「どーも、今日はよろず屋東海道本舗です」
永倉 の声が木霊した。
ここは、市民体育館だ。
「英田 真央さん、御用改めです!」
そこにいた女性に、の声が聞こえる。
途端、ダッと駆け出した。逃げるつもりだろう。
しかしはニッと微笑んでいた。
「逃がさないんだから」
2つある出入り口から、志摩と香が出てくる。
「!!」
真央は逃げられない。
「依頼完了だなっ!」
余裕そうに志摩はに向かってそう言った。
すると、血迷ったように真央は懐からナイフを取り出し、志摩に襲い掛かった。
「志摩さん、危ない!!」
香の声に志摩は振り向いたが、遅かった。
「ムダだって」
の微笑みは変わらない。
黒い棍を一瞬で組み立て、素早く投げた。
棍は勢いよく飛んで行き、真央のナイフにぶつかった。
「きゃあっ!」
真央は倒れ、ナイフは棍と共に壁に当たった。
「あ、あぶね〜」
志摩は冷や汗を隠さないで呟いた。
そして、棍を拾ったに礼を言った・・・が。
「いいのよ。志摩くんはよくやるミスなんだから」
「なっ!!たまにだよッ!!こそニアミスが多いぞ!」
「何ですってぇ!?」
「なんだよぉっ!!」
いつものケンカに香は呆れながら、
「二人とも、今の状況を考えろよ・・・」
「香ちゃんはいいから!!!!!」
「はぁ、・・・ごめんね」
一斉に言われた香は、ため息を付きながら真央に言ったとか。
「はぁ〜依頼も終わったな!」
やがて香の奢りで志摩とはアイスクリームを食べていた。どうやら餌付けされていることは気付いていないようだが。
「あ、そーだそーだ」
は鞄から先ほど取ったチラシを取り出した。
そしてそれを美味しそうに食べる志摩とそれを見守る香に見せた。
「今年もやるんだって、夏祭り!」
チラシには大々的に夏祭りと書いてあった。
明後日あるらしい。
志摩はそれを食い入るように見ていたが、香は申し訳なさそうに言った。
「、俺はいけないよ。地方にいる」
「あー・・・そっか・・・」
確かに、地方からここまでは無理だ。
それに香はモデルの「キョウ」なため、結構な混雑になるだろう。
「じゃあ志摩くん一緒に行こうよ!」
しかし、彼の反応は無い。
食い入るようにチラシを見たままだ。
「・・・・・・・・・コレ、出るぞ。」
「にゃ?なに??」
わなわなと震えた志摩の手から、チラシを奪って見てみた。
後ろから香も見ている。
そこにはこう書いてあった。
『恋人コンテスト開催!
来たれ、カップル!二人で様々な障害を乗り越えて、愛を確かめあえ!
1番に障害を乗り越えられたカップルには、金一封をプレゼントッ!』
「恋人ぉっ!!?」
は声を出して叫んだ。
香は「お?」と、ちょっと進展した二人を楽しそうに見ていた。
しかし、進展したのではない。
むしろ、留まっているままだ。
「金一封だ!絶対ゲットしてやる・・・」
「「・・・あぁ、そういうことか」」
二人は声を揃えて言った。
がっかり・・・
は何故か項垂れた。
金一封を狙って出場する志摩にがっかりしたのだが、彼女は分かっていないせいか、そのあと何も言わず首をひねる。
「まぁいいけどさ」
「おぅっ!!!!」
志摩の威勢の良い叫びは、無常にも高く響いた。
「いらっしゃい、莉璃に飛鳥!」
翌日、の家に友達二人が遊びに来た。
「相変わらずでかい家ね」と、莉璃が苦笑気味に言っているのを敢えては流した。
「どうぞ、リビングへ」
はリコとともに、莉璃と飛鳥を迎え入れた。
「ね、莉璃。飛鳥。明日の夏祭りはいくの?」
はお茶と茶菓子を持ってきたなりそういってみた。
二人とも、首は縦に振る。
「うん・・・部活の後輩と」
ちょっと紅く頬を染めて、莉璃はそう言った。
「あ、もしかして最近出来た彼氏?」
飛鳥の言葉に莉璃は頷く。
「そういう飛鳥は、誰と?」
の言葉が聞いたのか、飛鳥も同じように頬を染めた。
「聞かなくても分かるでしょ?」
莉璃が言うと、もっと紅くなる。
「あぁ、彼氏か」
「そう・・・だけど、こそ誰と行くの?」
飛鳥の言葉により、矛先がに向く。
「え?志摩くんと」
「「あーやっぱり」」
な、なんでやっぱり!?
が疑問符をつけて思っていると、丁度良いタイミングで飛鳥から返ってきた。
「だって、好きでしょ?志摩くんのこと」
「はぁっ!?何で!?」
立ち上がった拍子にバシャッとリコに紅茶がかかる。
リコはキャウンと鳴いて、玄関に向かった。
「あーごめんリコッ!!」
一応謝って、片付けてはいたが・・・
「私って志摩くんのことが好きなの?」
ふと、手を止めては莉璃と飛鳥のほうを向いた。
・・・・・・
・・・・・・
沈黙の後・・・莉璃と飛鳥はお互いに見合わせた。
「「気付いてなかったわけ!?」」
「えっ!?」
「あんた、志摩くんが好きなのよ!」
「今まで気付いてなかったなんて・・・今度から『鈍』って呼ぶことにする!」
それでも、は唖然としていたようで、
「・・・・・・ひょっとして、ちょっと危なくなったときに志摩くんを思ってたのは好きだからっ!?」
「「そうそう」」
「じゃあ、そのとき志摩くんが来たとき、ホッとしたのも好きだからっ!?」
「「ごもっとも」」
「じゃあじゃあ、夏祭りの恋人コンテストに出場しようって志摩くんが言った理由が金一封で、
それでがっかりしたのはやっぱり好きだからなのっ!?」
「「そうだって・・・・・・ん?」」
莉璃と飛鳥の動きが止まる。
は一人、「好きだったのかぁ・・・」なんて納得している。
「ちょっと待って、と志摩くん恋人コンテストに出場するの!?」
「・・・って、飛鳥もなわけっ!?」
も動きが止まり、3人が停止した。
ただ一人何も知らないリコは、能天気とばかりにくしゃみをした。
「じゃあ、私たちライバルね」
ニッと莉璃が微笑んだ。
「でも、私が勝つと思うけど」
飛鳥も微笑む。
「私と志摩くんのよろず屋コンビを舐めないで欲しいわね」
も不敵に微笑んだ。
「志摩が好き」だということはふっ飛び、「コンテスト1位」ということのみが頭の中に浮上していた。