あれから、3日が経っただろうか。
 光はいつもの家を見ていた。
 しかしは敢えて、何もしないで生活を続けていた。

 しかし、少し怯えていたのかもしれない。
 手を出さない自分の理由は多分それだろう。
 だから、これからこのままかどうか、不安になってきたときだった。






窓の先、光の向こう






 はカーテンを閉め切ったままの生活をしていた。
 開ければ、望遠鏡が見える。
 いつの間にかの恐怖になっていた。
 外に出るのも怖い。

「・・・メール?」
 そのとき、一通のメールが来た。
 御用かと思ったが、それは違った。
「・・・・香ちゃん?」
 珍しい、仕事中の香からだった。

『From:駿河 香  Subject:元気か?
 、元気か?こっちは仕事で大変な毎日だよ。
 いや、特に用事は無いんだけど、送ってみた。』

「・・・・香ちゃんらしいなぁ」
 はメールを見て思わず吹き返してしまった。
 この人は鋭い。
 人が落ち込んでいたり、怯えていると必ず慰めてくれる。
 今回も、何故かぴったりのときだ。

 そっと電話を取り、仕事中だろうけど電話をしてみた。
 やがて、受話器を越して香の声が聞こえた。

『もしもし?』
「やっほー香ちゃん!」
 は、一生懸命明るい声を出した。
 しかし、香は分かったのか
『・・・どうしたんだ?』
 優しい声でに問いかけた。
「・・・ちょっとさ、相談していい?」
『もちろん』

 は、やっと笑顔になった。



 全てを話すと、香は少し考えたように黙った。
 も、黙っていた。

『気味が悪いな、確かに』
「・・・・・・・うん・・・」
 すると、香がふと思いついたように言った。
『俺は行けないから、頼りになる助っ人を呼んでおくよ』
 助っ人?
 誰だろう・・・と思いながらも、は頷いた。

 それから30分後、不意にチャイムが鳴った。
 その助っ人が来たのだろうかとは扉を開けた。
「よっ」
「・・・・・なんだ、志摩くんかぁ」
 そこにいたのは、いつも涼みに来ている志摩だった。
 ちょっとムッとしてる。
「なんだとはなんだっ!香ちゃんに言われてきたんだよ!」
「・・・あっそ」

 の態度にムカつきながらも、志摩はソファに乱暴に座った。
「で、なんだよ?」
 志摩に言うのはためらいがある。
 後先考えず突っ込む傾向があるからだ。
 しかし・・・自分ではどうにも出来ない。
 自分の非力さに呆れながら、は順を追って話し始めた。

 今まであったことを話すと、志摩は窓の方を見る。
 そっとカーテンを開けた。
「・・・本当だ」
 キラッと光った光がある。
 望遠鏡だ。その向こうに、恐らく人がいる。

 志摩は少し考え込み、ニッと笑った。
「よし、分かった」
「何が・・・?」
「捕まえるぞ」
 その言葉が、なぜか頼もしく思えた。



 まず、志摩は証拠を収めることにした。
 デジカメを持って、2階の窓に潜む。
 その間は1階で望遠鏡の気を引いた。
 こうして何枚か、証拠写真を収めることに成功した。

 次は、犯人に接触することなのだが・・・
「どうやって接触するか・・・だな」
 腕を組んで考えている間に、は思いついた。
「そだ、志摩くん。お昼ごはん食べた?」
「あ?なんでそんな・・・」
 志摩の批判の言葉を遮り、は微笑んだ。
「まぁまぁ、一般の主婦は素晴らしいのよ」
「・・・主婦じゃねぇだろ」
「いいから、ちょっと待ってて」
 は急いでキッチンに行き、何かを作り始めた。
 志摩はダイニングまで行って、の後姿を、首を傾げながら見ていた。


 やがて、料理が出来上がったらしくはダイニングのテーブルに並べた。
 肉じゃがにご飯、味噌汁と和風テイストだ。
 志摩は遠慮しないで食べながら、に聞いてみた。
「コレでどうやって近づくんだ?」
「へ?あぁ、これだよ」
 は今手に持っていた肉じゃがを箸で指した。
 肉じゃががどう役に立つのか・・・志摩はその真相が分からず、怪訝に思った。

