Happy Birthday Dear Princess






「ここで待ってればいいのよね」
 は公園にいた。
 朝早く、生徒が登校している。
 どんな依頼かは分からないが、この仕事を終えるとはゆっくりするつもりだ。

 今日はの誕生日。
 リコとゆっくり過ごすはず・・・だったのだが。

「・・・え?」
 現れた、依頼人の賀田 千夏は申し訳なさそうに言った。

「この子たちを1日預かっていただけませんか・・・それが依頼です」

 が見たのは、小さな男の子と女の子。
 5歳くらいだろうか、お人形たちのようだ。
 男の子は茶色の髪の毛がとても似合っている。
 女の子の方は長い髪の毛は背中まであり、可愛らしい服がとても似合う。
 誕生日の今日に限って、一日この子を預かるなんて・・・

「え、えぇ、いいですけど・・・」
 一応依頼だ。
 断ることが出来ないのはわかる。
「かが なつなです。」
 “和綱”と言う名の男の子はペコリとお辞儀をして挨拶を交わした。
「かが ゆうゆです。」
 それを真似するように、“夕柚”と言う名の女の子は、礼儀正しくお礼をした。

 は、苦笑いしか出来なかった。



 1泊分の荷物を持ったまま、は呆然としていた。
 手には先ほどの夕柚の手が、隣には和綱がいた。
 神様、いつだって私をゆっくりさせてくれないのね・・・
 ・・・仕方がない、とは和綱と夕柚の方を向いて、微笑んだ。
 二人はの笑顔にホッと安心したらしい。
「お姉ちゃんの名前はぁ?」
 可愛くそういう姿は、まるで幼き日ののようだ。
「永倉 よ。和綱くん、夕柚ちゃん、一日お泊り楽しもうね!」
「うん!ゆう楽しみー!!ね、つな!」
「遊びまくろうぜー!」
 はしゃぐ二人をつれて、は家に戻ることにした。

 帰宅中に、分かったことがある。
 夕柚は自分のことを「ゆう」と呼ぶらしい。
 そして、和綱のことは「つな」と呼んでいる。
 和綱は普通に呼んでいるものの、何とも可愛らしい。

 の家に着くと、二人は唖然としていた。
「「すっごーい!!!」」
 確かに、子供から見ればお城のようだろう。
「さ、中に入りましょ」
 和綱、夕柚と誕生日会でもしようかな。
 はそんなことを考えながらドアを開けた。

「どうぞ。一日限りのお家ですよー」
 弟や妹が出来たようで、いつの間にか嬉しそうながいた。
 和綱と夕柚は家に入るなり、広い家の中で追いかけっこをしている。
「よっ、邪魔してるぞ」
 の笑顔は、見事に崩れ去った。
 クルッと振り返り、リビングを見る。

「・・・キミはどうしているのかな?志摩くん」
 志摩だ。彼は簡単にの家に入れる。
 確かに志摩にとって鍵は諸刃の剣なため、家の門のドアにしか鍵はしていない。
 しかし、突然いれば吃驚するもんだ。
 それでも志摩は悪気がなく「なんだ?ガキの声がするぞ?」と、ソファから乗り出してみている。
 こんな様子はいつものことで、も気にしていない。
 は志摩のことが好きらしいのだが、あまり意識をする様子は無い。
 むしろ、普通だ。
「うん、御用で1日だけ預かっているの」
 微笑んでそう言い、その笑顔は少し恐ろしくなる。
「だから、協力してよね」
「・・・なにィ!?」
 思わず志摩は立ち上がってしまった。
 はケロッとして、
「だって、御用だし。二人も私一人で面倒見れないよ」
 そう言って、後ろを見た。
 まだバタバタして、楽しそうな和綱と夕柚の声が聞こえる。

 確かに、言いたいことは志摩にも分かる。
 の言う言葉はいつだって正当だろう。
「・・・じゃあ、夕飯のほかに、夜食も作れよ!」

 夜食・・・ってことは、夜中・・・
 の中に、一つの方程式が作られた。

「・・・じゃあ、1泊するの!?」
 流石のも吃驚して大きな声を出した。
「あぁ、依頼は1泊だろ?」
 志摩の言っていることは分かる・・・が、好きな人と1つ屋根の下で寝泊りとなると、も結構意識をしてしまう。

