アンリエットを抱きしめながら、はソファに横たわって眠っていた。
2階もクーラーが効いていて快適なのか、ついつい眠りこけてしまったらしい。
「ー?」
玄関から、志摩の声が聞こえた。
チャイムを鳴らしたにもかかわらずが出てこないので、志摩はいつもの通り無断で入ってきたのだ。
しかし、がいることは分かる。
リビングではテレビの声が聞こえるのは、がいてテレビをつけたとしか思えない。
泥棒・・・も有り得るのだが、泥棒がテレビを観ることはない。
「ったく、居るんなら開けろよ・・・な?」
リビングを覗いたが、何処にも彼女の姿は無い。
それはそうだ。
は2階の自室で気持ちよく眠っているのだから、リビングにいるはずは無い。
「何処行ったんだ??」
怪訝に思った志摩は、無意識に螺旋階段を見つめていた。
考えることもなく、そこに向かって軽快に登る。
一箇所だけ、ドアが開いている。
の部屋の1つだ。
パソコンなどに集中していると、チャイムが聞こえなくなるのだろうか。
そんなことを思いながら、志摩はそこに向かった。
「ー?いるのかー?」
そっと中を覗くと、そこから丁度見えるのはソファ。
そこには横たわっていた。
抱き枕と化しているアンリエットが苦しそうに志摩の方を見ている。
「なるほどな・・・」
優しく微笑み、そっと中に入る。
寝る前はパソコンをしていたのか、起動して永倉屋のホームページが立ち上がったままだ。
「ったく、泥棒が入ってもしらねーぞ」
小声で言うが、の目は開くことは無かった。
・・・そういえば、が寝ているのは初めて見た・・・
前にもあったが、そのときは動揺してそれどころじゃなかったか。
そっと近づくと、ソファの傍で転寝をしていたリコの目が開いた。
人差し指を立てて口に当てた志摩を見て、再び目を閉じる。
「・・・こーやってみると可愛いような・・・」
でも、棍を振り回されるのは困るが。
志摩はそう思いながら、苦笑した。
静寂な部屋の中、志摩はの寝顔をただジッと見ていた。
時々顔が赤くなったりしているが、眠っている彼女は気付かない。
突然、だった。
パソコンから大きくメロディが鳴り始めた。
「うわっ!!」
「わぁっ!!!なになに御用!?」
そのメロディに驚いたのは志摩だけではなかった。
はガバッと起き上がり、アンリエットを落としてしまった。
「・・・・・あれ?志摩くんなんでいるの?」
「・・・・・・・・よぉ」
志摩は苦笑いでそう挨拶をするが、は一瞬怪訝そうな顔をした。
しかし、勝手に入ったのかと納得したらしく。
「いらっしゃい」
「・・・あぁ」
微笑んで、床に転がるアンリエットをソファに戻した。
志摩は心臓が止まるかと思うほど驚いたのだろう、はぁーっと大きくため息をする。
は大きく伸びて、パソコンの方へ向かう。
「・・・お前さ、音大きくねぇか?」
「あぁ、寝ちゃったときのためよ」
ケロッとして答えるが、ありえないほどの大きさだった。
「あ、そ・・・」
訊かなきゃ良かった・・・と後悔して、志摩はソファに座り込んだ。
「ほら、御用が来たよ」
は楽しそうにニッと笑った。
そこには、こう書かれてあった。
『From:蛍瀬 蓮那 Subject:依頼内容です。
ここ最近、私に対する悪戯が凄いんです。
最初はほっておいたんですけど、その犯人、家まで知ってて・・・
うちは両親が居なくて、一人なんで・・・鍵もかけてるはずなのに、
どうやってか分からないけど部屋中に落書きとか…悪質なんです。
お願いします、助けてください!』
「悪戯ねぇ・・・」
志摩はの後ろからパソコンを見て、呟いた。
「恨みとかかなぁ?」
「いや、部屋に勝手に入りはしないだろ」
「志摩くんが言っても説得力ないよ」
思わず笑みがこぼれたが、志摩に呆れた視線を向けられて口を噤む。
ん〜・・・と唸るが、とりあえず会ってみないと分からない。
「よろず屋東海道本舗は力を貸してくれるの?」
志摩は携帯を取り出して、答えた。
「香ちゃん、本業が入ってないといいんだけどな」
肯定の返事だ。
は微笑んだ。
「ほんと、香ちゃんと仕事したいのになぁ」