 は食べ終わると食器を洗って、残った肉じゃがを皿に乗せた。
 その上にラップをかけて出来上がりらしい。
 ・・・・・・まさか。
「そ。おすそ分けとして持っていけば良いでしょ?」
「なるほどっ!」
 志摩は思わず納得してしまった。
 の考えは、面白い。

 と志摩は、肉じゃがを持って行った。
 彼女は鞄を持ってこれから出かけるような格好をしていたが、実はその中に棍が入っていた。
 志摩がいれば、安心だ。
 何があっても立ち向かえる。
 棍を安心して振ることが出来る。
 やっぱり、莉璃と飛鳥が言ってた通り・・・は志摩が好きなんだと実感できる。



 問題の家の前に来た。
 志摩が呟く。
「よし、行くぞ」

 チャイムが家中に響いた。
 しばらくすると、犯人だろうか・・・男が現れた。
「はい」
「こんにちわ・・・って、えーと、安曇さん?」
 は唖然とした。
 確か、初日に会ったような気がする。
 その安曇が出てきたのだ。
「永倉さん・・・?」
 吃驚した様子で安曇はそう呟いた。

 後ろで志摩が小さくの名を呼んだ。
 それでハッと気付いたは、持っている肉じゃがを安曇の手に渡した。

「どうぞ、おすそ分けです」
「あぁ、ありがとう・・・」
 こいつが犯人か。
 は目を据えて、永倉屋の仕事であると自らを認識させた。
 いや、無理矢理仕事だと納得させた。
「どーも、永倉屋です」
 鞄を投げて、棍を組み立てた。
「おい、誰の依頼だよ」
 志摩はそう苦笑したが、暴れることは触れなかった。
 は真剣な顔で言った。
「もちろん、私よ」

 二人の雰囲気を察したのか、安曇は思いっきり首を振った。
「ち、違う!!俺じゃないっ!!」
「問答無用」
 志摩はその言葉を聞いて、さっき撮った写真を見た。
 確かに、服が違う。


 は棍を振り上げ、一気に


!!」


 振り下ろさず、寸で止めた。

「・・・・・へ?」
 は志摩の方を見た。
 安曇はホッと安心している。
「そいつじゃない」
「そうだ!俺は住んでるだけだよ!笠置が勝手にしてるんだ!!」

「「笠置・・・・?」」

 何処かで聞いたことがある。
 案の定、上から聞いたことのある声が聞こえた。

「おい!さっさと茶を持って来いよ!」
 聞こえたや否や、は走り出した。
 志摩も後からついていく。
 今まで、望遠鏡が見えていた場所は粗方分かっていた。
 一番端の部屋・・・は勢いよく開けた。
「な・・・っ・・・」
 望遠鏡に手をかけたまま硬直していたのは、笠置 明良・・・そう、依頼を受けたあいつだ。

「どーも、永倉屋です」
 いつもと違い、殺気を放った言い方だ。
「笠置 明良・・・御用改めよ」
 棍を一回転させ、振りをつけて振り下ろした。
 それは怯えている笠置じゃなく、望遠鏡を捕えた。

 ガッシャァァンと、粉々になって崩れた。
 の一撃が凄いことが笠置には一瞬で分かった。

「ちょっ・・・待てよ・・・悪気があったわけじゃ・・・」
「問答無用だって言ってるじゃない」

 の怒りは頂点に達していた。
 くるくる棍を回し、戦闘態勢に入っている。

「っうわあああああ!!」と、笠置が逃げ出そうとしたが・・・

!!!!」
 ガンッと笠置の顔に蹴りを入れ、志摩が入ってきた。
「大丈夫か!?」
「・・・うん。志摩くんやっつけてくれたし」
 は棍で指した。
 志摩の一撃も凄く、が直接手を出す間もなく、笠置はダウンしていた。

 笠置は「次は無いぞ」と念を押され、怯えながら逃げていった。
 安曇はというと、一応に謝ったが、話によれば安曇は悪くないらしい。
 友達だったそうだが、勝手に入ってきて望遠鏡で見ていたということだ。
 安曇が何か言えば笠置は逆上する。それ故に言いなりになるほか無かったらしい。




 翌日。
 夏休みの真っ只中の、午前7時。
 はゆっくりと体を起こした。
 リコも起き上がり、嬉しそうに尻尾を振る。



 カーテンを開ける。

 光は、ない。

 朝日が眩しく、は思わず笑みをこぼした。