別に、いつも会わなくってもいいじゃない。
 たまにでいいものよ。そんなもんでしょ?人間。
 煩い人が居なくて清々するんだから。
 最近会ってなくて、御用も依頼も無くて、静かな毎日が送れてる。
 夏休みということもあって、リコも喜んでるんだけど・・・

 何か・・・静か過ぎるんだよねぇ。






邂 逅 の 風






「なんか、すっごい風・・・」
 自宅の庭で、はそう呟いた。
 リコもそう思っているらしく、早々と家の中に非難していた。
 も洗濯物をひったくるように持って中に入っていった。
 リビングに入ると、先ほど見ていたドラマはもう終わっていて、ニュースが始まっていた。
『大型台風9号が関東に上陸した模様です』
 アナウンサーの声を聴いたは洗濯物をソファの上に置き、テレビを見た。
「うっわぁ・・・そりゃ風も強いわけだ」
 テレビの中では大きな雲が関東を覆っていた。

「あ、夕食の買い物できるかな・・・」
 あるもので代用しようかと考えたが、今日買いに行かないと何も無い。
 はふと思い出し、外を見た。

 まだ、雨は降っていない。
 行くなら、今だ。

「リコっ、良い子にしててね。すぐに帰ってくるから」
 財布だけ持って、は急いで出て行った。
 ワンッとリコは吼えて止めようとしたが、後の祭りだった。
 スーパーは家から近い。
 は傘も持たないで走っていき、買い物をしたのは良いが・・・


「な、なにこれ・・・」
 終えてスーパーから出るときには土砂降りだった。
 ギュッと袋を抱え、は仕方なく出て行った・・・のだが。
「ひゃあ〜なにっ!!この風!!!」
 もう外にはあまり人がいない。
 人目を気にすることは無いが、には一番気になることが。
「と、飛ばされる〜〜〜!!!」
 頑張って地面に足を置いていたが、本当に危ない。
 風のほうが威力が強く、今にも飛ばされそうだ。

 台風と言っても、機械にはあまり支障は無い。
 信号はその間も動いていて、人間は動いている限りそれに従わないといけない。
 は信号待ちに引っかかっていた。
 車は通らないが、無視をするのはどうも気が引ける。
「あ〜もう、早く・・・」
 無常にも、ここの信号は一度赤になると、なかなか青になってくれない。
 雨も強く、風によって矢のように降りかかる。
 袋もビショビショで、自身も髪の毛から水が滴るほど濡れていた。
 風のせいで回りに気を配れない。

「ぅわっ!」
 そんなとき、信号の向こうにいた人の傘が突如風で飛ばされた。
 傘はもう折れて使い物になっていなく、柄がむき出しになったまま、に襲い掛かる。
 しかし、は気を配れないせいか全く気付いていない。

 ガシャンッと大きな音が鳴った。
「へ?」
 横を見ると、自分とは違う手が伸びている。
「ったく、注意くらいしろよなっ!!」
 ふと、最近聞いていなかった声が聞こえた。
「し、志摩くん!?」
 風の中で見たのは、同じように濡れていた志摩だった。
「怪我してるところだぞっ!」
 危なかったという顔をしているが、当のは全く分からない。
「で、どうして志摩くんが!?」
「おれも買い物の帰りなんだよ!」
 の腕の中を見たのか、志摩はそう言った。

 丁度そのとき、遂に信号が青に変わった。

「志摩くんの家まで帰るの大変でしょ!」
 風の音が大きいせいか、も次第に声が大きくなる。
「おぅ、だからの家に非難しようと思ったんだよ!!」
 志摩の声も大きくなり、そう叫んだ。
 二人は雨風に耐えながら、の家に向かうことにした。

「ふぁっ・・・」
 途中、風の勢いが増して、の体が圧される。
「だぁーっもう!!!」
 志摩は咄嗟にの腕を掴み、自分の方に引き寄せた。
「ちょっ、なんなのよこれ!!」
 流石には恥ずかしかったのか、大声を上げる。
 人の目は気にしないのだが、志摩といると少し気になるのだ。
 志摩はのほうを向き、風に負けないほどの声で言った。
「飛ばされたいか!?」
「ぅっ・・・」
 図星だったせいか、はそれからおとなしく引き寄せられながら、帰路に着いた。