 ・・・・そんなことはないと、すぐに気付くのだが。



「じゃあ、荷物を取りに行ってくる」
「あっ、待って!」
 何時までも照れていられないのがだ。
 玄関に行こうとした志摩を呼び止め、一枚の紙を渡す。
 その紙を見た志摩は、一瞬で固まった。
「それ全部買ってきてね!」
 にっこりと有無を言わさない微笑で、は言った。
 紙には、びっしりと食材が書かれていた。

「んなっ!一人でかっ!?」
「さよーならー」

 異議を申し立てようとした志摩は、見事にに追い出されてしまった。
 それが答えらしい。

 子供達だけの声が響く。
 は玄関に投げ出された鞄を持って、集合をかけてから2階に上がった。
 部屋に行くと、二人はまたしても興奮した。
 一部屋に二人で寝ても、十分な広さの部屋は、の寝室に近いところにした。
 そのあと、自室に戻ってメールチェックをすることにした。
「あ、1件入ってる」
 素早くメールを開くと、送信者が明らかになった。

『From : 駿河 香  Subject : Re.
 、誕生日おめでとう。
 仕事が入ってるから、実際に祝えなくてごめんな。
 プレゼントは志摩さんに持たせてあるから、受け取ってくれよ。』

 いつもの通り、短いのだが・・・香らしい。
 別にプレゼントなんていいのに・・・と思いながら、はありがとうの返信を返した。

ねぇちゃんあそぼー」
 和綱と夕柚がの部屋に入ってそう叫んだ。
 それが志摩なら怒るのに、この子達には怒らない。
「うん、いいよー!」
 逆に笑顔を見せるなんて・・・志摩には見せがたいものだ。

 3人がリビングで絵を描いていると、大きな音でチャイムが鳴った。
 がモニターを見ると、そこに写ったのはいつもの親友だ。
「莉璃、飛鳥?」
 は急いで鍵を開けた。
 莉璃と飛鳥は玄関に入るたび、大声で叫んだ。

「ハッピーバースデー!!!」
「誕プレ持ってきたよー!!」
 同じ玄関にいて吃驚したは、やがて嬉しそうな笑顔を露にした。

「ありがと〜!!!」



 リビングには和綱と夕柚がいるため、はダイニングに莉璃と飛鳥を招待した。
 二人ともそれぞれ大きな箱を持っている。
「はい、誕生日おめでとう!!」
「これ、プレゼント」
 二人の手から、プレゼントはの手に移った。
「有難う!開けて良い?」
「「もちろんよ!」」

 微笑んだは、まず莉璃のプレゼントを開けてみた。
 正方形の箱から出てきたのは、綺麗な丸いライトのようなもの。
「これね、電源を入れると光って天井に星が広がるの」
 はこういうの好きでしょ?と付け加えて莉璃は微笑んだ。
 丸い球体には星座が書かれていて、スイッチもある。
 はこう言った幻想的なものが大好きだ。

「うわぁ・・・ありがとう!!」
 とても嬉しそうに言った。

 そして、次は飛鳥のプレゼントだ。
 平べったい箱を開けると、綺麗な丸い壁掛け時計が現れた。
、時計欲しいって言ってたでしょ?」
 飛鳥が微笑んで言った。
 確かに、2階の全室にはついているのに、ダイニングにはついていない。
 リビングの物をダイニングに持ってきて、リビングの方にはコレを飾ろうと、は瞬時に考えた。
「・・・すごーい・・・」
 思わずは目を離せなかった。
 時間が経過するごとに、中の模様が変わっていく。
 夜になるとこの中の絵も夜になり、朝になれば光の絵に変わるというのだ。

「有難う・・・ありがとう!!」
 の笑顔を見て、莉璃と飛鳥も嬉しいのか笑顔になっている。



 の笑みは、莉璃と飛鳥が帰った後も続いた。
 時計はリビングに球体の置物は寝室に置き、2階から降りてきたとき、良いタイミングでまたしてもチャイムが鳴った。
「永倉さん、お荷物です」
 宅配便らしく、印を押して受け取った。
おねえちゃん、なぁに?それー」
 見かねた夕柚はの元にやってきた。
 和綱も後からついてくる。
「ん?多分、私の家族からのプレゼントよ。今日誕生日なんだ」
 邪魔そうにする様子もなく、は微笑んで答えた。
 それを聞いた和綱は、そっと夕柚の耳に囁いた。
 夕柚も楽しそうに頷き、二人は再びリビングに向かっていった。

