指した先にあるのは通気孔。
小さく四角いところから出てくるのだろうか・・・しかしドラマ中では出てきたらしい。
女性捜査官に襲い掛かったところがのトラウマになって仕方が無いのだ。
「出てきて腎臓取られちゃう〜〜〜!!!」
「んなわけあるかぁ!!!作り話だろ!?」
「だって事実を元に作られたって書いてたんだもん・・・志摩くんいいの!?私が殺されても!!」
いつものならこんなことを・・・いや、極度の怖がりなため、言うだろうか。
「・・・ハァ〜・・・」
女の子、しかもに泣きつかれて放っておける志摩ではない。
「じゃあもう少しだけ居るから。それでいいな?」
少し考えたは、それでも首を振る。
「志摩くん今日泊まってって・・・」
「はぁっ!?何言ってんだお前!!」
「夜に一人なんて死んでも嫌ぁ!!!」
「・・・もともと一人だったくせに・・・」
するとは初めて志摩から離れ、携帯を取った。
片手で器用にかける。
「・・・あ、もしもし香ちゃん?今日これからうちに泊まりに来ない?」
「なっ!!ちょっ、!?」
彼女は今夜一人にならないためならなんでもする。
後にはめられた香も来て、結局志摩もの家に泊まったことは、言うまでも無い・・・。
おまけ ―― が借りて帰った後のこと。
「ねぇ飛鳥、これって結構怖くない?」
莉璃はDVDを指差す。
それに飛鳥も縦に振り、「怖いよホント!」って言った。
「・・・耐えられるかなぁ」
「莉璃、私は無理だと思う」
「だよね」
が耐えられないことを知った上で貸したこの友達が、諸悪の根源だったことを志摩は知らない・・・。