 無事、家の中に入った二人は、海の中に服ごと入ったかのようにびしょ濡れだった。
「リコ、お願い。バスタオル2枚持ってきて」
 中に入れば家中が汚れてしまうのはリコも思っていたことで、すぐに2枚持ってきた。

「はい」
 は同じようにびしょ濡れの志摩にバスタオルを渡した。
 志摩は礼を言って遠慮なく使った。
「お風呂沸かしながら行ったから、湧いてるよ。入ってきたら??」
「お前先に入って来いよ」
 今だ玄関にいる二人は、そんな話をしている。
 外の風の音が玄関まで聞こえる。
「私は2階の使うから、1階のお風呂使って」
「お、そうだったな」
 の家にはバスルームが二つある。
 彼女は2階のシャワーを使うことにした。

「着替えはお兄ちゃんのがあるから・・・それとも、私のスカート履く?」
 ニッと微笑んで言ったは、とても楽しそうだ。
「んなわけねぇだろ!!」
 志摩はそう叫び、床を汚さないように脱衣所に向かった。
「さて」
 志摩を見送り、2階の脱衣所に向かう前にダイニングルームで袋を置いてからも向かった。

 10分後、先に出てきたのはだ。
 湯船に浸かれば遅いのだが、シャワーだけな上に食材を冷蔵庫に入れないといけない。
 出ると、すぐダイニングに向かって食材を入れた。
 そして机の上を拭いて、ソファの上の洗濯物を畳み始めた。

 それから10分。ほとんど畳み終えたときだ。
、早いな」
 兄の服を着た志摩がお風呂から出てきた。
 服は少し大きいらしく、志摩が着るとぶかぶかだ。
「うん・・・って、あはは!」
 その様子を見て、は思わず笑い出す。
「なんだよ」
「ぶかぶかじゃない!」
「わ、笑うなっ!!」
 志摩は少し赤くなって、そう怒鳴った。
 はやっと笑うのを止め、洗濯物を畳む。

『台風は以前勢力を保ったままです。関東はかなりの影響が出ていると・・・』
「かなり影響でまくりだよなー」
 志摩はソファに座ってそう言いながらテレビを見ていた。
「ほんとほんと、香ちゃんも仕事できてるのかな」
 は床で洗濯物を畳み終え、そう言って立ち上がった。
「よっ、と」
「おばさんみたいだな」
「煩いよお子様」
「んだとぉっ!!??」
 志摩は挑発に乗って立ち上がった。
 それにニッと笑った

「立ったなら手伝って!」
 志摩の両手に洗濯物を乗せた。
 先に行くに、志摩は一言。
「やられた・・・」

 洗濯物をしまうと、二人は寛いでいた。
 今だ雨風は強く、窓がガタガタと震えていた。
 なんか、久しぶりだなー。
 はそう思った。

 最近志摩には会ってないし、こうやって二人きりなのも久しぶりだ。

 嬉しい。
 志摩も意識は無いが、そう思っているのかいつも以上に楽しんでいる。
 二人は、いつもよりも沢山の会話を交わした。



 やがて、風や雨が一時的に収まった。
 台風の目に入っているのだろう、静かなほど収まった。
「あ、乾燥機乾いたよ」
 機械音を聞き、は乾燥機から志摩の服を取ってきた。
「おー、じゃあ今のうちに帰るな」
 窓の外を見て、志摩はそう言った。

「うん・・・またおいでよ」
 寂しいという感情を抑え、は微笑んだ。
 志摩は頷き、
「こんどはおれの家にも来いよ」
 と言って、そんなの頭を叩いた。
「痛いってば」
「じゃあな」
 可笑しそうに笑い、志摩は玄関を出た。


 またしても、来る静寂。
「・・・・・・・・・」
 でも、心はいっぱいだった。

「さて、リコ。ご飯つくろっか」
 リコはワンッと吼え、嬉しそうに尻尾を振っている。

 は当分静かでも、笑顔でいられるだろう。



 ま、そんなことは無いんだけどね。

「よしっ、今度志摩くんのお家にいこうかな」