 はまずは両親からのプレゼントを開けた。
 細長い箱に入っていて、開けるとソレは間接照明だと分かる。
「わ・・・凄い綺麗・・・」
 今年の誕生日は何て良い日のだろう、とは微笑んでしまった。
 綺麗な赤と白の間接照明はとても綺麗だ。
 ベッドの隣に置くことに決めたは、次に兄からのプレゼントを開けた。
 それは、可愛く飾られた小箱。
 ふたを開けると、中も可愛らしく装飾されていて、
 オルゴールの音色でショパンの“華麗なる大円舞曲”が流れた。
 が一番すきなのは、この曲だ。
 この曲を弾きたくてピアノを習ったのもある。
「・・・すごぉ・・・」
 これほど幸せな誕生日は今まで無かっただろう。
 2つのプレゼントを大事そうに2階に持って行き、降りると次のプレゼントが待ち受けていた。

ねぇちゃん、誕生日おめでとー」
「おねぇちゃんおめでとう〜」
 和綱と夕柚だ。
 二人は画用紙を持って、それをに差し出した。
「うわぁ・・・ありがとう!!」
 そこには、の似顔絵が書いてあった。
 子供なため、上手くは無いのだが・・・心はこもっている。
「上手だね・・・うれしいなぁ」
 すると、二人は嬉しそうに微笑んだ。

 しかし、へのプレゼントはコレだけではない。



 しばらくして、志摩が帰ってきた。
 重そうに食材を抱え、荷物も持っている。
「ったく・・・俺を殺す気か!!」
「大丈夫!志摩くんは死にそうにないって」
 微笑んで、2階の部屋に招待した。

 そこで、志摩は鞄の中からプレゼントを2つ出した。
「ほら。お前今日誕生日だろ?」
「あぁ、香ちゃんの・・・と?」
 2つある。
 首を捻ると、志摩が吼えた。
「俺を忘れるなっ!」
 ・・・あれ?志摩くんには確か、前に星空の置物を買ってもらった気がするんだけど・・・?
「・・・いいの?前置物買ってもらったのに・・・」
 志摩は忘れていたのか、「ん?あぁ、」と言って、
「いらないのか?」と、不敵な笑顔で言って来た。

「・・・欲しいっ!!」
 素直に言うものだ。
 志摩は不敵さを消した笑顔を向けた。
 まずは、大きな袋からだ。
 志摩によると、これが香かららしい。
 大きな袋を開けると、そこには真っ黒なテディベアがいた。
「うわぁ・・・っ!!」
 とても大きなもので、笑顔が優しい。
 は感嘆が漏れ、笑顔に変わった。
 リボンはまだ結ばれていない。
 ふと、思いついたは急いで部屋からでていった。
「・・・なんだ?」
 志摩が呆然としていると、やがては走って戻ってきた。
 手には紅いリボンがあった。
 そのリボンを、テディベアに結んだ。

「知ってる?テディベアの誕生日って、名前をつけてリボンを結んだときなんだって」

 あぁ、は自分と同じ誕生日にしたいのか。
 志摩はそう思って、無意識に微笑んでいた。
 結び終えると、首を捻って名前を考え出した。
 志摩も、がどんな名前をつけるのか楽しみにしている。

「・・・・・・決めたっ!!」
 ふと、思いついたようにが叫ぶ。
「・・・何にしたんだ?」
 志摩の言葉に笑顔で答えた。
「この子は今日からアンリエット!よろしくね、アンリエット」
 アンリエット・・・多分、イタリア仕込みだろうが、一応志摩は聞いてみた。
「由来は?」
 は笑顔のまま、言った。
「リコの妹だって意味よ」

 次に、は志摩のプレゼントに手をかけた。
 みんなと違い、小さい箱だった。
「わ・・・綺麗・・・」
 小さい箱に入っていたのは、ネックレスだった。
 月と星のペンダントネックレスは、綺麗に光を反射している。
「有難う・・・志摩くん・・・」
 今までで一番嬉しいのは、やはりくれた相手が志摩だからだろう。
 そっと手に取り、ゆっくり手を後ろに回した。
 首元で、キラッとネックレスが光る。

「どう?似合う?」
 真っ白なワンピースを着ていた上に、そのペンダントがある。

 まるで、天使のようだ。
 志摩は理由は分からないが、何故か顔が赤くなってしまった。

「あ、あぁ・・・」
 そんなことを知らず、は嬉しそうにネックレスを握っている。




 今年の誕生日は、何て嬉しいのだろう。

 そんな思いでいっぱいだった。