今日は、8月10日。
は玄関を行ったりきたりしていた。
不意に、チャイムが鳴る。
「はい!」
モニターを覗くと、一気に脱力。
『よ、』
『久しぶり。今日はオフだから来たよ』
「なんだぁ・・・志摩くんと香ちゃんかぁ」
の言葉に不思議に思いながら、開いた門をくぐった。
ドアを開けると、再びそわそわしているの姿が。
「なんだとはなんだ!」
「紛らわしいんだもん。あ、いらっしゃい香ちゃん。誕生日プレゼント有難うね」
香には、相変わらず微笑む。
この人格には天晴れだ。
「で、なんかあったの?」
香もこんなにがそわそわしているのは始めてみた。
何かあったのだろうと取ったのだが。
「うん・・・ちょっとね」
はにかんで微笑むに、それ以上何も訊けなかった。
一応リビングに案内され、お茶とお茶菓子を出されたのだが・・・
「じゃ、ごゆっくり」
それだけ言うと、再び玄関に向かった。
「・・・のヤツ、何があるんだ?」
見かねた志摩が、香にこそこそと話す。
香も首を捻り、「さぁ・・・」と呟いた。
やがて、もう一度チャイムが鳴ってがダッシュでモニターに向かっていった。
はい、はいと返事をしている。
「お、原因が分かるみたいだぞ」
「行って見るか」
二人も玄関に向かった。
「・・・なんで二人とも来てるの?」
「がそんなにも楽しみにしてるものが何なのか気になってね」
「たいしたものじゃないよ〜」
そんなことを言いながらも、の手の中にはちゃっかり印鑑が握られていた。
よっぽど、楽しみだったのだろう。
「どうもー」
玄関を開けたのは、宅配便の配達人。
袋をに渡し、印を貰ってすぐに去って行った。
「来たーっ!!」
嬉しそうに袋を抱えたまま、は螺旋階段を上って2階に行った。
もちろん志摩と香も彼女に続く。
は自室に入り、袋を開けた。
志摩と香が付いてきているのもかまわないらしい。
「あ、このぬいぐるみ」
香はソファの上に座っているテディベアに目が行った。
は夢中なため、志摩に聞く。
「志摩さん、気に入ってた?」
香の問いに、志摩は何度も頷く。
「あぁ、すぐリボンを持ってきて、名前をつけてたぞ。ちなみにその名前はアンリエットだ」
「アンリエット?綺麗な名前だな」
香は嬉しそうに言った。
そして、二人はに再び視線を向ける。
が袋を開け、中から取り出したのはテディベアの人形。
少し毛が長めで、ブロンド色だ。
「やっときたのねー!!」
と、嬉しそうに抱きしめている。
「ってテディベアも好きなのか?」
この喜びようを見て、そして香のプレゼントのときを思い出して、志摩が言った。
はやっと二人のほうを向き、思いっきり頷く。
「うん!!」
机の上にある小箱から、赤色のリボンを出して結んだ。
「よろしくねードック!」
「「ドック???」」
がつけた名前は、犬という意味に取れるが・・・
どういう意味だろう?
するとは嬉しそうに微笑んで、志摩と香のほうを向いた。
「この子はドックよ!」
「なんでそんな名前にしたんだ?」
香も志摩の意見に賛成らしく、頷く。
少しムッとしたが、彼女はテレビの上にあるショーウィンドウのようなケースに向かった。
二人もの後ろで見る。
そこには、いろんなテディベアが並んでいた。
6色のリボンをつけたテディベアが6体並んでいた。
そして、一番右にドックを入れるとそれは7体、7色になった。
いい?と言って、は指を差した。
一番左からだ。
「この子は、ドーピー。そして、この子はグランピー。この子はねースニージーだっ!
で、隣の子がハッピー。隣はスリーピー。この子はバーシェフル。で、ドック!」
7体全てに名前をつけているなんて、は何て几帳面なんだろう。
しかし、名前を聞いただけじゃ志摩と香の答えは分からなかった。
「で、何なんだ?」
「この子達の名前はね、白雪姫に出てくる7人の小人よ」
なるほど。
二人はやっと納得した。
「もう大好き〜!!お父さんに感謝!」
ドックを抱きしめ、は叫んだ。
「・・・のお父さんが送ってきてくれるんだ?」
「うん、そうなの!!」
嬉しそうには頷いた。
そう、のテディベア好きは、父親が原因だった。
彼はにテディベアを与えるのが好きで、イタリアの彼女の部屋にはかなりのテディベアがある。
それを知ってるからか、たまにではあるが、海外から贈ってくれている。
ちなみにテディの誕生日説は父親に教えてもらったものだ。
「この子達は小人、で、アンリエットはリコの妹!うんうんいいじゃない私!」
我ながらネーミングセンスの良さに大満足な様子。
「って、はまるととことんはまるんだな」
「あぁ・・・そうみたいだ」
の部屋は赤と白で統一されたシンプルな印象を与えるが、テディベアや幻想的な置物がかなりある。
の好きなものだ。
「・・・でもよ、7匹の小人がそろったのはいいけど・・・その先どうするんだ?」
嬉しそうなの顔は、一瞬で凍りついた。
志摩はなおも続ける。
「お前の父親は送ってくるんだろ?」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「はっ!!!ど、どうしよう!!!!」
の焦った声は、家中に響き渡ったと言う。
余談だが、その後はテディベアに、志摩や香の名前をつけていったそうだとさ。